第22話 晒しと注目
20xx年四月某日の朝。
春桜学園二学年棟の玄関において、とある号外が発刊された。
"佐渡桃馬、駄犬と称したジェルド・ヴラント、ギール・フォルトに屈服!主従関係に亀裂か!駄犬の革命!貞操危うしご主人様!二匹の狙いは桃馬の体か!?"
昨日の部活で起きた出来事が、早くも"長岡小頼"の手よって、学園の広報部と新聞部に漏洩されていた。
主犯の小頼は、異世界から戻るなり広報部と新聞部、つまりBLを愛する同志たちに、待ちに待ったネタを提供したのであった。
普段は同志として、互いに競い合うライバル関係である広報部と新聞部は、
完成された号外は、本格的に作られており各新聞社から見ても顔負けするであろう出来栄えであった。
そのため玄関先では、号外を求めて群がる女子生徒でごった返し、騒音レベルの歓喜の声を上げては、涎を垂らしながら暴走していた。
ちなみに、昨日の部活後、二匹の駄犬にホテルまでは連れ込まれなかったものの、それでも時間の限り激しいセクハラを受けた桃馬は、ショックのあまり放心状態になりながら帰宅。食事もうまく取れず、眠れていなかった。
普通なら登校を拒否して休もうとしてもおかしくない状態であるが、過度な放心状態に陥った桃馬は、そんな休む気力すら無く、ボーッとしながら桜華に手を引かれて登校していた。
ちなみにこの様子に、母の雪穂と父の景勝はと言うと、最初は心配していたものの、桜華の説明で"すんなり"納得。
景勝は爆笑し、雪穂は涎を滴ながら喜んでいたそうな。
新聞部女子「さぁさぁ、号外だよ!なんと昨日、学園の人気者ジェルド・ヴラントとギール・フォルトが、ついに、ついに!主人である佐渡桃馬に反旗を翻し、好き放題と言う何とも如何わしい復讐の権利を手に入れたそうだ!」
女子「はぁはぁ、桃馬は、今まで、ふ、二人の首にリードを着けて散歩してたから……、はぁはぁ、二人は、ど、どんな仕打ちをするのかしら。」
女子「も、もしかして、嫌らしく舐め回すのかしら〜きゃ~♪」
女子「な、舐め回すのなら、じょ、上半身……い、いや、やっぱり、BL展開なら、や、やっぱり、お、おお、おち……。」
朝から女子生徒たちの騒音レベルの叫び声が、二学年棟を響かせ、一部の男子生徒たちは耳を塞ぎながら嫌な顔をしていた。
そして……、号外を配る新聞部と広報部の中には、二つの部を統括する程の力を持つ、学園要注意人物の一人にして、新聞部の奇才、二年五組の
映果「さぁさぁ、お立ち会い、お立ち会い〜♪出来たてホヤホヤのラブコメ号外だよ〜♪BL好きの同志たちよ集まれ〜♪男女問わないよ〜♪」
黒髪短髪で、トレンドマークの一眼レフカメラをいつも首に掛けては、"とうさっ……"ではなく、色々な風景を撮って取材しては、新聞にしているガチのジャーナリストである。
ちなみに長岡小頼とは、幼い頃からの幼なじみであり、今では戦友、盟友とも言える程の友情関係を築いている。
しかしそのせいか、
また、女子に対しても例外はなく、取材と言いつつ男子向けの不健全な"取材"を繰り返している。
そのため、学年主任から何度も呼び出されるも、証拠を隠すのが上手いため、意味の無い尋問に対しては、いつも知らぬ存ぜぬを貫いている。
まさに、己のスクープを守るためなら、一つのカメラでも、パソコンさえも犠牲にする。不健全ジャーナリストの鏡である。
時間が分刻みで経つに連れて、玄関付近での盛り上がりが増して行く中、そこへ長岡小頼が現れる。
小頼「クスッ、上手く行ってるわね、
映果「あ、小頼ちゃん♪おぉ~い、みんな~♪我らが英雄!長岡小頼様が来たぞ~♪」
映果の声がけにより、辺りに居た女子たちが一斉に小頼の方を向くと、大歓声と共に盛大な拍手を送った。
映果「それでは早速、今回の素晴らしいネタ提供をしてくれた、我らが小頼様に今回の心境をお聞きしたいと思います!ささっ、小頼"ちゃん"どうぞ。」
何処からか出して来たのか、映果は取材用のマイクを小頼に向けると、辺りの女子たちは静まり返り小頼に注目した。
