第35話 草津奇々騒乱編(3) 喜楽之章

"覗きは男のロマンである"。


桃馬たち四人の男子たちは、純粋なディノを巻き込んでまで、一種の使命感に駆られていた。


しかし、作戦会議を進めるに連れ、僅かな時間で現場の下見と覗きに行くタイミングを企てるなど、はっきり言って厳しいと断定。


こうして桃馬たちの"ロマンに満ちた"覗き作戦は中止となったのであった。


わざわざ作戦会議のために、小頼から十五分もの猶予を得たと言うのに、桃馬たちは十分も経たぬ間に部屋から出ていた。


桃馬「ふぅ、一体俺たちは何考えてたんだろう…。」


憲明「まあ、そう落ち込むなよ桃馬?てか、そんなに桜華たちの裸が見たかったのか?」


桃馬「いや、別にそう言う訳じゃないんだ。ただ、何であそこまで、女性の魅力が薄れる全裸姿を求めてたのか…。今思うと凄く恥ずかしくてな。」


憲明「…ま、まあ、確かにそうだな。全裸になってしまったら文字通り全てだからな。」


桃馬「だからさ、俺は浅はかな男だよ。女性の魅力は体よりも、自らのポテンシャルを引き立たせる服装だと言うのに…。」


憲明「うん、うんうん…、分かる、分かるぞ。桃馬の気持ちは凄く分かるぞ。俺もリフィルの全裸よりも私服姿の方が好きだ。何せ、胸のラインを強調させる服とスラッとした美脚を引き立たせるナイロン素材のオーバーニーソックスは、絶対領域的な感じがして俺は好きだ。」


桃馬「っ、そうそう!あとそこにガーターが着いていたら、それだけでも最高だよな!?」


憲明「あぁ、そうだ♪やっぱり女性は全裸よりも、ロマンを感じさせる服装を身につけていた方が何百倍も魅力的だよ♪」


桃馬「うんうん、そうだよな!女性の全裸姿にしか興味無い男は三流種族だもんな!」


己の本分を忘れ、若い使命感に囚われていた桃馬であったが、憲明と変態的な会話をするに連れて、忘れていた本分を思い出した。


その一方で、この二人の会話を聞いていた三人の男子たちは、気難しそうにしながら"そわそわ"していた。


中でもジェルドとギールは、桃馬からの"全裸にしか興味無い男は三流種族"と言う言葉に狼狽うろたえていた。


ギール「わ、わふぅ。(さ、三流…。)」


ジェルド「っ、そ、そんな〜。(服なんか着たって同じだろ!?)」


完全に女性の裸目当てで動いていたギールとジェルドは、軽蔑とも取れる桃馬の言葉に落ち込んだ。


一方のディノは、複雑な思いと対峙していた。


ディノ「…ごくり。(うぅ、周囲に人が居ないとは言え、よくそんな恥ずかしい話が出来ますね…。でも…、全裸よりも服があった方がいいか…、確かに、薄い本に書いてあるシーンでは、服を着たままの方がそそりますけど…、って、私は何を言って!?)」


