第16話 サキュバスの事情

せっかく桃馬を押し倒すチャンスが訪れたのにも関わらず、そのチャンスに気付けず棒に振ってしまったギールとジェルドは、桃馬からの寵愛ちょうあいを受けるだけで昼休みを終わらせてしまった。


その後、屋上から解散した桃馬たちは、午後もシャルの天才的な動向を楽しみにしながら教室へと向かった。


一方、シャルの事で頭が一杯なギールは、ため息をつきながらディノと共に教室へと向かった。


もちろん、教室へ戻ればシャルがいる。


どうせ午後の授業も"どや顔"しながら勝ち誇るだろう…。


そう考えてしまうと、自慢の尻尾も垂れ下がってしまう。


ディノ「兄さん?尻尾が元気ないですが大丈夫ですか?」


ギール「えっ、あぁ、大丈夫だよ。シャルもディノ見たいに大人しければな……。」


ディノ「うぅ、ごめんなさい。私がもっとしっかりして入れば……。」


ディノは、教室へ向かう足を止めると、悲しい表情をしながら謝った。


ギール「っ、ディノは悪くないよ。悪いのは向き合おうとしない俺だ。」


ディノ「…に、兄さん、どうしてシャル様をそう避けるのですか?」


ギール「…そうだな、一緒に入れば時期にバレるだろうし、この際ディノには話しても良いか……。実は、俺には……。」


おそらく、シャルを避けている理由だろうか、ギールがディノの前で話そうとした時。


"キーンコーン、カーンコーン"


これも神の悪戯だろうか。


午後の授業の予鈴が鳴り響いた。


ギール「ふぅ、話しはまた今度だな、急ぐぞディノ。」


ディノ「えっ、あ、はい!」


二人は急いで教室へ走り出した。


二年二組の午後の授業は、五限目の生物学はともかく、六限目の魔法学が心配な授業であった。


今のシャルは魔法が使えないとは言え、下手な知識をペラペラと語ったり、何かの拍子で魔力が戻ってしまうのではないのかと、ギールは不安であった。


しかしシャルは、ギールの過度な心配とは裏腹に、"どや顔"はして来るものの、至って大人しく授業を受けるのでした。



その後、あっという間に放課後を迎えると、ギールはシャルとディノを連れて、学園内を案内しつつ部室へと向かうのでした。



その頃、二年一組の桃馬と桜華は、楽しそうに談笑しながら部室へ向かっていた。


桜華「へぇ~、お昼休みにそんな話をしてたのですね。」


桃馬「まあな、ギールはシャルの事を嫌ってる様な言いぶりだけど、本当に嫌っている様には見えないし、何か思い当たる節があるのかもな。」


桜華「確かにそうですね。もし本当に嫌いなら、もっと冷たくする気がします。」


桃馬「そうそう。それより、桜華はどうだった?女子たちだけの昼休みは?」


桜華「えぇ、とても楽しかったですよ♪みなさん優しいしですし、シャルちゃんも可愛いかったですからね♪」


桃馬「それは何よりだ。桜華が学園に馴染め始めていて、俺も安心するよ。」


桜華「ふふっ、"これぞ学園生活"って感じがして、とても楽しいですよ♪」


登校二日目にして、学園生活を優雅に満喫している桜華の心境に、桃馬は胸を撫で下ろす様な安心感と共に、喜びを感じていた。


桜華「ねぇ桃馬♪今日の部活は何をするのかな?かな?」


桃馬「っ、そ、そうだな、今日はギルドの申請でもするんじゃないかな?」


桜華「おぉ~♪ぎるど~♪ん?ギルドって?」


桃馬「あぁ、ギルドって言うのは、異世界で冒険者活動するために必要な組織だよ。」


桜華「それは、時奈先輩や部活のみんなも入ってるの?」


桃馬「まあな、でも、冒険者と言っても引き受ける依頼は、比較的に安全なものばかりだけどね。」


桜華「おぉ~、昨日の探索より面白いのですか?」


桃馬「物によるな‥。」


異種交流会が主に引き受ける仕事は、冒険者らしい危険な魔物討伐ではなく、比較的に安全な採取系や探索系の依頼が多く、楽しいかどうかと聞かれても、自信満々に肯定できるものでは無かった。