小頼「こほん、えー、この度私たちの夢が現実の物になった事は、とても嬉しい事です。そして、この度"小頼商会"は、これを記念してジェルド、ギールの二匹の駄犬に与えられた、佐渡桃馬を"好き放題"にして良い権利の全容を密着取材し、更に今日から一ヶ月間、"小頼商会"が提供する商品を全て半額で提供します!」
小頼の堂々とした宣言は、BLを愛する同志たちに取って、神からのお言葉と同等の価値があった。そのため、同志たちは大歓喜し、その場に倒れる者、嬉し泣きする者、合掌し小頼を崇め称える者が多発し、現場はカオスと化していた。
その頃二年一組では……。
桃馬「……ひっ!?」
桜華「っ、ど、どうしたの桃馬?」
桃馬「お、悪寒が……。」
放心状態の影響で第六感が目覚めたのか、小頼の悪行を察知した桃馬は、不吉な予感に囚われ怯え始めた。
しかも、この場にジェルドがいない分、更に不安が増していた。
そんな時、熱でもあるのかと思った桜華は、左手で桃馬のおでこに触れた。
桃馬「はっ、あ、えっ、お、桜華……?」
桜華「うーん、熱はないみたいだね。やっぱり、まだ昨日の事を気にしてるの?」
桃馬「あ、当たり前だよ……。いつまで続くか分からない"とんでもない"権利を絶対に与えちゃいけない奴らに渡って……、しかも、俺がやるならともかく、早速昨日からあんなセクハラ染みた事して…うぅ。」
桜華(あ、あはは……、桃馬から責めるのはいいんだ。)
桃馬の怯える気持ちは何となく分かる桜華だが、逆に二人を責める事に関しては、あまり抵抗が無さそうな桃馬の発言に、桜華は心の中で苦笑いをしていた。
桜華「う、うーん、で、でも、期限は設定して無くても、昨日はあれだけ桃馬を……その、えっと、如何わしい事をしたのですから、もうして来ないのでは?」
流石に期限は言っていなくても、あの程度の勝負事なら、一度果たされれば終わりだと思う桜華ではあったが、実際そんなに甘いものでは無かった。
桜華はまだ心が綺麗だ。
小頼が期限を決めなかったと言う事は、満足するまでやるか、忘れるか、逆にジェルドとギールを抑え込む様になるまで、続くと言う事だ。まして昨日受けたセクハラは、ジェルドとギールからして見れば前座である。
穢れた欲望が渦巻く二学年棟。
できれば桜華には、心が綺麗なまま過ごしてほしい。
しかし、そんな綺麗な心は、時期に小頼によって、穢れた心を植え付け犯す事だろう。
桃馬「はぁ、一ヶ月間、二人の散歩だけなら良いんだけどな……。」
淡い願いを呟いたその時……。
背後から関わりたくない"白い奴"が抱きついて来た。
ジェルド「やあ、おはよう桃馬♪」
いつもより大胆なアピールに、教室内は騒然とする。
号外で詳細を知る男子たちは、一斉に桃馬の方を向くなり、哀れな眼差しで合唱した。
対して女子たちは、当然の様に大歓声を上げた。
桃馬は机に突っ伏しながら顔を隠し、できるだけジェルドを見ないようにした。
桃馬「なんだよ……ジェルド……。」
取り敢えず無視を通したら、 何かされる分からないため桃馬は渋々返答を返した。
するとジェルドは、耳元で囁いて来た。
ジェルド「…桃馬……。顔を見せてくれないと、みんなの前で何をするか分からないよ?」
ジェルドの脅し染みた言葉に、思わず桃馬は鳥肌を立てた。
まるで、気高き女性の秘密を知ったクズ主人公が、秘密をバラされたくなければ言う事を聞け見たいな話し方に、桃馬はクズ主人公化したジェルドの"本気"を感じた。
このままジェルドの言う通りしないと、確実にみんなの前で公開プレイが始まる。
そうなっては、楽しい学園生活が詰んでしまう。
桃馬は恐る恐る、顔を上げジェルドを見た。
するとそこには、天使の様な笑みを浮かべるジェルドの素顔があった。
ジェルド「おはよう♪桃馬♪」
おそらく、まわりから見るジェルドのビジョンは、太陽の様に爽やかで、上機嫌な上に愛想も良く、どこからどう見てもイケメンけも耳男子に見えている事だろう。
しかし、桃馬のビジョンは悲惨なものだ。
天使の様な笑みの裏では、
桃馬「お、おはよ……。げ、元気いいね。」
ジェルド「当たり前だろ~♪だって桃馬は、僕の"もの"なんだから……。」
肝心な所は周囲に聞かれない様に、顔を近づけながら小声で話した。
張り付いた様な笑みが一層恐ろしく、桃馬は、強く言い返せなかった。