小頼商会からBL本を愛読しているディノは、とある小生意気な男の娘が、クラスメイトの肉食系ケモ耳男子に襲われると言うBLシーンを想像しながら取り乱していた。


こうして五人の男子たちが、自分の世界に籠り始める中で、廊下の騒ぎを気にしたシャルが、部屋から出て来た。


シャル「やけに廊下の方が騒がしいから何事かと思えば、ギールたちが先に出て来ていたのか。」


ギール「っ、しゃ、シャルか。すまない、騒がしかった…な…。」


少し違和感があるシャルの口調と声であったが、不思議と声の主がシャルと認識したギールは、そのまま後ろを振り向いた。


しかしそこには、ギールの知るシャルの姿は無く。


目の前に立っていたのは、立派な二本の角を生やし、何処と無くシャルの面影があるスタイル抜群の大人びた美女であった。


黒のVネックシャツによって胸の谷間が強調され、更にくびれた腰とおへそを露出させている事で大人びたエロさを掻き立たせていた。


最後に極めつけは、スレンダーなあしのラインを引き立たせる"ピチピチ"のズボンである。


こんなエロい大人の女性を間近で見てしまったギールは、心を撃ち抜かれるなりその場で硬直した。


その後すぐに、桃馬たちも見違えたシャルの姿を見るのだが、誰一人として気づく事なく姿勢を正すなり一礼をした。


これに対してシャルは、誰一人も気づかない男子たちの反応に、思わず高笑をしてしまう。


シャル「ふ、ふはは!やはり余だと気づけなかったな〜!どうじゃ、余の真の姿は〜?惚れ惚れするであろう?」


普段のシャルらしい話し方に、男子たちは目を疑った。


ついさっきまで小さかったシャルが、たった十五分足らずで立派なお姉さん体形へと姿を変えていたのだ。


今でも信じられない変化に、男子たちが困惑する中、そんな様子を扉越しから見ていた小頼たちは、大喜びで飛び出して来た。


小頼「いやいや〜、大成功だね〜♪」


シャル「ふっふ〜ん、どうじゃった?余の高貴な演技は?」


桜華「うんうん!とっても素敵でしたよ!」


リフィル「そうそう!もはやエロいを通り越して、かっこいいの領域に入ってるよ!」


高貴なシャルの姿に続き、女子までも魅了してしまうカリスマ性。


男子からして見れば、生唾を飲み込んでしまう程である。


ギール「ほ、本当に、しゃ、シャルなのか?」


シャル「ふっふっ、ギールよ。これから余の事をお姉ちゃんとでも呼んで良いぞ?それとも、今まで通り"おにいちゃん"って呼ばれたいか?」


ギール「っ!?」


真の姿を取り戻し、調子に乗り始めるシャルは、ギールのあごをクイッと上げると、自らの豊満な胸を押し当てた。


目が離せない展開に、まわりの男子と女子たちは、一斉にギールとシャルに注目した。


ギール「〜っ///ば、ばか!?やめろ!?」


流石のギールでも恥ずかしさのあまり、両手を前に突き出してシャルを剥がそうとした。


しかし、ギールが突き出した両手はあろう事か、そのままシャルの豊満な胸に押し込んでしまった。


シャル「んんっ、んはっ‥。」


シャルから漏れ出た色っぽい声に、ギールは直ぐにシャルの胸から手を離した。


ギール「ご、ごめんシャル!?」


シャル「っ、よ、よいのだ‥。そ、その、余も少し、か、からかい過ぎたのだ…、許せ///。」


先程の色っぽい声を出してしまった事で動揺しているのか、シ顔を真っ赤に染めながら"もじもじ"とさせていた。


この神過ぎる展開に、小頼たちは口元を抑えながら込み上げる思いを堪えていた。


一方の桃馬たちは、冷めた目でギールを見つめていた。


憲明「桃馬、これは。」


桃馬「皆まで言うな、休み明けに異端審問にでも掛けて死刑にする…。」


ジェルド「‥賛成。」


ディノ「‥に、兄さん。」


学園内での不可抗力ならまだしも、大人びたお姉さんに対しての愚行、まして義理とは言え、妹へのお手つきに関しては、到底見過ごせるものでは無かった。


桃馬たちは、じりじりとギールに迫る。


ギール「お、お前ら!?ま、待て!?これは事故だ!?」


桃馬「‥事故だと?普通、今の体勢なら肩を押すよな?何でわざわざ下から手を回した?」


ギール「い、いや、それは、慌ててたからで…。」


桃馬「ふーん、慌ててたか…。」


確かに、今のパターンなら事故として見られてもおかしくはない展開である。


