第23話 女子テロと囚われの主

桃馬に取って今日の授業は、まったく身が入らなかった。授業中は、ジェルドはもちろんの事、周囲から向けられる視線が刺さり、到底授業に集中できるものではなかった。


更に休憩時間に入ると、ジェルドは瞬時に桃馬の背後へ回り、まるで恋人を抱き締めるかの様な勢いで抱きつき、大胆に甘え始めていた。


これにより、周囲のクラスメイトたちの視線を集め、異変を察知した他のクラスの生徒たちも駆けつけ、教室と廊下は大騒ぎである。


しかも、一限、二限、三限っと、授業が終わる度に抱きついてイチャついては、同じ光景を繰り返していた。更にその内の三限の休憩時間には、ギールまでも混ざってしまい、現場はカオスと化していた。


もし号外が無ければ、これ程まで騒がしくはならなかった事だろう。


だがしかし、逆に考えて見れば、長岡小頼を主軸として、新聞部と広報部が結束して作り上げた号外の影響力は、改めて凄まじい物であると痛感させる一面もあった。



授業以外での疲労が蓄積し、この地獄の様な空間から早く解放されたいと願っていた桃馬は、四限が終わった同時に、弁当を持って屋上に行くと見せかけて、学年棟の裏に逃げ込もうと考えた。



