第47話 妖楼温泉街編(4) 熱湯恋試練ノ章

桃馬たちが化堂里屋で楽しんでいる頃。


一方で、妖怪の温泉街にて"もふもふ"の妖怪を探しているシャルとギールはと言うと、温泉街の大通りを中心に捜索を進めるが、未だに"もふもふ"の妖怪と出会えずにいた。


ここまでシャルを肩車しながら歩き回っていたギールは、一旦捜索を中断して近くの広場にある椅子に腰を下ろしていた。



ギール「うーん、見つからないな。これだけ探し回って見れば、一人や二人くらい出会いそうなんだけどな。」


シャル「うぅ、や、やっぱりいいのだ…。もう、この件は諦めて皆の所へ戻ろう。」


ギール「‥っ、らしくないな?」


シャル「…こんな事しても、余は楽しくないのだ。」


ギール「……そうか、俺は楽しいけどな?」


シャル「……嘘なのだ。」


ギール「っ、な、何でそう思うんだ?」


シャル「だって……、ギールの尻尾が垂れているのだ。」


ギール「っ!?」


流石は、共に私生活を送っているだけの事はある。


ギールの細かい癖など、完全にシャルの知る所であった。


シャルから的確な指摘を受けたギールは、慌てて尻尾を振り始めるが、今更シャルに通じる程甘くはなかった。


するとそこへ、小さいかさを被った一人の子供が声を掛けて来た。


?「あ、あの、すみません。もしかして、ギール様とシャル様でしょうか?」


ギール「んっ?えっ、えっと、そうだけど、君は誰だい?」


豆狸「あ、すみません、私は、若様‥じゃなくて、両津直人様からの使いでお迎えに上がりました、豆狸の……。」


目の前の子供が、身元を明かしながら頭に被っていたかさを取ると、何とも綺麗な茶髪と共に"もふもふ"とした狸耳が現れた。


これを見たシャルとギールは、獲物を見つけた狼の様な強い眼差しを向けながら、小さくて弱々しい豆狸くんに迫り寄った。



豆狸「はひっ!?あ、あの〜、も、もしかして人違いでしたか…ひゃい!?」


二人の威圧に人違いをしたかと思った豆狸くんは、異様なオーラを漂わす二人を恐れて去ろうとするが、シャルに尻尾を掴まれてしまった。


弱点である尻尾を掴まれた豆狸くんは、体の力が抜けてしまい、体勢を崩しながらギールの体にしがみついた。


これに対してギールは、何とも可愛らしい豆狸くんに心を奪われてしまい、頭と耳を"もふり"始めた。


一般的な化狸ばけたぬきとは違い、色々な面で未熟な豆狸は、弱点である耳と尻尾の快感に耐えきれなかった。


そのため、けも耳ショタの姿になっている豆狸くんは、変化へんげによる化術ばけじゅつに集中できなくなり、徐々に小さな狸の姿へと変わっていった。


すると豆狸くんは、更に二人から"もふ"られてしまうのであった。



その頃、化堂里屋では‥。


桜華「第二回戦♪熱湯だるま落とし~♪」


女子一同「いえーい♪」


ドンドン!パフパフ!


