レナの魔術師~魔法を使うのには詠唱が必須なのに生まれた時から喋れない?~
シファニクス
Prologue
Prologue 生誕。
そんな人間を
それからさらに千年ほど、人間は他種族とも交流を深めながらさらに生活圏を拡大させ、その手は大陸のほぼ
そしてそんな人間たちの国の一つ、オスティロ帝国の辺境、スラナ村。そこに住む夫婦の間に、一人の娘が生まれた。
その名をレナ。瞳は
妻レイナと夫リディアの間に生まれたその娘は二人の
「え……先生、今、なんて?」
出産直後。出産に立ち会った医師から少なくとも祝いの言葉ではないその言葉を聞いたレイナは、不安そうな顔でそう言って、隣に寄り添うリディアは顔から笑みを消していた。
「娘様は、ネイトです。ネイチャーは《
「「……」」
ネイト。それは神の
医師は申し訳なさそうな、
そこに映ったのは、三人分の笑顔。
「そうですか。なら、私たちは言葉がなくても
「よし、それならいつか俺の魔道具で会話が出来るようにしよう!」
「いいわね。じゃあ、しっかり元気に育てないと」
医師は二人の前向きな姿勢を見て、驚きを隠せないようだった。だが、そんな二人に囲まれて、キャッキャと嬉しそうな笑みを浮かべるレナの笑顔、それを見た医師は柔らかい笑みを浮かべて言うのだ。
「あなたたちに祝福があらんことを、祈っておりますよ」
「ありがとうございます」
「お世話になりました」
その後レナを連れたレイナとリディアは家に戻り、子育ての支度を慌ただしく始めたのだった。
そして、六年が経った。
二人の子どもにはとある魔石の名である、レナ、と言う名前が付けられ、二人に可愛がられた。
レナはすくすくと育ち、言葉が話せないながらもレイナたちと幸せな日々を過ごしていた。どこかレイナの面影を帯びるようになり、レイナに似た流れるような
ある日の昼下がり、レイナが先端が曲線を描き、その曲線の内側に赤色の水晶玉のようなものが
レイナの抱える杖に興味を持ち、それに指をさして小首を
「これはね、魔法の杖よ。これがあれば、魔法を使えるのよ。……ねえレナ、あなたも魔法を使ってみたいと思わない?」
魔法。
それはこの世界に
時たま地上に姿を現すという古竜の子孫、
それでも人間は自らの知恵を
一昔前はそれなりに人々を
「お母さんが村の魔術学校で魔法を教えているのは知ってるわよね? 今度、そこに入学しましょう。どう? 今はまだ無理だけど、リディアが喋れるようになる魔道具を作ってくれるわ。そうしたら、魔法を使えるようになる」
レナは言葉が話せない。それでもレイナとリディアの必死の努力とレナの頑張りによって、誰かに話しかけられる分にはある程度理解できるようになった。それでも他の子どもと比べれば理解が遅いのだろう。レナはしばらく間を開けてから、ゆっくりと首を縦に振った。
「よかった」
レイナはそう言うと、杖を壁に立てかけてレナの脇に両手を入れて持ち上げる。
「学校、頑張りましょうね」
レイナが優しく言うと、レナはレナの背中に両手を回して
「それじゃあレナ、早速来月から行くわよ」
レナを地面に降ろしたレイナは
それから二週間が経った。
その学校は村の中心にあって、村に住む人ならだれでも知っているような場所だ。村唯一の魔術学校であると同時に村唯一の学校であるため文学や体術、算術なんかも教えているが、あくまで
レイナはもともとそれなりに高名な魔法使いであるため、この学校で教師を任されていた。今は一人で三十数人の生徒たちに魔法を教えており、村中から感謝されているらしい。そして今回、生徒たちの一人に自分の娘を加えようと言うのだ。
スラナ村の魔術学校は優秀なものだけが通う都会の魔術学校と違い、皆が最低限の魔法を使えるようになることを目的に活動している。
人が扱える最低レベルの魔法、
多少
魔物に対抗したり
扱えればそれだけで即戦力となる、
そして、争いごとで主力になるほどの威力を
それぞれ派生する魔法があるため種類はこれらに限らないが、人が扱える魔法は大まかにはこの五つに分けられる。スラナ村の魔術学校では全生徒が基礎魔法を覚えるのが目標であり、才能のある者には初級魔法を教えることもある。
中級魔法以上は扱い方を間違えれば大事になりかねないので試験が必要で、スラナ村では数年に一人、扱えるようになるものが出るかどうかと言った所のようだ。
そして入学の日、レナはこじんまりとした教室の黒板の前に立っていた。今までほとんど家を出たことがなかったレナは、三十人近くいる子どもたちに見つめられてカチコチに
「レナ、自己紹介をしてね」
レナは一つ
その拍手に応えるように、レナは腰を曲げてお
それを満足そうに見た後で、レイナは
「この子はレナ、私の娘です。生まれつき言葉が話せなくて、みんなとお喋りすることが出来ないけど、お手紙でお話ししてくれると嬉しいわ。みんな、仲良くしてあげてね」
「「「はい!」」」
「っ!?」
レイナの声に教室中の子どもたちが一斉に返事し、大きな声にびっくりしたレナが大きく肩を震わせた。
「それじゃあレナ、一番後ろの席に座ってね」
レイナに言われて、レナは
一つ胸を
そこには、綺麗な青髪と宝石のような輝きを持つ青い瞳の少女がいた。外見的にはレナより二つ、三つ上だろうか。この学校には若くて六歳、上は十五歳ほどの子どももいる。年上なのは間違えなさそうだ。
少女とレナの視線が合った。少女はレナに
「よろしく、レナさん。私ミリア」
突然話しかけられたレナは、何をしていいか分からない様子だったが
それを机の上に置いて、文字を書く。書き終えて、ミリアに見せた。
「よろしくお願いします? うん!」
ミリアは書かれた文字を読み上げて嬉しそうに笑って見せた。
「ミリアさん! まだお話は終わってませんよ!」
「あ、クライヤ先生、ごめんなさい!」
レイナに呼ばれたミリアがすぐに体を前に向けてそう言い、レナも小さく肩を震わせてからつられて前を向いた。それを見届けたレイナが改めて話を再開する。それを見てからミリアは再び小さくレナの方に身を乗り出す
「怒られちゃったね」
ミリアはそう言って小さく笑った。
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