そんな風に二人が仲良く話をしていると、そこへ異種交流会の部長にして生徒会長でもある、新潟あらがた時奈ときなと遭遇した。


桃馬「あ、お疲れ様です新潟先輩。」


桜華「お疲れ様です♪」


当然二人は、時奈に視線を向けて挨拶するが……。


一方の時奈は、仲良さそうにしている二人を見るなり、一瞬驚いた様子を見せながら、申し訳なさそうに視線を逸らした。


時奈「っ、す、すまない……。」


桃馬「ど、どうしたのですか?」


後ろめたい事でもあるのか、桃馬が心配して声をかけると、時奈は体を"もじもじ"させながら答えた。


時奈「い、いや、大した事じゃないんだ。その…、二人きりのいとなみを邪魔したのかと思って……。」


桃馬「はい?」


時奈「あっ、いや、気にしなくて良いんだ。ただ私が、仮初かりそめの笑みを浮かべた桃馬が、油断した桜華を多目的教室へ連れ込もうとしてるのかと…、勝手に勘違いをしてしまっただけだからな。」


正直、言わなくても良い理由に、桃馬はツッコミたい気持ちを押し殺した。


その前に、時奈の勘違いレベルが上級過ぎるため、どうツッコめば良いのか分からなかった。


そもそも、この如何にも普通の状態で、どうして卑猥な妄想をしてしまうのだろうか。


下ネタ好きの"時奈先輩"には困ったものである。


一方、話に着いて来れていない桜華はポカンとしていた。


桃馬「こほん、時奈先輩。不純な考えはやめてください。欲求不満なのはわかりましたから。」


もはや重症レベルに近い時奈の妄想に、桃馬は無駄と分かっていながらも注意を促した。


時奈「桃馬……、女の子に欲求不満は良くないぞ?」


一瞬、反省の表情を見せてが、すぐに素の表情で注意を返した。


これに桃馬は、時奈のペースに乗せられない様に注意して反撃する。


桃馬「多分、言わせた原因は先輩にありますよ。」


時奈「……ふむぅ、はいはい降参だ。相変わらず桃馬はブレないな。」


桃馬「ふぅ、悪ふざけも大概にしてくださいよ。」


時奈「ふっ、おふざけではないぞ桃馬?これは相手のペースに流されないための咄嗟とっさの訓練だ。しかし、おかしいな。男子はこう言う絡みが好きだと、本に書いてあったけどな?」


桃馬「一体どんな本ですか…、てか、どさくさに紛れて悪ふざけしてるじゃないですか!?」


時奈「っ、勘違いするな桃馬。そもそも異世界での活動は、小さな心の隙だけでも命取りだ。だからこそ私は、日常生活に置いて、急な事態でも動じないトレーニングを考えていたのだ。」


桃馬「それで、今日がお披露目って事ですか?まさかだと思いますけど、まだ誰かに試す気ですか?」


時奈「うーん、そうだな。憲明辺りにしたら、どうだろうか?」


桃馬「多分、俺と同じ反応をしますよ。」


時奈「うーん、そうか。やはり私が参考にしていた本は、所詮参考程度の紙切れか。」


桃馬「なに中二臭い事を言ってるのですか。」


中二病臭い時奈の言い回しに、桃馬は冷静にツッコミを入れた。もし時奈が、参考にしていた本を今持参していたら、さっきのセリフと同時に、ゴミ箱へ捨てていた事であろう。


もはや茶番に近いやり取りに、そろそろ脱したいと桃馬は、強引に話を変えて時奈に話題を振って見る。


桃馬「ふぅ、それで先輩?今日の部活は何をするのですか?」


時奈「ん?あぁ、それなら今日は、ギルドへ行って桜華たちのギルド申請をしようかと思う。」


今日の部活動は予想通り、新入部員三人のギルド申請の手伝いになりそうであった。


するとここで、時奈のレベルの高い悪ふざけに着いて来れず、ただ黙っていた桜華は、ようやく話に入れそうな話題に、早速ギルドに関する質問を投げかけた。


桜華「あ、あの〜。ギルドの申請って難しいのですか?」


時奈「ははっ、安心しろ桜華。別に申請については難しいものではない。ただ、水晶に手を当てて能力値を計るだけだからな。」


桜華「そ、それだけで良いのですか?」


特に難しそうな試験も無く、想像以上に簡単そうな申請に、思わず桜華は疑ってしまった。


時奈「あぁ、基本的なギルドは誰でも入れる様になっている。だが、下手にプライドが高い上級ギルドは別だな。無駄な適正試験もあるし、クエストは危険な討伐ばかり見たいだからな。」


