第3話 辿り着いたこの世界は
「うわー、知ってる土地に知らん大規模施設」
正門に到着した第一声がこれである。俺の世界にもこの土地に学校はあったが造りがまるで違うのだ。漆輝たちの通う
「たくさん建物があるけどどれが俺らの校舎なの?」
「あそこが市内にある六つのキャンパスの頂点。私たちが通っている
正門を抜けてすぐの案内看板を指して教えてくれた。
高等部から外部進学を受付ている為か、高等部にだけ六つのキャンパスが存在する。唯一本校の敷地内に校舎がある上澄みの尋徳。秀才が集う
「冠位で草」
「くさ? 何か気になる植物でもあった?」
「ん? あー……なんでもない」
そうかこの時期はまだ草よりワロタの方がドラマの影響もあって圧倒的にメジャーだったな。危うく婚約者に陰気な野郎だと漆輝のイメージを地に落とすところだった。すまん漆輝。
「私たちのネクタイやリボンに紫が入ってるのはその影響ね。でも詳しくは覚えてないけど『徳高い男を尋ねた者たちの学舎』が由来だから尋徳は元々冠位と関係ないのよね。そもそも尋徳の前進は鵜鸞学園よりも歴史があるし」
「へー。じゃあ他の校舎は関係あるのか」
「確かベビーブームの影響だったかな? 生徒数の増加とレベル別の指導をするために一貫校の話が出て新校舎を建てることになったらしくてね」
「ほぉ、自分の実力に合った環境で学べるのいいね」
「そのタイミングで他の学校と併合する話がでて、ちょうど六つの校舎があるんだから冠位十二階に肖ろうってなったみたいよ」
「何がちょうどだよ。六つしかないのに肖り方雑すぎんか?」
聞くところによると大戦で若年ながらさまざまな武功を上げたアツミタカシなる人物が、戦後故郷で復興の手伝いをする際に、「異能で故郷の役に立ちたい。上手く扱えない者や異能を扱える者。活かしてやるから俺の元へ来い!」と呼びかけ、当時の偉い人や華族の力添えもありできたのが鵜鸞学園の前身らしい。旅ガラスに縁がありそうな名前からは想像できない定住っぷりだ。
かつてここは軍隊の街といわれていた。空襲によって焼失した複数の学校の落ち着き先として師団跡地が脚光を浴び、彼を慕う能力者たちを中心にたくさんの能力者が住み着くようになり賑わうようになった。この地は異能の街として生まれ変わったそう
「やっと大学エリア抜けたけどさ、設備凄すぎて普通にドン引きなんだけど。この学校なんかめちゃくちゃ豪華じゃない?」
所々俺も見覚えのある師団で使用されていた建築物を活かしているが、敷地内の道や中庭もふんだんに金をかけて整備され、小洒落た公園といった風情だ。コンビニはもちろんのこと食堂は学園内に三カ所もあり、そのうちの一カ所は尋徳校舎つまり高等部の敷地内にあるらしい。大学エリアで食堂を見かけたがあれは食堂というより小洒落たカフェテリアのようだった。学費がアホみたいに高いのか知らないが、パッと見ただけでも考え得る限りあらゆる設備が備わっているように見える。
「言われてみればそうよね。私たちは小学生の頃からここに通ってるから感覚麻痺してたわ」
「私たちって俺もなの? とてもウチのおとんおかんに払えそうな学費じゃない気がするんだけど」
「生徒の実績や成績によって学費の減額や免除だったりいろいろ制度があるのよ。そもそも貴方で通えないなら世界中の能力者誰も通えないわよ」
男と生まれたからにはと言うが如何に努力なしをモットーに生きてきた俺に最強は身に余る。
「鵜鸞学園は国内トップにして最大の能力者育成学校だからここ出身の成功者も多い。そんなわけで寄付金額が凄いのよ」
「……なんと麗しい母校愛」
「どっちかといったら優秀な能力者を卒業後迎え入れるための投資? みたいなものだと思うけどね」
「へー、じゃあ俺の取り合いになってそうだな。はぁーモテる男はつれーわ」