そのため、ジェルドが桃馬の顔に近づく度、周囲の緊張は非常に強く伝染し、思わず教室から退避する生徒もいた。
桃馬「お、おいおい、な、何を勘違いしてるんだよ。しょ、所有物になる話まではなかっただろ。」
ジェルド「まあ、確かに言ってはいないけど、期限は言ってたかな?」
桃馬「……っ!」
予想通り、期限を提示していなかった事を悪用するジェルドに、桃馬の表情は引きつり始めた
桃馬「ひ、卑怯な‥。」
ジェルド「ん?そもそも桃馬は、どうしてそんなに嫌がるんだ?」
桃馬「よくそんな事が言えるな……、昨日あんなセクハラ染みた事をしておいて……。」
ジェルド「セクハラ染みたって酷いな?あれは、全狼族のコミュニケーションの一つだぞ?」
桃馬「コミニュケーションだ〜?へぇ〜、それなら家族に対してもするか?」
ジェルド「まさか、そんなわけないだろ?あれは好きな人にしかやらないぞ?」
桃馬「っ、まじかよ。それじゃあ、小頼に対してもしてるのか?」
ジェルド「ん?何か誤解してる様だが、昨日桃馬にしたコミニュケーションは、桃馬専用だぞ?」
桃馬「はっ?」
衝撃的な話を聞いて、思わず声が漏れた……。
昨日の前座だと思っていたコミニュケーションとやらは、恋人の小頼でさえもしないと言う、ガチを感じさせる様なコミニュケーションであった。
おそらくギールも同じ思いであろう。
そのため桃馬は、この機に乗じて本気で攻め落とそうとして来る二匹のイケメンに、恐怖と絶望を感じていた。
するとそこへ、従兄弟の両津直人が訪ねて来た。
直人「おーい、桃馬いるか〜?」
桃馬「っ、おぉ!直人~。」
絶望に浸る中桃馬に取って、従兄弟である直人の訪問は、まさに天から伸びてきた蜘蛛の糸であった。
桃馬「た、助けてくれ直人!ジェルドとギールが、俺を襲おうとしてるんだ!」
直人「っ、おいおい、あの二人に狙われてるのは、いつもの事だろ?」
桃馬「ち、違うんだよ!?今回ばかりは冗談抜きで、お、犯されそうなんだよ!?」
直人「またまた〜、号外でも載ってたけど、学園でそんな事したら退学くらうぞ?」
桃馬「っ、死なば諸共、道連れって言葉があるだろ!?あいつらは、俺と一緒に退学になるなら本望なんだよ!?」
直人「はいはい、要するに桃馬が、二人を構うのが下手だったって訳だ。それに獣人族の心を弄ぶ様な事は、"しっぺ返し"を貰うから注意しろって、相川家の叔父さんが言ってたろ?」
桃馬「っ、そ、それは……、」
直人「それに、時々ギールから声をかけられるけど、桃馬は二人の要求を録に答えてないそうだな?」
桃馬「こ、答えるも何も……な、舐めて来たり、過度に密着して来るから……。」
直人「そんな軽いコミニュケーションを断り続けた結果、過度なコミニュケーションに発展してるんだろ?」
桃馬「うぅ……。」
従兄弟からのド正論に、桃馬は反論する事ができなかった。
直人「ふぅ、どうやらちょうど持って来た"これ"が、早くも役に立ちそうだな。」
桃馬「えっ?」
直人の右手には小さな袋を持っており、直人はその袋を桃馬に差し出した。
桃馬「こ、これは?」
直人「まあ、見てみろって。」
直人に促されるまま、桃馬は袋の中身を確認する。
桃馬「……なんだこれ?」
袋の中には、首輪らしき物とポッキーが入っていた。
直人「ポッキーは俺からだ。あと首輪だけど、リールの話だと狼族と親しくするには、首輪を送ったり、互いの首輪を交換し合って交流を深める文化があるみたいなんだ。もし良かった、ポッキーもあるからポッキーゲームをしながら三人で……ごはっ!?」
もはや
騒然とする廊下で、扉の片隅で様子を伺っていた直人親友であるリールが、慌てて直人の介抱をする。
リール「な、直人!?大丈夫!?」
直人「り、リール……話が違くねぇか。全然喜ぶどころか……、キレたんだけど……。」
リール「お、おかしいですね……。"リグリード"様はこれが一番だって。」
直人「り、リグ姉の意見なのか……。う〜ん、それは確かにおかしいな。」
桃馬「おかしいのは、"お前ら"だ……。」
独自の考えではなく、第三者の知恵を信じて行動した直人とリールに、桃馬は、指の関節を"ボキボキ"と鳴らしながら二人に近寄った。
すると直人は、目を細めながら釣り上げた。