桃馬「まあ、我々に取っては無縁なギルドですね。そもそも、そんなギルド自体、ルクステリの街にはありませんけどね。」


桜華「上級ギルド…、それって何か差はあるのですか?」


桃馬「もちろんあるさ。さっき時奈先輩も言ってたけど、まず受ける仕事が危険だし、優秀な人材だから帝国御用達ていこくごようたしとか、もっと簡単に言えばガチ勢みたいなものだね。」


桜華「ガチ勢ですか。それって、"お金を武器"に最強になれると言う禁断のあれですか?」


桃馬「うーん、ちょっと意味合いが違うけど、とにかく強い人が多いと言う事だ。」


時奈「とまあ、そう言う事だから、今日の部活は気軽に行こうではないか。」


時奈は笑顔で今日の方針を語ると、部室へ向けて歩き始めた。



時奈による無駄な足止めがあったものの、何とか異種交流会の部室前まで到着した。


すると桃馬は、いつも感覚で何の警戒も無く扉を開けると、そこには驚愕な光景が広がっていた。


そこには、椅子に縛られ完全拘束された湯沢京骨の姿があった。


桜華「ふぇ!?と、桃馬、何ですかあれは!?し、縛られてる人がいますよ!?」


椅子に縛られているだけならまだしも、京骨は目隠しに続いて、ギャグボールまでも噛まされ、完全に身動き取れない状態であった。


あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにした桜華は、耐性が無い事もあり、思わず桃馬の袖を握った。


一方の桃馬と時奈は、現場を一目見るなり瞬時に、何が起きたのかを理解していた。


そうこれは、京骨の彼女であるルシアの仕業である。


ルシアは正体はサキュバスであるため、たまに学園内で欲求不満になると、京骨をこの様に縛り上げて妖気を搾取する事がある。


しかし、妖気を搾取するためには、厳しい校則があり。


"学園内での不純陰性行為は原則禁止とする"っと校則に定められている。


そのため、生気や妖気などの力を喰らうサキュバス族の生徒に取っては、行動が大幅に制限されるだけじゃなく、死活問題でもあった。


そのため学園内にいる時は、ドレインタッチなどの比較的に性的観点から薄い採取方法が認められている。


それでも我慢できない場合は今の京骨の様に、椅子に縛り付け、互いの上半身を密着させながら直接的に採取する方法がある。


ここまで来ると、もはや如何わしい店である。


サキュバスたちも大変だけど、その彼氏も大変である。


何故なら、気を抜いて彼女に身を委ねてしまったら、その気になった彼女に吸い殺される危険性があるのだ。


特に京骨は、学園内で一番吸い殺されそうになっている男である。


桃馬「うわぁ、今日もまた激しく付き合った様だな。目隠しを取って、白目向いてなきゃ良いけど……。」


見慣れま京骨の姿に、少々引き気味で助けに行く桃馬。


机の上に並べられた特殊な"おもちゃ"に見向きもせず、椅子に縛られ京骨に近寄ると、すぐに目隠しを取った。


京骨「んんっ!んん~!。」


何かを訴え様としている京骨の仕草に、桃馬は椅子の拘束よりも、先にギャグボールから取って話を聞く事にした。


桃馬「思ったより元気がいいな?ほら、ギャグボールを外してやるからちょっと我慢しろ。」


桃馬が、ギャグボールを取った瞬間、京骨から身の危険を知らせる様な言葉を受ける。


京骨「と、桃馬!?逃げろ!?」


桃馬「へっ?」


桜華「桃馬!上、上!」


京骨の言葉の意味が分からず、桜華の言葉に従って上を見ると、そこには、ルシアと二人のサキュバスが目を赤く光らせながら見ていたのだった。


桃馬「げっ、四組のルビアとエルン!?」


ルシア「桃馬~♪私の鬱憤晴らしに水を差さないで貰えるかしら??」


桃馬「あ、あはは、ごめんなさい。」


桃馬は再びギャグボールを手にして京骨の口に装備させ、ついでに目隠しまでしてあげると言う気遣いを見せた。


そして、何事もなかったかの様にその場を去ろうとすると、二人のサキュバスが背後から抱き付いて来た。


ルビア「ちょっと~、可愛い美女が目の前に居るのに、何もしないで帰るの??」


オレンジ髪の短髪サキュバスの"ルビア"が、桃馬の耳元で囁いて来た。ルビアの性格は、とにかくお転婆で遊ぶ事が大好きな女の子である。


しかし不思議な事に、際どい服装や人前で裸を見せつける事に全く恥じらいは無く、如何にもサキュバスらしい一面があるのだが、実は生粋の生娘きむすめである。


更にルビアは、達者過ぎる口上を始め、軽めの密着や胸を揉まれる程度なら何とも思わないのだが、一般的な性行為に関しては恐怖心を抱いており、サキュバスとしては肝心な本能が欠落している。