余程熱湯系のゲームにハマったのか。


仕掛け側の女子たちは、次なる熱湯系のゲームを始めようとしていた。


これに対して被害者側の桃馬たちは、まだある熱湯系のゲームに驚愕しながら、この施設に関して詳しいであろう直人に詰め寄った。


桃馬「おい、直人。ここは熱湯しかないのか?」


直人「ま、まあ、ここは"灼熱湯しゃくねつゆノ間"だからな。ここで遊ぶなら熱湯系しかないぞ?」


桃馬「うぐっ、も、文字通りって事か……。」


憲明「ち、ちなみに熱湯系はいくつあるんだ?」


直人「そ、そうだな、少なからず五ヶ所以上はあるかな。」


憲明「ま、まじか。」


ジェルド「わぅ〜、このまま熱湯に落とされ続けたら、自慢の毛にダメージが入ってしまうよ。」


施設の名前が"灼熱湯ノ間"と言う時点で、熱湯系しかない事は薄々気づいてはいたが、当分出られそうもない状況下の中、桃馬、憲明、ジェルドの三人は落胆した。


するとそこへ、体が弱いと言う理由で先程の競技に参加していなかった晴斗から、らぬ提案を持ちかけられる。


晴斗「熱湯が嫌なら、氷のプールとかもあるよ?」


直人「っ、お、おい、ばか!?それは洒落にならないぞ!?」


桃馬「おい晴斗……、まさかだと思うけど、自分は罰を受けないからって適当な事を言ってないよな?」


晴斗「ま、まさか〜、俺はただ、熱いのが嫌なら冷たいのがいいのかなって思っただけだよ?」


憲明「いやいや、例えそうだとしても段階を飛ばし過ぎじゃないか!?」


ジェルド「そ、そうだ!自分は罰を受けないからって横暴が過ぎるぞ!」


晴斗「まあまあ、氷って言っても"一つ"しか入ってないから安心してよ。」


憲明「はっ?ひ、一つ?」


桃馬「うーん?何で"一つ"なんだ?」


ジェルド「わふぅ?」


"なぞなぞ"染みた晴斗の言葉に、三人の男たちが疑問に思う中、ここで直人から衝撃的な種明かしを受ける。


直人「まあ、"一つ"って言っても、氷山みたな"でけぇ"氷がプールの中央に浮かんでいるんだけどな。」


桃馬「はっ!?そ、それじゃあ、安心のくそもないじゃないか!?」


憲明「うわぁ、悪意あるな。」


ジェルド「結局横暴じゃねぇか!?」


結局、安全地帯にいる晴斗の提案は、案の定、他人事の様な悪意あるものであった。


晴斗「むぅ、すぐに種を明かすなんて直人もノリが悪いな〜。」


直人「悪いもくそもないよ。もし三人に教えなかったら俺まで巻き添い食らうだろうが。」


晴斗「うーん、それもそうか。」


直人「っ、おいおい、まさか俺の事を考えてなかったのか?」


晴斗「あはは、まさか〜、少しは考えていたさ。」


直人「……じゃあ、何を考えていたんだ?」


晴斗「えっ、あ、それは〜、その〜、そ、そもそも直人の事だから、面倒事に巻き込まれる前に、こっそりリールとエルンを連れて逃げるだろうと思ったからね〜。」


実際何も考えていなかった晴斗は、いつも通り受け流すだろうと思っていた直人からの尋問に少々取り乱したが、ご自慢の弁舌で直人ならやりかねない指摘を持ち込んだ。


直人「っ、うーん、た、確かにそうするかもな。」


本来冒頭で怪しむ所であるが、晴斗からの的確な指摘を受けた直人は、そのまま晴斗に言いくるめられてしまった。


桃馬「……。(晴斗め……、相変わらず口が上手いな。)」


憲明「……。(いくら文句を言っても、簡単に言いくるめてしまう、あの言語力……。ここで直人を言いくるめる事で、俺たちの反論意欲を削がせようとしている可能性だって考えられる……。もしそうなら、本当に恐ろしい男だ……。)」


ジェルド「グルル。(……くっ、晴斗相手に言葉で挑んでも絶対に勝てない。あの晴斗に一泡吹かせてやるにはどうしたらいいんだ……。)」


目の前で直人が晴斗に言いくるめられた事で、舌戦による反論意欲を削がれた桃馬たちであったが、ジェルドだけは、晴斗に一泡吹かせようと機会を伺っていた。


するとそこへ、少し男子たちの様子がおかしい事に気づいた小頼が、気になって声を掛けて来た。


小頼「こら〜、男子たち〜。またそんな所で集まったりして、今度は何を話しているの?」


晴斗「あ、いえ、大した事じゃないですよ。ただ、"だるまの上に誰が立つのか"で、話し合っていたんですよ。」


小頼「ああ〜♪なるほどね〜♪それで、誰が上になるか決めたの?」


晴斗「えぇ、既に……。」


直人「……えっ?」


桃馬「っ?」


憲明「はっ?」


ジェルド「わふっ!?」


小頼に声を掛けられた事で、一瞬晴斗が氷のプールの話でもするのかと思っていた桃馬たちであったが、まさかの"だるま落とし"の役決めの話に発展させた事で、四人の男たちは驚いた。