だがしかし、桃馬は一つのミスを犯した。


あろう事か、カバンのチャックを開け忘れていたのだ。


結果、七秒近く足止めをしてしまった。


普通の人間相手なら、どうと言う事も無いタイムロスではあるが、相手が白狼族のジェルドであれば話は別である。


たった七秒の遅れは、致命的なタイムロスである。


そのため、桃馬は弁当を手にして廊下へ向けて走り出すも、ジェルドに首根っこを掴まれるなり連れ戻された。


桃馬「うくっ、何のつもりだジェルド。」


ジェルド「まあまあ、そう逃げようとするなよ♪今日はここで食おうぜ♪」


桃馬「嫌って言えば……どうする?」


ジェルド「それなら力ずくでも付き合ってもらうよ。それに、ギールが物凄い勢いで迫って来ている様だし、例えここから逃げられても結局桃馬は捕まるぞ?」


桃馬「な、何で分かるんだよ。」


ジェルド「ふっ、俺の聴力を舐めるなよ?あの駄犬の足音くらい聞き分けられるからな。」


桃馬「へ、へぇ~、そう言って、俺の抵抗を諦めさせる魂胆こんたんだろ?俺は騙されないからな。」


ジェルド「ふっ、まあ今に分かるさ。」


正直、今更ジェルドの魂胆こんたんを見破ったとしても、背後からジェルドに強く抱きしめられ、完全に身動きが取れない桃馬に、そもそも逃げ場など無かった。


しかし万が一、ジェルドが言う事が本当であるなら、桃馬に取っては小さな希望があった。


それは、シャルの存在である。


ギールが来ると言う事は、当然シャルとディノも一緒である。


破天荒で自由気ままなシャルが来てくれれば、この変態染みた空間を引っ掻き回し、逃げるチャンスを作ってくれるかもしれないと思った。


皮肉だが、桃馬はジェルドの言葉に希望を持つ事になった。


憲明「まあまあ、桃馬もそう嫌がるな?今から"好き放題"の権利が執行される訳じゃないんだからさ。抱き締められるくらい別にいいだろ?」


ジェルド「そうそう♪はぁはぁ、」


桃馬「信用できるか!?って、耳元で吐息をかけるな!?ひひっ、はぁはぁするな!?発情するな!?」


ジェルド「わふぅ~♪桃馬が俺に追い詰められてるこの感じ……はぁはぁ、たまらない…、はぁはぁ。」


桃馬の抵抗は、ジェルドの変態的な本能をくすぐらせ、身を守るための自己防衛が、火に油を注ぐ様な事になってしまった。


このままでは、いつ暴走して襲って来るか……。


桃馬に取っては恐ろしい状態である。


周囲の視線とジェルドのプレッシャーを"ビシビシ"と感じる中、そこへ子供っぽい声と共に、聞き覚えのある男子の声が廊下から響いて来た。


シャル「ぬわぁ〜、離すのだ〜!桃馬の所に行くだけで、何焦っているのだ〜!」


ギール「あー、うるさいシャル!今日に限って四限は移動教室だし、ジェルドに先を越されたらどうするんだ!?」


二年二組の四限の授業が、移動教室であった事もあり、四限後の昼休みで、確実にジェルドに遅れを取ってしまうと思い込んでいた。


そのためギールは、四限が終わるや否や、無意識にシャルとディノを両脇に抱えて移動教室から爆走していた。


シャル「そ、それなら余とディノを置いて、先に一人で行けば良かったではないか!?」


ディノ「うぅ〜、凄く揺れる〜。」


ギール「っ、(た、確かに……。)」


シャルの最もな指摘に、頭の中が桃馬で一杯であったギールは、ようやく我に返ると走るスピードを緩めた。


しかし、意表を突かれたギールの様子に、シャルはニヤニヤとしながら"ちょっかい"をかけ始める。


シャル「おやおや〜?もしかして、桃馬の事で暴走しておったのか??ふっふっ、何て変態な犬なのだ。これでは、桃馬に駄犬と言われても仕方ないの〜♪」


ギール「っ、だ、だからどうした。そ、それほど俺が、桃馬の事を慕っている証拠だろ?」


シャル「ほぉ〜、いつも見たいに否定しないと言う事は、本気という訳か。なるほど〜、その慕うとやらは、忠誠心か、それとも、恋か……、果たしてどっちなのか、凄く気になるのだが?」