エルン「はぁはぁ、す、すまない桃馬、これもサキュバスの衝動を抑えるためだ……、頼む手伝ってくれ……、このままだと、あ、あいつを……。」


金髪で長髪サキュバスのエルンは、桃馬の耳元ではなく、右腕にしがみついては豊満な胸を押し当て、恥ずかしそうに懇願した。


エルンはサキュバスの中でもかなり珍しく、真面目で恥じらいのあるクールで優しいサキュバスである。更に所属している部活は、士道部と言う、居合いあい太刀たち薙刀なぎなた槍術そうじゅつなど、武芸を磨く武闘派の部活に所属している。


しかし、いくら真面目なサキュバスであっても、欲情の本能から完全に逆らう事は出来ず、我慢を積み重ねた結果、最終的に暴走してしまう様な、武骨でムッツリスケベ系の美女である。


ちなみに、エルンも生娘であり、自らの貞操は現在進行形で好いている男子に捧げると心に決めているのだが、根が真面目過ぎる故に、未だに告白すら出来ていなかった。


エルンの好きな男子の正体は、士道部に入っている二学年の生徒はもちろん、二年四組を中心に知られていた。多くの生徒たちが、エルンの好きな男子に対して、二股でも良いから早く付き合ってしまえと、苛立ちを見せるほど注目していた。


ここで小話。

ルビアとエルンの事情でお気づきかと思いますが、春桜学園に通うサキュバス族の生徒たちは、七割近く色々な事情から生娘である生徒たちが多くいます。


これは魔界でも社会問題になっており、その原因として、日本から流通した同人誌を主力としたエロ本を始め、卑猥な"アイテム"が出回った事により、一人でサキュバスの衝動を抑えられる便利さから、若いサキュバスの間で性行為に対する意欲が薄れている事が上げらています。



そして話は戻し。


桜華が見ている中で、生娘である二人のサキュバスに捕まった桃馬は、必死に振り解こうとする。


桃馬「この前まで、こんな事サキュバス染みた事しなかっただろ!?離せって!」


ルビア「だって〜、この前までの桃馬は凄く暗かったじゃん?そんな桃馬と遊んでも楽しくないよ?」


桃馬「できれば今の俺で遊ばないで欲しいけどな〜。」


エルン「わ、私は、その……、桃馬にしか頼めないから、仕方なくだ。」


桃馬「っ、今更だけど何で俺じゃないとダメなんだよ!?」


エルン「ふぇ!?あ、いや、それは…その……。」


ここで再び小話。


仲良さそうにしている三人の関係ですが、恋人と言う恋愛感情は一切なく、ちょっとした訳ありな友人関係として接しています。


現にルビアは、入学当初から他人を"からかう"事が大好きで、エッチな事が出来ない癖に、散々男子たちに誘惑しては、告白を断ったりして、多くの男子たちの心を弄んでいました。


特に桃馬は、からかうには打って付けの相手であり、胸を押し付けたり、誘惑したりと、何かの実験にしている様な感じで接しています。


当然この様な事をして入れば、男子から反感を買ってしまい襲われてしまう事もありました。


それは二学期、始業式の放課後の時。

ルビアは、一人の男子からいつも通り告白を受け、人気ひとけの無い教室に呼び出されました。


するとそこには、十数人のルビアにフラれた男子生徒たちが待っており、ルビアは危険を感じて逃げ様としますが、あえなく捕まってしまい、そのまま、復讐心に燃える男子たちに、危うく貞操を奪われそうになりました。