しかし、大人びたシャルの姿を見て、一瞬でも心を撃ち抜かれた桃馬たちは、ギールのラッキースケベ展開を許せなかった。


憲明「‥そうだ。覗きが中止になった今…、腹いせにギールをモフり倒そう。」


ジェルド「‥賛成。」


ディノ「‥うぅ、ごめんなさい。兄さん…。」


ギール「ひ、ひぃぃっ!?」


唯一信頼できるディノからも見捨てられたギールは、この後、滅茶苦茶モフられたそうな。



ちなみにシャルは、ギールに胸を揉まれてから間もなく、いつもの小さい姿へと戻ったと言う。


これに小頼たちは、大人びたお姉さんの姿に戻って欲しいと、相次いでシャルに頼み込むも、"こっちの方が動き易いのだ"の一点張りであった。


結局、説得は上手くいかず、温泉街に出掛けたのは、三十分後の事であった。




流石は名湯草津。


観光名所として人が多く、温泉の源泉が湯畑を渡って滝の様に落ちる光景は、不思議と興味をそそらせるものであった。


願わくばこのままのんびりしながら観光を楽しみたいところだが、どうもまわりからの視線が痛い。


なぜ痛いのか…。


その原因は、二匹の駄犬にあった。


これは温泉街に行く直前の事。


二匹の駄犬こと、ジェルドとギールは、草津の温泉街を散歩気分で歩きたい事から、大切なリードを主人である桃馬に預け、凛々しい犬(狼)の姿で散歩をしようとしていた。


しかし、いざ温泉街へ行ってみると、温泉街は予想以上の人でごった返しており、もし犬の姿で散歩をしようものなら、確実に人に踏まれてしまう可能性があった。


そのため桃馬は、二匹に着けいるリードを外そうとするが、ジェルドとギールは、頑なにリードを外される事を拒んだ。


その後、桃馬からの説得は続き、何とかケモ耳男子の姿に戻す事に成功するものの、リードだけはしっかり桃馬が握る事になってしまった。


名目上は、はぐれない様にするための防止策ではあるが、傍から見ては変態的な光景である。


また、人混みの中で二つのリードを持つ行為は大変危険なため、桃馬としては直ぐにでも手放したいと思っていた。


最初は直ぐに飽きて外すだろうと思っていた桃馬であったが、中々リードを外さない二匹の様子に、痺れを切らして強制終了をしようとする。



桃馬「ふぅ。おい、ジェルド、ギール?」


ジェルド&ギール「なんだ桃馬?」


桃馬「二人には悪いが、リードを着けた散歩はここまでだ。リード取るからしゃがめ。」


ジェルド&ギール「えー、もうかよ〜。」


桃馬「文句を言うな。流石にこの人混みの中で、二つのリードを伸ばすのは危ないからな。」


ジェルド「うぐっ…、うぅ、温泉街って散歩に不向きだな。」


ギール「くっ、確かに、問題が怒る前に止めた方が良いか…。」


桃馬「まあ、今の時間帯だと厳しいと思うけど、早朝の散歩なら人も居ないだろうし、自由に歩き回れると思うけどな。」


ジェルド&ギール「わうっ!?」


桃馬からの言葉に希望と期待を感じた二匹の駄犬は、目を輝かせながら自らリードを外した。


その様子に桜華は、とある疑問を浮かべていた。


桜華「‥首輪とリードを着けられる時の感情って、どんな感じなんだろう。」


深い意味はないが、シンプルに犬の気持ちが気になった。


小頼「桜華ちゃん♪はい、あーん♪」


桜華「ふえ‥んんっ!?」


小頼に声を掛けられ、ふと視線を小頼の方に向けると、口の中に蒸したてのまんじゅうをねじ込まれた。


小頼「ふふっ、今の声かわいい〜♪(まるで、触手を強引にねじ込まれた時のヒロインみたい。)」


桜華「んんっ、もぐもぐ、んはぁ、美味しいけど…、小頼ちゃんったらいきなり過ぎるよ〜?」


小頼「えへへ、ごめんごめん♪」


リフィル「ねぇねぇ、今度射的しようよ♪」


小頼「いいね~♪桜華ちゃんも行くよ~♪」


桜華「ふぇ!?ちょっと~。」


完全に旅行を楽しんでいる二人に振り回されている桜華は、小頼に腕を引っ張られるなり、そのまま射的場へと連行された。


その頃、シャルとディノはと言うと、ギールからお小遣いを手渡されており、温泉街の食を楽しんでいた。


シャル「もぐもぐ、ほう~♪この"まんじゅう"とやらは美味いな~♪」


ディノ「もぐもぐ、ひょうれふね、ひゃるひゃま‥。」