するとここで、晴斗に対して一泡吹かせてやりたいと機会を伺っていたジェルドが、一つの秘策を思い付く。


ジェルド「っ、(し、しめた!ここでだるま落としの上に晴斗を乗せれば、必然と晴斗を熱湯に落とす事ができる!)」


晴斗「だるま落としの上に行くのは……。」


ジェルド「っ、(まずい、早く晴斗を推薦しないと!?)」


晴斗に先手を打たれる事を恐れたジェルドは、急いで晴斗と小頼の会話に割って入った。


ジェルド「こ、小頼!」


小頼「ふぇ!?ど、どうしたのジェルド?」


ジェルド「え、えっと、その〜、だるまの上なんだけど、本当なら俺が登る予定だったけど、ここは晴斗に譲ろうと思うんだ。」


晴斗「……ふっ。」


目には目を歯には歯を、作り話には作り話を。


晴斗の作り話に便乗したジェルドは、更に自らの作り話に繋げた。


すると晴斗は、不敵な笑みを一瞬だけ浮かべた。


小頼「ほう~、ふっふっ、自信があるようだね~♪」


直人「っ、お、おいおい、何を言ってるんだジェルド!?まさか、だるま落としのルールを見てないのか!?」


ジェルド「えっ?だるま落としって、テレビやゲームとかでよくある五、六段くらいの段に乗って一つずつ下から倒していくやつだろ?」


直人「っ、はぁ、ここのだるま落としはそう言うのじゃないよ。ほら、これを見ろ。」


ルールが書いてある案内板をろくに見ず、まんまと晴斗の口車に乗せられたジェルドは、ため息をついた直人に腕を引かれ、ルールが書いてある案内板の前に立たされた。


そこには、勾配のある坂の上から、そのままだるまを落としている絵が描いてあった。


そして、ルールには。


一つ、五人以上推進。


二つ、坂の上からだるまを落とす役人と、下から役人を引きずり落とす罪人を決める。


三つ、制限時間を任意で設定し、制限時間内に役人を全員引きずり落とせば罪人の勝ち。


四つ、制限時間内に役人を引きずり下ろせなかった場合、滑る液体が流れ問答無用で罪人役は熱湯に落とされます。


五つ、坂の下には熱湯が常備されているため、だるまに当たった罪人役は、そのまま熱湯に落ちる可能性があります。


六つ、他オプションについてはお好みで。


七つ、熱湯に落ちた際は、すぐに天国のぬる湯へとお入りください。


以上。


ジェルド「……と言うことは?」


直人「また、晴斗が安全圏ってことだ。」


ジェルド「じゃあ、さっき小頼が"自信があるようだね"って、言った意味は……。」


直人「安全地帯を蹴った事に驚いたんだろうよ。しかも、晴斗の危険な作り話に便乗して罠に掛かって……。」


晴斗「いや〜、悪いねジェルド〜。ジェルドの気持ちは有難く受け取るよ♪」


ジェルド「〜〜っ!?」


桃馬「あぁ〜あ、完全に花を持たせた感じだな……。(さ、流石晴斗だな。やっぱり、竹中半兵衛の名を取って、周りから"半兵衛"と呼ばれる事はある。)」


憲明「しかも、小頼の前で顔を立てたからな。これは退くにも退けないな。(まさか……、これも晴斗の策略なのか……。でも、どうしてジェルドが動くって分かったんだよ。)」