ギール「っ、そ、そりゃあ、忠誠心に決まっているだろ。」


シャル「ほほぅ〜、それなら、そう慌てなくても良いでは無いか?」


ギール「は、はぁ?それはどういう意味だ?」


シャル「ふっふっ、ここで疑問に持つとは、やはりギールはまだまだ子犬なのだ。」


ギール「な、なに!?」


シャル「ほれほれ、足が止まっているのだ。桃馬が居る二年一組までもうすぐなのだ。早くしないと、先にジェルドが桃馬を食ってしまうぞ?」


ギール「っ、わ、分かってるよ!」


シャル「おっと、その前に教室へ戻って弁当を忘れずにな。」


ギール「っ。」


シャル「ぬはは〜♪肝心な弁当も忘れるとは、お主の"忠誠心"はこじらせ過ぎなのだ〜♪」


二度も指摘されたギールは、シャルに対して返す言葉も無かった。どれだけ自分が、桃馬の事で頭が真っ白になってしまうのか、シンプルに思い知らされた。


その後、二年二組に一番乗りで着いた三人は、カバンから弁当を出すなり、混雑している隣のクラスへと向かった。



ギール「ちょっと、わりぃ、通してくれ、はぁ、お〜い、桃馬はいるか〜?」


桃馬「っ、ぎ、ギール……。」


ギールが登場した事で三つ巴の関係が完成し、周囲の同級生たちのざわつきが一層に増した。


しかし意外な事に、ジェルドよりもよこしまなオーラをまとわせながら来ると思われたギールであったが、不思議と落ち着いており、いつもの駄犬感を感じさせなかった。



だがしかし、桃馬に取っては、一触即発とさせる現状である事に変わりは無いが、唯一救いなのが肝心のシャルが来てくれた事であった。


シャル「す、凄い人だかりなのだ。」


ディノ「え、えぇ、まだこんなに人が集まるなんて、兄さんたちはどれだけ注目されてたんですか。」


シャルとディノは、一向に三人への熱が冷めない現状に、思わず引いていた。


ジェルド「ようやく、ギールたちも来たな♪」


憲明「移動教室の割には早かったけど、爆走でもしてたか?」


ギール「っ、あ、いや…、それは……。」


シャル「うむ、人とぶつかったら大惨事になるくらいの大爆走であったぞ。」


ギール「っ、よ、余計な事を言うな!?」


憲明「はっはっ、その様子だと、シャルかディノに諭されたな?」


ギール「っ、ちゃ、茶化すなよ。そ、それより、桃馬の顔色が悪いみたいだけど、どうしたんだ?」


ジェルド「ふっ、昨日の事で緊張してるんだよ♪」


桃馬「だ、誰が緊張してるかよ!」


ジェルド「そう目くじらを立てるなよ〜?ほら、ふわふわな俺の尻尾でも触るか?」


完全に主導権を握っているジェルドは、桃馬に対して挑発でもするかの様に、大切な尻尾を桃馬に向けてパタパタと振り始めた。


ギール「なっ!ジェルド!抜け駆けは卑怯だぞ!」


どさくさに紛れて桃馬を誘惑するジェルドに対して、負けじと対抗意識を働かせるギールは、自慢の尻尾を桃馬に向けた。


桃馬「っ、こ、こら、や、やめろ駄犬どもが!?」


桃馬は、口では拒絶しているが、体は正直なもので、二つの"ふわふわ" とした尻尾に触れていた。


憲明「桃馬、言動が噛み合ってないぞ?」


シャル「こ、こら、桃馬!余のお気に入りの尻尾に触れるでないのだ!?」


桃馬「それなら付け根の部分が空いてるぞ……、ちなみに弱点だ。」


シャル「それは既に分かっているのだ!」


ギール「シャル……はぁはぁ、今は我慢してくれ……んっ♪帰ったら好きなだけ触らせてやるから…な、わふぅ。」


シャル「な、なんじゃ急に……何だか、今のギールは気持ちが悪いのだ。」


ギール「好きなだけ言ってろ……ぼけなすが……。」


シャル「ふがぁ〜!ふしだらにとろけよってからに~!帰ったら覚えているのだお兄ちゃん!はぐっはぐっ!」


二の次にされた事に怒ったシャルは、いつも通りギールの尻尾に噛み付くかと思われたが、珍しく尻尾に八つ当たりをせずに、弁当の蓋を開くなり、やけ食いを始めた。


ディノ「シャル様、急いで食べては喉を詰まらせますよ?」


シャル「分かっておるのだ!はむはむ!」


シャルの豪快な食べっぷりを見ていた桜華は、微笑みながら何かを上げたそうに話しかけた。


桜華「シャルちゃん♪よかったら、私が作った卵焼きでも食べますか?」


シャル「おぉ〜!食べるのだ〜♪」


桜華「どうぞ♪」


やけ食いの姿に愛くるしさを感じた桜華は、まるで母親の様にシャルを甘やかし始めた。


気がつけば、何とも理想的な空間が作り上げられている中、ここで憲明が、この場に小頼が居なくなっている事に気づいた。


憲明「ん?あれ、小頼はどこ行った?」


先程から何も話さない小頼であったが、ふと憲明が辺りを見渡した時、さっきまで隣に居たはずの小頼が消えていた。


憲明は、不思議に思いながらも、更に辺りを見渡していると、廊下から均等な並びで桃馬たちを見ていた同級生たちが、二組側の方へごった返している事に気づいた。



小頼「さぁさぁ、話題の"駄犬とご主人様"はこちらだよ~♪」


映果「さぁさぁ、小頼商会特産の秘蔵写真コレクションの大安売りだよ~♪」


なんと小頼は、五組の亀田映果と共に学園闇市の一つ、"小頼商会" を開いていたのだ。


小頼商会のブースは、二年一組と二年二組の廊下の間で開かれており、三つ巴のイチャつきを目当てに詰めかけた同級生たちをターゲットに商売を始めていた。


女子生徒「はぁはぁ、ずぶ濡れのジェルド様とギール様……はぁはぁ……。」


女子生徒「あぁ〜ん♪桃馬にリードを付けられて喜んでる二人……最高〜♪はぁはぁ。」


小頼商会が提供している品は数多く。


隠し撮りの写真集、同人誌など。

主に出しているレパートリーは少ないが、写真集と同人誌の作品だけでも軽く五百作品は越えている。


更に小頼商会は、広報部と新聞部など、数々の文化部と結託しており、また多くの会員メンバーを揃えている。


そのため小頼商会は、学園の巨大派閥の一つとして君臨している。



小頼「にしし、今日の目玉は昨日撮ったばかりの……、甘えるジェルドとギールの写真だよ〜!さぁ、買った買った~♪」



商才のある小頼は、盛り上がった熱を冷まさないため、ここで早くも、目玉商品と言う伝家の宝刀を取り出した。


※ちなみに小頼商会は、肖像権の侵害をしまくっています。皆さんは盗撮をして儲けては行けません。


盗撮だめ、絶対!

そして売っちゃだめ!