シャル「よーし、今度は向こうにいくぞ!」


ディノ「んっ‥はい!シャル様♪」


二人が次の店に行こうとしたその時、突如目の前にギールが現れ、二人の前に立ちはだかった。


ギール「はい、ストーップ。」


シャル「ぬわっ!?ぎ、ギール!?」


ディノ「に、兄さん!?」


ギール「こらこら二人とも、勝手に移動しちゃダメって言っただろ?」


シャル「むう、余は次のお店に行きたいのだ〜!」


ディノ「う、うん、そろそろ私も次のお店に行きたいです。」


ある程度のお小遣いを渡しているとは言え、一応目の届くところに置いておきたいギールは、シャルとディノがお店を移動する際は、必ず行き先を教えて貰っていた。


しかしギールには、もう一つ心配していた事があった。それは二人に渡したお小遣いをどれだけ使い込んだかである。



ギール「二人とも、次のお店に行く前に、今時点のお小遣いはいくら持っているんだ?」


シャル「む?金とやらはディノが持ってるぞ?」


ディノ「え、えーっと…あと、五百円ですね。」


ギール「はぁ、早速千五百円も使ったか。」


ディノ「た、足りないでしょうか?」


ギール「二人で何かを食べるなら足りないな。」


シャル「ふっふっ、なら‥。」


ギール「なんだその手は‥?」


お金が足りないと悟ったシャルは、詫び入れもなく堂々とギールに手を差し出した


シャル「足りないのなら貰うまでよ♪」


ギール「ばか!お小遣いを渡す前に、計画的に使えと言っただろ!」


シャル「うぐっ、そ、そんなに怒らなくても‥。」


ディノ「に、兄さんごめんなさい!わ、私が単価も計算しないで浮き足だったせいです!」


ギール「‥うぅ〜ん、今回二人にお小遣いを渡したのは、この世界のルールに慣れてもらうためでもあるんだよ。計画的にお金を使えないと、両世界での生活は厳しいからな。」


シャル「むぅ、金とやらは不便なのだ。」


ディノ「シャル様、それは元の世界でも共通ですよ。」


シャル「うぅ、余の命令一つで、直ぐに飯が用意された時の生活が懐かしいのだ。」


ディノ「シャル様、それと比べてはなりませんよ。」


ギール「うん、ディノの言う通りだ。今回シャルには、この旅行で色々と学んでもらうからな。」


シャル「っ、むぅ、分かったのだ…。」


ギール「うん、よしよし。(…意外と素直に受け入れてくれたな。)」


少しは反抗するかと思ったギールであったが、意外にも素直に受け入れてくれたシャルに少し驚きながらシャルの頭を撫でた。


ギール「ついでにディノにも、金銭感覚について学んで貰いたいんだけど良いかな?」


ディノ「は、はい、もちろんです兄さん!」


いくら頭が良い二人でも、現実社会の常識については未だにうといため、それを教えようとするギールの姿は、まさに兄の様に輝いていた。


桃馬「ふぅ、何だかんだギールは言うけど、結局あの二人の事が好きだよな。」


憲明「あぁ、本当に嫌いなら、あんな接し方はしないだろうしな。」


義理とは言え、本当の兄妹に見える光景に、桃馬と憲明は微笑ましく見つめていた。


するとここで、だんだん人混みの中で"はぐれ"始めている事に気づいたジェルドが、少し不安を漏らす。


ジェルド「な、なあ、桃馬?だんだん小頼たちと、はぐれ始めているけど、どうする?」


桃馬「あぁ、それなら考えがあるよ。ここでグッパをして分かれるんだ。二対一、二は小頼たち、一はギールたちだな。」


既にはぐれる事を考えていた桃馬は、それなりの対策を考えていた。


桃馬「よーし、始めるぞ。グーっとパっ!」


運命の分岐は、一発で決まった。


桃馬 パー

憲明 グー

ジェルド パー


こうして桃馬とジェルドは、女子たちよ荷物運び兼ボディガードを務めることになり、対して憲明は、比較的に平和な一時を過ごすのであった。


そう、コソコソとカメラを構えた一人の女性に気づかずに…。


?「ふむふむ、いいですね~。これで次回の特集ネタが得られました。‥ふっふっ、さてと、そろそろ露天風呂の覗きポイントに向かわなくては…ふふっ。」


不敵な笑みを浮かべる謎の女性は、桃馬とジェルドのツーショットを撮ると、そのまま温泉街を後にした。



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