直人「おい、桃馬……、その"お前ら"に…、"リグ姉"を入れたな?」
桃馬「"リグ姉"?誰の事だ?」
直人「あっ……。」
直人に取って尊敬している人だろうか。
つい口を滑らせてしまった直人は、急いで口を塞ぐなり咳払いをした。
これに桃馬は、直人を利用するための小さな光が見えた。
桃馬「ほう、そのリグ姉って誰の事だ?もしかして、何か隠し事でもしてるのか?。」
直人「は、はぁ〜?り、リグ姉?隠し事?はて、何の事かな?」
桃馬「とぼけるなよ?口元緩んでるぞ?」
直人「き、気のせいだろ?り、リール行くよ。」
リール「ふぇ、あ、うん。」
嘘が苦手な直人は、桃馬の尋問で自ら墓穴を掘らないために、リールの腕を掴むと、その場から逃げるように去って行った。
桃馬「これは、何かあるな。」
手応えを感じ桃馬は、昼休み辺りに再び直人を尋問してみようと考えた。
何とも遠回りな現状解決策に、桃馬は危機迫る現実を見ていなかった。いや、むしろ、見ない様にしていたのかもしれない。
すると教室から、何とも微笑ましい声が響いた。
ジェルド「いや~♪直人も気が利くな~♪ん、チョーカーも入ってるな……、あぁ〜、なるほど〜、桃馬用か。」
桜華「あ、可愛いですね♪これはジェルドとギールのかな?鈴付きの首輪もありますね♪」
桃馬「待て待て!何してるんだ!」
かなり危険なワードを耳にした桃馬は、慌てて教室に戻るなり袋を取り上げた。
しかし、時既に遅し。
既に袋の中身は、ポッキーしか入っていなかった。
桃馬「っ。」
ジェルド「おっと、こう言う時だけは早いよな。それより、このチョーカーを見てみろよ?きっと、桃馬に似合うと思うぞ?」
桃馬「……誰が着けるかよ。それより、その手に持っている首輪をジェルドとギールに着けて、町内を引きずり回してやるよ。」
ジェルド「ふっふっ、それは嬉しい話だけど、果たして体力が持つのかな?」
桃馬「ふっ、その小生意気な自信、へし折ってやるよ……。」
二人の間に架空の火花が散った。
そんなこんなで、桃馬に取って地獄の様な生活ライフが、スタートするのであった。
一方その頃。
直人「はぁはぁ、危なかった……。危うくリグ姉の事がバレるところだった。」
リール「えぇ〜?バレちゃまずいの?」
直人「当たり前だろ。リールも知ってると思うけど、リグ姉は、あ、亜種族と魔族のハーフだろ?」
リール「うん、確かにそうだね。でも、リグリード様は、亜種族と魔族のハーフだけど、亜種族特有の狂気は感じないよ?」
直人「う、うん、そうなんだけど…、その……、えっと、バレたくない理由は、リグ姉が亜種族のハーフだからって訳じゃなくて…その…だから…ブツブツ。」
歯切れが悪く、更に"もじもじ"させながら訳を言う直人の姿に、いつも呑気なリールでも、これだけは分かっていた。
リール「まあ、直人はリグリード様が好きだもんね♪」
直人「な、ななっ!す、好きって、あ、いや、き、きき、嫌いって訳じゃないぞ!?そ、その…、命の恩人だから……その……。」
リール「もう~、分かりやすいよ?直人は本当に嘘をつくのが下手だね?」
直人「うぐ、リールに言われると
リール「むぅ、それはどう言う事~?」
ちょっと怒ったのか、頬を膨らませたリールは、直人の頬を引っ張った。
直人「い、いへぇよ~。」
文句なしの微笑ましい光景に、まわりは生徒たちは、今日も優しく見守っていた。
直人とリールは、二学年の中でも注目するカップルである。
しかし二人は、恋に関しての感情をバグらせているのか。
お互いの恋愛感情は一切なく、友達以上恋人未満の関係を無意識に築いていた。
これに対して周囲からは、これだけ近い関係を築いて起きながら、未だに恋人未満であり続ける二人に対して、早く結ばれて欲しいと願いつつ、中には苛立つ者もいた。
しかし、今は何が起こるか分からない時代。
いつか二人が恋人以上の関係になる日も近いのかもしれない。
いや、むしろ重圧を感じさせる、ハーレムに発展する可能性もゼロではない。
※ちなみに両津直人は、ハーレムに嫌悪感を持っている。
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