その一方で、一組と二組の間で、耳を響かせる様な騒ぎに、三組の一部では頭を悩ませていた。


奏太「はぁ、ったく、騒がしいな。」


直人「まあまあ、今朝けさの号外配りで小頼の奴が、店を出す様な事を"ほのめかし"ていたらしいからな。ちょうど今、出店してるんだろうよ。」


奏太「不思議に思うんだけど、何で先生たちは許してるんだよ。」


直人「これも文化の一つだからじゃないか?」


奏太「確かに文化って言えば文化だけど、限度を越えてないか?」


直人「うーん、まあこの騒がしいくらいが、ちょうど良いんじゃないか?」


奏太「…ちょうど良いって、だとしても、この女子の奇声には耐えらないよ。」


直人「ふぅ、まあ我慢できなかったら屋上でも行って避難してろさ。っ、しかし、女子の遠慮のない奇声には堪えるな。ん?あ、おい、奏太?"半兵衛"のやつ気絶してないか?」


奏太「えっ?あっ、おい"半兵衛"しっかりしろ!?」


二人の視線の前には、 童顔の黒髪短髪美少年が、目を閉じながら"ぐったり"としていた。


奏太は、慌てて肩を揺らしては、頬をペチペチと叩いた。


二人は"半兵衛"と言っていたが、これは彼のあだ名である。黒髪短髪美少年の本名は、三条晴斗さんじょうはると


学年首席の秀才だが体が弱いため、故人の"竹中半兵衛"から名を取って、まわりからは"半兵衛"と言われている。


ちなみに、二年一組担任、三条美香先生の息子である。


晴斗「かふっ、あ、あれ……俺……寝てた?」


奏太「ほっ、いや……、気絶してたぞ?」


直人「さすがに、この騒音に耐えられなかった様だな?」


かなりデリケートな晴斗は、突然の"奇声"に驚いて気絶してしまった様だ。


晴斗「うーん、そうか……、とうとう騒音で気絶する様になっちゃったか。…はぁ、そ、それより、この耳に響く様な騒動は、一体何が起きたんだよ?」


直人「ふぅ、いつもの小頼商会だよ。」


晴斗「っ、そ、そうか、それなら納得だね。そうか、今日店を開いたのか。」


学年首席の晴斗でも、小頼商会と聞いてはあっさりと諦めざる負えなかった、と言うよりは、むしろ感心していた。


直人「ふぅ、さてと……、桃馬とジェルドの様子を見に行ったリールも帰ってこないし、心配だから少し見に行って来るよ。」


奏太「お、俺は待ってるよ。」


晴斗「そ、それなら、俺は行くよ。」


奏太「げっ、まじかよ。」


直人「おいおい、晴斗は行かない方がいいだろ?向こうに行けば余計にうるさくなるぞ?」


晴斗「ちょっと、小頼に頼まれてる物があるんだよ。それに、耳栓さえしていれば問題はないからね。」


晴斗は、カバンから耳栓を取り出すと直ぐに装着させた。


直人「そうか、無理はするなよ?」


晴斗「……?」


直人の声が聞こえないのか、晴斗は小首を傾げた。


どうやら晴斗が着けた耳栓は、一切の音を遮断するくらいの超本格的な代物らしいが、どうやって小頼と会話をするのか気になるところである。


こうして二人は、ごった返した現場へと向かった。



一方その頃。理想的な賑わいを見せていた桃馬たちであったが、とうとう平和な壁が崩れ始めていた。


ギールは桃馬に、首輪とリードを着けられて喜び。


一方のジェルドは、興奮のあまり上半身の制服を脱ぎ始め、駄犬モード全開になりながら桃馬に迫っていた。


桃馬「この、ばか犬!まじでやめろ!?」


ジェルド「はぁはぁ、いいじゃないか!この際だ。みんなに俺たちの仲を……はぁはぁ、見せびらかせてやろうじゃないか!」


廊下から様子を伺う同級生の女子たちは、鼻血を出しながら倒れる者、眼福のあまり倒れる生徒が続出していた。


まさに、女子生徒に対しての女子テロの始まりである。


リフィル「昨日みたいに……、首筋とか舐めないかしら。」


リール「そ、そんなハードプレイをしてたのですか!?」


リフィル「えぇ、それは凄かったわよ♪もし桃馬が、ジェルドとギールの想いに応えられていたら……きっと、上から下まで…、開発してたかしら?」


リール「う、うう、上から…し、しし、下まで開発……はわわ!?な、ななっ、なんて破廉恥な!?」


純粋なリールに対して、かなり卑猥な知識を植え付け様としているリフィルは、ついでにリールが、直人に対して抱いている想いの意味を気づかせ様としていた。


するとそこへ、一足遅く心配になって迎えに来た直人が現れる。


直人「あっ、いたいた!こら、リール!ここに居たら頭がおかしくなるぞ?」


リール「ふぇ、あ、う、うん……チラッ…。」