晴斗の先読みに心から関心と驚愕する桃馬と憲明は、明らかに仕組まれている晴斗の謀略に何も口出しが出来なかった。


その頃、スライムのディノはと言うと……。


ディノ「ふぅ~♪このお湯はさっきよりも熱いけど最高ですね~♪」


先程の床抜けで熱湯に落とされてから、すっかり熱い湯の虜になったディノは、スライムの姿で熱湯に浸かっていた。


ちなみに、この灼熱湯ノ間の熱湯は、全て温泉の源泉から汲み上げているものであり、これでも安全上を考慮して少し冷やされている。



憲明「さ、さっきよりも熱いだと‥‥。」


桃馬「てか、熱湯の温度はどうなって…っ、五十五度‥‥。うぅ、ジェルドの毛が無くなるかもな‥。くそっ、絶対にジェルドを落とせないな。」


憲明「‥てかその前に、女の子を落とせる様な温度じゃないよ。こうなれば何としてでも、坂を登りきって難を逃れるしかないな。」


直人「それしかないな。(…てか、こんなに熱かったかな。)」


こうして熱湯に浸かるディノを引き上げた五人揃った罪人たちは、再び白い着物を着るなり開始位置に着いた。


すると早速リフィルが、坂の上から手慣れた感じで桃馬たちを煽り始める。


リフィル「さぁ、男たちよ♪この坂を登れるものなら登ってみせよ!」


憲明「おぉ、登ってやるとも!登ったらお仕置きしてやるから覚悟しろよリフィル!」


リフィル「いや~ん♪憲明ったら大胆♪」


憲明「よーし、今すぐに行くからな!」


ジェルド「よし、俺たちも‥きゃふっ!?」


意気揚々と坂を登り始める憲明の姿にジェルドも続こうとするが、突如直人に尻尾を掴まれ阻止された。


直人「……待て、何か妙だ。」


ジェルド「な、直人!?いきなり尻尾を掴むなよ!?」


直人「わ、わりぃ、何か嫌な予感を感じたからついな。」


ジェルド「嫌な予感?」


桃馬「あぁ、俺も同じ意見だ。」


ディノ「えっと、何と言うか。あからさまな挑発ですよね。」


ジェルド「っ、そ、それなら、どうして憲明を止めないんだ?」


直人「止めるも何も、あれは手遅れだと思って。」


桃馬「俺も同じく……。まあ、見ていればすぐに分かると思うよ。」


まんまとリフィルの挑発に乗せられた憲明が、途中まで難なく坂を登り進める中、するとそこへ、坂の上からヌルヌルとした黄緑色の液体が流れ始めた。


憲明「なっ、へぶっ!?な、何だこれはぁぁ〜!?」


物凄い勢いで滑り落ちて来る憲明に対して、二次被害を受けたくない桃馬たちは、ご親切に端へ寄るなり、憲明が熱湯へ落ちる瞬間を見守った。


憲明「ぎゃっあっちぃ〜!!?」


勢いよく滑り落ち、そして勢いよく熱湯へ落ちた憲明は、想像を絶する熱湯の熱さに思わず飛び跳ねながら脱出し、近くにあった天国のぬる湯へと入った。


最初の犠牲者となった憲明の反応に、その場の全員が爆笑する中、ちょっと悲惨な光景に少し心配した桃馬は、天国のぬる湯でぐったりとしている憲明に声を掛けた。


桃馬「憲明ー!生きてるか?」


憲明「はぁはぁ、やばい……、さっきの温度と比べ物にならない……。」


桃馬「おいおい、マジかよ。えーっと、取り敢えず憲明は失格って事で良いのか?」


憲明「もう、それでいいよー!」


想像を超えた熱さを味わった憲明は、もう熱湯には入りたくない思いからリタイヤを宣言した。


するとここで、何かしらの悪意を感じた直人は、晴斗に対して疑惑の質問を投げ掛けた。


直人「おいこら、晴斗!まさか今の制限時間"五秒"とか言わないよな?」


晴斗「まさか、流石の俺でもそんな鬼畜仕様にはしないよ?」


直人「じゃあ、何秒だ?」


晴斗「十秒だよ。」


直人「ちょっおまっ、全然鬼畜じゃないか!せめて三十秒だろ!」


晴斗「ふーん。そんな生意気な事を言うんだね。まあ、いいさ。ここは直人の意見を聞くとするよ。でも、こちらもそれ相応の手があるからね。」


罪人役からの生意気な態度に不服に感じた晴斗は、女子たちに悪知恵を吹き込んだ。


エルン「っ、そ、そんな事を!?む、無理だ!わ、私には、そんな事はできない!」


リール「うーん、でも面白そうだけどね〜♪」


エルン「り、リール!?」


桜華「え、えっと、わ、私もエルンちゃんと同じく遠慮したいかな〜…‥あはは。」