多勢に無勢の中、ルビアが諦め身を委ね様とした時、たまたま通り掛かった二人の男子生徒が、異変を察して教室へ入り込むなり、押し倒されたルビアを助け出したのでした。


そこでルビアは、その内の一人の男子生徒に心を引かれ、生まれて初めて貞操を捧げたいと思った事は、誰も知らない話でした。




一方のエルンは、クールで優等生みたいな風格があり、最初の頃は、サキュバスとしての証である淫紋を始め、角、翼、尻尾までも隠していました。


しかし、相手を惑わすサキュバスとしてのフェロモンを完全に隠す事が出来ず、そのため、ゾンビの様に言い寄って来る男子たちを尽(ことごと)く冷たい言葉で一刀両断にしていました。


そんなエルンでも、ある日突然、好きな相手が出来たと言う噂が流れてから、クールな一面を見せつつ、時々デレて見せたり、隠していた尻尾と翼も出す様になりました。


ちなみに、この日から全く接点の無かった桃馬と絡む様になり、一時はエルンの好きな相手は、桃馬では無いかと一部で囁かれていました。


当時、彼女を求めていた桃馬に取っては、"禁断"の恋であったが、エルンと付き合える事に期待しつつ、思い切ってエルンの心境を聞いて見ました。


すると、予想打にもしない返答が返って来ました。


エルン「っ、す、すまない、勘違いをさせてしまったな。こ、こんな事をしておいて、説得力が無いと思うだろうが、わ、私は、桃馬くんに特別な好意がある訳じゃないんだ。ただ、その……、時々、こうさせてくれないか?」と言われました。


理由は言えないが、実際大した恋愛感情は抱いておらず、それでも密接した関係でありたいと言う、何とも特殊なフラれ方をしたのでした。


これに桃馬は、ショックよりも複雑な心境が勝ってしまい、エルンの事を訳ありの友人として接する様になりました。



そして今に至り、ルビアとエルンは、久しぶりに元気になった桃馬を"あくまでも"友人として、サキュバス衝動を抑えてもらおうとしていた訳です。



桃馬「と、取り敢えず、今更二人に構っている暇は無いんだ。今の俺には桜華が居るんだぞ?」


ルビア「えぇ〜、いいじゃ〜ん、どうせ私たちは、恋愛的な感情でこうしている訳じゃないんだからさ〜。」


桃馬「る、ルビア!?そんな誤解を招く様な事を桜華の前で言うなよ!?」


桃馬に取ってルビアは、かなりの地雷である。


楽しそうにイチャイチャしている桃馬の姿に、ただ見せつけられている桜華は、徐々に表情を暗くさせ不吉なオーラを漂わせていた。


桃馬「っ、お、桜華…い、いや、桜華様!?こ、これは違うんだ!?これは二人の本能と言うか、俺は桜華にしか興味ないからな!?」


ルビア「ふ〜ん、本当は好きなくせに~!ほらほら~♪」


ルビアは挑発する様に、豊満な胸を擦り上げながら、追い討ちをかける。


桃馬「あぁ、好きだ!あ、いや、ルビアのバカ!?エッチ恐怖症の分際で何好き放題してるんだ!?」


完全にルビアに乗せられた桃馬は、慌てて弁解するために、まずルビアの主張をねじ曲げ様とした。


しかし桜華は、うつむきながら"じりじり"と歩み寄って来る。まさに、"きっと来る"様な感じである。


一方、唯一止めてくれそうな時奈は、クスクスと笑いながら傍観していた。


桃馬(うぅ、時奈先輩め〜、他人事だと思ってからに…、はっ、ま、まさか、これって、さっき時奈先輩が話していた心の隙が命取りって、まさかこう言うこの事か!?)