直人が来ても、やはり気になるのか。

リールの目線は、自然と桃馬とジェルドの方を向いた。


直人「ん?なっ、何だこれは……。」


リフィル「まあまあ、直人も少し見て行ったらどう?確か、気を使って差し入れまでしたんでしょ?」


直人「っ、し、したけど、逆にキレられたよ。うぅ、これ以上、親族の醜態は見たくないな。」


リフィル「ふふっ、でも、ここまで来たら桃馬が押し倒されて、ジェルドのイキリ立った肉棒を入れられる瞬間まで見て言ったら?」


直人「なっ!?そ、そんな地獄絵図見たいな光景を見る訳ないだろ!?そ、それに、肉棒って…、そんな卑猥なセリフを高貴なエルフが言って良いのかよ。」


リフィル「うーん、確かに故郷でこんな事を言えば、怒られるかもしれないですけど、現にここは、故郷で無ければ仕来りに縛られる事も無い、自由な世界ですからね♪」


直人「……何かリフィルって、以前と比べて結構変わったよな?入学したての頃は、凛々しくて気品のあるお嬢様って感じがしたけど、今では自由奔放なお転婆娘だもんな。」


リフィル「ふふっ、私も日々成長しているのですよ。」



直人「……ふっ、確かにそうだな。えーっと、"嘘偽りのない素直な自分の意思を知る事は、己に取って大きな成長……、だっけな。」


リフィル「ふふっ、よく覚えていたね♪」


直人「衝撃的な言葉だったからな。そう言えば、確かあの時も似た様な話をしてたな。」


リフィル「あはは♪そうだったね〜♪確かあの時は、私が言った成長を直人が"退化"って言うものだから、私の生い立ちを加えて反論したら、後悔しながら謝ったもんね〜。」


直人「うぐっ、黒歴史に触れて来るな……。まあでも、自由奔放し過ぎて堕落するなよ?」


リフィル「ふふっ、言ってくれるわね〜。もちろん、堕落しない様に気をつけるわ♪」


直人「ふっ、ほらリール?そんな目が腐る光景を見てないで教室へ行くぞ?」


リール「ふぇっ!?う、うん、分かったよ。」


つい地獄絵図に見入ってしまったリールは、直人の呼びかけに驚きながらも、直人と一緒に教室へと戻って行った。


ここで小話。

一年の頃に、リフィルと同じクラスであった直人は、リフィルの生い立ちについて良く理解していました。


学園に入学してたてリフィルは、それはもう、凛々しくて気品があり、如何にもクール系エルフ美女と言うオーラを感じさせていました。


しかしそれは、中世時代ならではの、厳しい仕来しきたりとしつけによって作られた偽りの姿でした。


物心がついてから、決して尊重されない己の意思に背き続けて来たリフィルは、自ら嘘偽うそいつわりの仮面をかぶり、自由の利かない窮屈きゅうくつな日々を過ごしてしました。


自分の意思が尊重されない生活。


例え、良い家柄に生まれたとしても、そこに意思が尊重されなければ、その者は生きた屍と同じです。


リフィルもまた、生きた屍を経験した一人でした。


そんなリフィルの人生は、春桜学園に入学した事で一変しました。


自分の意思が尊重されるこの世界で、リフィルはこの機に偽りの仮面を剥がそうとしました。


しかし、長い間被り続けた偽りの仮面を剥がすには容易ではなく、当初は周囲から話しかけづらい印象を周囲に与え続けていました。


されどリフィルは、日々の日常から"自分の意思"を伝えられる様にするため、必死で友人作りに励み、徐々に偽りの仮面を剥がすための行動を起こしていました。


その結果。入学から三ヶ月後には、リフィルが持っている本当の意志で、同級生たちと気さくに触れ合える様になりました。



その後、荒んだギールに絡まれた事で憲明と出会い、更に自分自身の意思に正直になっていった事で、今ある自由奔放なお転婆娘に進化したのでした。




直人「……はぁ、桃馬には気の毒だけど、あそこまで男に迫られたら終わりだな」


リール「あ、あの三人、これからどうするのかな?」


直人「……まあ、このまま行けばジェルドの方が先に暴発して、桃馬を食っちまうかもな。」


リール「た、助けなくていいのかな?」


直人「いいんだよ、下手に助けたらこっちが襲われるからな。それにこれは、二人の想いを弄んで来た桃馬が悪い。」


発情したジェルドに迫られ、絶体絶命のピンチを迎えた桃馬。


従兄弟の直人からも切り捨てられ本格的に後がない状況。


はてさて、桃馬の命運は如何に……。


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