リフィル「ふへへ~♪男たちはどんな反応を見せてくれかな〜?憲明はリタイヤしちゃったし……、代わりにディノくんにでも仕掛けてみようかしらね〜♪」


小頼「ぐへへ、性欲に餓えたジェルドの姿が目に浮かぶな~♪」


晴斗の悪知恵に桜華とエルンが躊躇ためらう中、小頼、リフィル、リールの三人は、やる気満々であった。


リール「ねぇねぇ、二人もやってみようよ〜?もしかしたら、桃馬と直人の好感度が上がるかもしれないよ?」


エルン「うぐっ、お、桜華さんは、ど、どうだろうか?」


桜華「う、うーん、、で、でも、好感度が上がるなら……、す、少しくらいは良いかもしれないけど。」


リフィル「もう〜、焦れったいな〜。ほらほら、二人もおいでよ~♪」


桜華「り、リフィルちゃん!?」


エルン「お、おいこら、やめないか!?」


リールの誘いで心が揺らぐも、未だに決断しない桜華とエルンに対して、見兼ねたリフィルが二人の腕を掴むなり半ば強引に連れ出した。


ジェルド「お、おい、今度は女子たち全員が出て来たぞ。」


桃馬「うぅ、嫌な予感しかしない。」


直人「ごくり、こ、今度は何をする気だよ。」


ディノ「もしかして、また煽りでしょうか?」


自動清掃により、ヌルヌルとした黄緑色の液体が綺麗に洗い流され、いつでもスタートが切れる中、まず始めに、エルンとリールが直人に向けて色仕掛けを始めた。


エルン「……うぅ、ごくり、な、直人?じゅ、十秒、い、以内に、ここへこれたら、そ、その……、わ、私の……、こ、この淫らな体をしゅ、しゅきにして良いよ///」


リール「いえーい♪もちろん、私の体も~♪」


直人「っ!?」


四人「なっ!?」


桜華「うぅ、と、桃馬、そ、その……わ、私も好きにしていいよ?」


桃馬「な、ななっ!?お、おお、桜華まで何を言ってるんだ!?」


小頼「ふふっ、ジェルドには〜、一日中私を奴隷の様に扱ってもいいわよ♪」


ジェルド「わふっ!?」


リフィル「クスッ、私は〜、呆気なくリタイヤしちゃったクソザコの憲明に代わって、ディノくんに気持ちいい事でもしてあげようかな〜♪」


ディノ「は、はひっ!?」


憲明「なにっ!?」


ディノ「はわわ!?き、きき、気持ちがいい事……ぷしゅ〜。」


憲明「っ、お、おーいディノ!?」



リフィルの色仕掛けにより、現実的なエッチな事に関して全く耐性のないディノは、妄想しただけでスライムの姿に戻るなり、そのまま熱湯へと滑り落ちて行った。


彼女たちの誘惑に魅了された三人の男たちは、すぐ近くでディノが熱湯へ落ちて行った事も気づかずに、ただただ性欲の神経を尖らせていた。


晴斗「それじゃあ、スタート!」


リフィル「それじゃあ、いっくよ〜…って、ふぇ!?」


エルン「はぅっ!?」


リール「へっ?」


桜華「っ!?」


小頼「えっ?」


晴斗による開始の合図から一瞬の事であった。


性欲に神経を尖らせた三人の男たちは、女の子たちがだるまを落とす前に、瞬時に坂を登り詰めてしまった。


晴斗「‥‥さ、三秒って。」


あまりの速さに逆に、晴斗は動揺した。


直人「‥ふっ、登ったぜ?」


桃馬「ふぅ、簡単だな。」


ジェルド「ふん、楽勝だな。」



あまりにも早過ぎる予想外な展開に、心の準備をしていなかった桜華とエルンは激しく取り乱し始めた。


エルン「あ、あぅ、な、なな、直人!?す、すすっ、すまない!!さっきのは忘れてくれ〜///」


直人「うわっ!?」


桜華「あえ、うう〜///と、ととっ、桃馬!?いやぁぁ〜っ!」


桃馬「へぶっ!」


羞恥心の限界を超えた二人。


エルンは直人を突飛ばし、一方の桜華は、重い平手打ちを桃馬に見舞い、二人は坂を転げ落ちながら勢いよく熱湯へと落ちて行った。


直人&桃馬「あっつぅぅ!?」


直人「めがぁぁっ!目に熱湯がぁぁっ!」


桃馬「いたたっ!痛過ぎる〜!」


憲明と同様に想像以上の熱さを味わった二人は、思わず飛び跳ねながら熱湯から脱出し、憲明が入っている天国のぬる湯へと駆け込んだ。


その一方で、恥ずかしさのあまり、大切な人を熱湯へ落としてしまった二人はと言うと、少し壊れ始めていた。


リール「ふ、二人ともしっかりしてよ!?」


エルン「嫌われた嫌われた嫌われた‥ブツブツ。」