「貴方はもう決まってるからつらくなる必要ないわ」
「決まってるの?」
「気になる?」
「いやなんというか最強という肩書きあっても労働者にならなあかんのかと世知辛さを痛感してる」
元の世界でも大卒で無職は流石にどうかと思い嫌々労働者をしていた時期もあった。エリートニートを出来ていたありがたみが心に沁み渡る。
「着いたわ」
「結構歩いたな」
「正門から入ったからね」
「なんでわざわざ遠回りしたの」
「何か思い出すかなって」
「他にも制服の人いたとはいえ制服姿で大学エリア突っ切っるのは恥ずかしかったわ」
大学エリアは基本一般開放されているため道のショートカットや食堂などを利用している地元住民も少なくない。そもそも見た目こそ高校生の俺だが中身の俺はアラサーだ。あんなに願っておいてなんだが学生服を着て外出していること自体コスプレしてるみたいで恥ずかしい。
「じゃあ明日からは南門からにする?」
「近い方でオネシャス」
クラスは新学期早々冬休み何していたかの話題で賑わっている。
「このクラス外人多いね」
「そりゃそうよ。日本最高峰の学校なんだから各国の優秀な高校生がいてもおかしくないでしょ」
なんとも国際色溢れる面子が揃っている。パッと見でクラスの五分の一は外国人だろう。人種が同じ場合も考慮すると実際はもう少し多いかもしれない。ほぼ日本人に囲まれた環境で学生生活を過ごしてきた身としてはちょっと圧倒される。二十年代風に言えばこれも多様性といったところなんだろうか。
「漆輝と膤さん遅かったな」
声の方に振り向くと見知った顔があった。
「おっ!
俺の世界で弥生は市内で一番の進学校に通っていたからもしかしたらいるかもしれないと思っていたが、幼馴染の
「弥生ちゃんはやめろ。女っぽく聞こえるだろ」
「女々しくてつらそう」
そう言うと弥生に小突かれた。
「正門から入ってきたから遅くなったのよ」
「なんでわざわざ遠回りを?」
「新年初登校は心機一転気を引き締めて正門からって決めてたんだよ」
「はぁ?」
そこは「へぇー」で流せよ。特別気になるようなことでもないだろうがよぉ。
「ちょっとしたデートよ」
膤が咄嗟にフォローにまわる。
「そ、そう! デートデート。いやぁ弥生きゅんも女の子に愛されたいね?」
「プッツーン。はいこれから漆輝に課題みせないのけってーい」
「別にいいし。俺には膤ちゃんがいるから膤ちゃんに見せてもらいまーす」
「見せないわよ」
「ん? なんて?」
「課題を見せないと言ったの。今のは貴方が煽るのが悪いし、そもそも課題くらい自分でやりなさいよ」
「はーっはっはっはーざまーみろ」
「俺も反省してるようだし許してやったらどうや」
「ん? なんて?」
こ、こいつぅ。
「……ね」
「セイ イット アゲイン」
耳に手をかざしながらわざとカタコト英語で煽ってやがる。
「ごめんね!!!」
小学生が謝る気がないのに無理矢理謝らさせられた濁点がついてるような謝罪をすると、弥生は満足気な笑みを浮かべていた。俺の世界の弥生と性格は変わらなさそうだ。
「課題はともかくテスト大丈夫そうか?」
「なぁにそれ?」
「お前……マジか」
「終わりだ」
「とかいいつつ、いつもなんだかんだそれなりの点数取ってるしまだ数日あるんだからなんとかなるって」
どうやらこの世界の俺は勉強が結構できるらしい。俺もちゃんと勉強する気があればこれくらいできたのだろうか。なんというか現役時代に活かされなかった己のポテンシャルを異世界で知り虚しくなる。
笑って励ましてきた弥生に愛想笑いをするもすぐに真顔で膤に視線を送り助けを求めるが膤も盲点だったようで視線が泳いでる。今俺は顔が絶望で白くなってる気がする。
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