たまたまとは言え、時奈の悪ふざけかと思って聞き流していた"相手のペースに流されないための咄嗟とっさの訓練"の言葉を思い出した。


現に、ルビアのペースに流され危機的状況に陥っている桃馬は、ようやく時奈の言葉の意味を理解した。


しかし、時既に遅し。


下を向いた視線に桜華の足が映ると、桃馬は恐る恐る顔を上げた。


桃馬「お、桜華……ひっ!?」



桜華の瞳に光はなく、禍々まがまがしく漆黒に染まった瞳が、仲良さそうにしている三人を睨んでいた。


桜華「二人とも、私の桃馬から離れてください。」


桜華は、桃馬に付着した二人のサキュバスを剥がすため、背中を刺す様な低い声で語りかけた。。


すると、桃馬と一番距離の近かったルビアは、身の危険を感じて大人しく離れた。一方のエルンは、正気を取り戻し慌てて謝りながら離れた。


桜華「二人ともありがとう♪」


恐怖のあまり大人しく桃馬から離れてくれた二人にお礼を言うと、桜華はそのまま少し怯えている桃馬に抱きついた。


この時桃馬は、桜華の嫉妬を感じた。


愛されている証ではあるけども、一瞬でも感じた命の危機にはそれ相応の恐怖を感じた。


桃馬は、そんな恐怖心を誤魔化すため、正気に戻ったエルンに声をかける。


桃馬「あ、そう言えばエルン?士道部には行かなくてもいいかな?」


桜華「むっ……。」


エルン「えっ、あ、いや、そ、それは……。」


少し桜華の締め付けが強くなった気がしたが、エルンの動揺した様子にルシアが呆れて話に入って来る。


ルシア「もう〜、桃馬も鈍感で困るわ。今のエルンが正気に戻ったとは言え、欲求を晴らした訳じゃないのよ?まして、今の状態で好きな人に会っちゃったら、トリガーが外れて襲っちゃうでしょ?」


エルン「る、ルシア様!?」


桃馬「好きな人?へぇ〜、エルンの好きな人って士道部にいたのか?」


ルシア「え、知らなかったの?という事は、相手も知らないのね。うーん、桃馬なら絶対に知っている人だと思うのだけど……。まあ、それは置いといて、私もエルンには、いっその事、サキュバスらしく押し倒せって言ってるんだけど、エルンは見ての通り武骨で奥手だからね〜。」


ルビア「うんうん、サキュバスでは珍しい"ツンデレとくっころを合わせた"サラブレッドだからね〜♪落としやすく、落ちた時のエロ差は普通のサキュバスより、ポイントが高い属性だからね〜♪」


エルン「〜っ///わ、私、用事を思い出しました!失礼しました〜!!」


あまりにも恥ずかしかったのか、エルンは顔を真っ赤に染めながら部室を飛び出した。


する、幕引きと感じた時奈は、手慣れた感じでルシアとルビアに語りかけた。


時奈「はいはい、サキュバスの趣味はここまでだ。ルシア、ルビア、早く片付けてもらおうか。」


ルシア「むぅ、はーい。」


ルビア「わ、私もチア部に行かないと~♪」


ルシア「待ちなさいルビア~♪」


こっそり抜け出そうとするルビアの肩を強く掴む。


ルビア「あ、あはは、そうですよね~。わかりました‥。」


観念したのかルビアは後片付けに合意。


こうして京骨と部室は無事に解放されたのであった。




その後、京骨はとある"ジャーナリスト"に、プチインタビューを受けてこう語った。


"ルシアが喜ぶなら俺は何でも受け入れる。むしろ俺は、もっと強い刺激が欲しいくらいだ。あぁ〜、俺の愛するルシアよ。もっと俺に鞭をくれ!"と清々しく語ったと言う。


京骨「語ってねぇよ!嘘記事書いて広報部に売ろうとするな!!」


口ずさみながら嘘ネタを書いている桃馬に、京骨はハリセンで一発叩いた。


桃馬「いってて、いや、縛られてた時、満更でもなさそうだったからさ。」


京骨「言うじゃねぇか、なら……。」


京骨は、桃馬から紙とペンを取り上げると負けじと、嘘記事を書き始める。


"本性出したか佐渡桃馬!彼女が出来て二日目に、二人のサキュバスを部室に連れ込み性加害の疑い。モテない仮面の裏は計画的な獣か?"


桃馬「……やってくれるじゃねぇか。」


京骨「…ふっ、まあ、現実的だろ?」


二人が悪ふざけをしながら睨み合っている隙に、二人が書いたガセネタを時奈が手に取ると、気になったルシアと桜華が覗き始める。


時奈「ふむぅ、ちょっと女子向けではないな?」


ルシア「むしろ、社会的に炎上物ね。」


桜華「うぅ、嘘だと知らないで見たら、どうかしそうです。」


時奈「うむ、そうだな。まして、嘘は良くない。」


あまりにも低評価な感想に、時奈はガセネタの紙をシュレッダーにかけた。


桃馬&京骨「あぁ!?」


時奈「二人ともそこまで、そろそろみんな集まると思うから、ルクステリアへ向かう準備をするんだ。」


時奈の仲裁により、下らない茶番は幕を閉じた。


だがしかし、この後すぐに、再び騒ぎの種が撒かれる事になるとは、まだ誰も知らない事であった。


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