桜華「あ、あはは‥あははっ!」


ご覧の通り、二人の壊れ方は、闇落ちに近い状態であった。


エルンは小声で"嫌われた"と呪文の様に繰り返し、一方の桜華は、下手になぐさめれば、"○だ!"っと、どこぞのせみが思わず鳴いてしまいそうなオーラを漂わせていた。


小頼とリフィルも二人に声を掛けるも、これと言った効果的な兆しは見られなかった。


ジェルド「お、おい晴斗、どうするんだよこれ。」


晴斗「うーん、正直これはやり過ぎたね。でも、この程度なら解決策はあるよ。」


ジェルド「ほう、その策とは何だ?」


晴斗「まあ、策って言うよりは、直人と桃馬による慰めだけどね〜。」


ジェルド「そうかそうか〜、それなら今すぐに、その明確な主旨しゅしをあの二人に伝えないとな!」


晴斗の失態により、奇跡的にマウントを取れたジェルドは、依然として小生意気な態度を取っている晴斗に言い寄ると、肝心な要点を伝えながら晴斗のケツを蹴り上げた。


晴斗「なっ!?うわぁぁ!?」


予想もしていなかった展開に、坂の上から転げ落ちる晴斗の目には、無惨に熱湯へと落ちて行った、桃馬、憲明、直人ら三人の"深い怨念"が見えていた。


"ようこそ、我らの灼熱の桃源郷へ"


晴斗「ひっ!?んぶっ!」


三人の怨念を見ながら熱湯に落ちた晴斗は、熱湯に落ちた三人の反応とは異なり、晴斗の場合は静かに"ぷかぁ~"っと浮き始めた。


ジェルド「なっ!?」


桃馬「ぶっ、おいおい、まじかよ!?」


直人「やばっ、気を失ったか!?」


憲明「な、何て所で気絶してるんだよ!?」


晴斗の生命の危機に、三人は急いで天国のぬる湯から飛び出した。するとすぐに、晴斗はぬるっとした何かに包まれながら安全な所へと運ばれた。


直人「な、何だこれは?ま、まさか、ローションのお化か……。」


桃馬「いやいや、これはどう見てもスライム状のディノだろ。」


晴斗を包んだぬるっとした物が、一ヶ所に集まり始めると徐々に人型を作り出した。


ディノ「よっと、いや~、驚きましたよ〜。いきなり落ちて来た桃馬さんと直人さんはともかく、晴斗さんが転がり落ちて来るなり、そのまま気絶してしまうのですから〜。」


直人「す、すごい、スライムの中にも、こんなにも透明な個体がいるんだな。」


初めて見る透明なスライムに、思わず直人は感心してしまった。


ディノ「あっ、いえ、透明だったのは、さっきまで蕩けて気絶していたからですよ♪」


直人「えっ、気絶??えっと、それは笑顔で言う事か?」


気絶をする事に慣れているのだろうか。


この程度での気絶では一切動じないピュア過ぎる男の娘に直人は驚いた。


※ちなみに、ディノが気絶から目覚めたのは、直人と桃馬が落ちて来た時である。


ジェルド「ふぅ、驚かせやがって、おーい、桃馬に直人〜!桜華とエルンが壊れて大変な事になってるんだ!早く来てくれ!」


桃馬&直人「な、何だって!?」


直人「おい桃馬!俺にしっかり掴まれ!」


桃馬「えっ?こ、こうか…ってうわぁ!?」


人間離れした直人の身体能力を間近で感じた桃馬は、改めて直人が妖怪である事を実感した。


直人「エルン!エルンは大丈夫か!?」


桃馬「いってて、少し首痛めた……。」


ジェルド「ほ、本当に人間を辞めたんだな。」


リール「す、すごい!直人かっこいいよ〜♪っじゃ、じゃなくて、えっと、エルンと桜華ちゃんが大変なんだよ!?」


闇堕ちに近い状態の二人に対して、不安を感じているリールの言う通り、事態は少し深刻であった。


直人と桃馬の目の前には、体育座りをしながら小声で"嫌われた"と呪文の如く繰り返すエルンと、両膝をつきながら不気味に笑っているレ○……ではなく、桜華がいた。


直人「やばいな。特に桜華の方は、その日暮らしの○ナ見たいに病んでいるな。」


桃馬「うーん、俺は、その日暮のレ〇よりは、ザッ・ゼロの○ムに見えるけどな。」


リール「ふ、二人とも!?今はアニメの話は良いから!」


桃馬&直人「は、はい……。」


たまに見せるリールの真面目モードに、シンプルに恐怖を感じた二人は、愛する彼女を正気に戻すため、ひたすら奔走ほんそうするのであった。




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