第17話 エピローグ1

 私とリレイアは、街の外へ向かって大通りを歩いていた。

 暴れたゾンビと、リレイアの禁呪の余波で酷い有様ではあるが、人々は必至に街を直していた。

 領主から食料や修理費用の補助も出ているという。

 この調子なら、すぐに持ち直すだろう。

「私が捕まってた時、なぜ助けにきてくれたの?」

 リレイアがふとそんなことを聞いてきた。

「メイドですから。それにしてもリレイア様、捕まっている時でもとても冷静でしたね」

 来るなと言ったのに、と怒るようなリレイアではないが、なんとなく煙に巻いてみた。

 メイドだからというのは本当でもあるしね。

「あら、私のメイドなら助けに来ると信じていたもの」

 これはちょっと嬉しいぞ。

 だったら、最初から「来るな」なんて言わないで欲しかったけど。

「少なくともライゼならそうしたわ」

 リレイアの表情から、その言葉が照れ隠しだとはわかる。

 それでも、彼女の口から出たのが、私ではなくライゼだったのはちょっとだけ悔しいな。

 助けに行ったのは私なんだけどね。

 我ながら器が小さいとは思うけどさ。

 素直に褒めてくれてもいいと思うんだよね。

 でも……特定の誰かに褒めて欲しいなんて考えるようになったこと自体、私も変わったなと思う。

 リレイアはそんな私をちらちら見上げながら、何かを言おうと迷っているようだ。

「ユ……ユキなら、ああ言えばベストのタイミングで来てくれるって思ったのよ」

 さんざん迷ったあげく、リレイアはちょっとそっぽを向きながら、小さくそう言った。

 私はそんなに不満そうな顔をしていただろうか?

 それでも、王族という立場でありながら、友人のような気遣いをしてくれることがとても嬉しい。

 こんな気持ち、転生する前の人生で最後に味わったのはいつだっただろうか……。

 女子二人の友情に涙した日曜の朝。あの時の気持ちを自ら味わえる日が来るなんて、思いもしなかった。


 街の入口まで来たところで、先日リレイアに情報を売りつけようとしてきた中年女魔道士に出会った。

「無事だったようでなによりだよ。ひっひ……」

 彼女は出会った時と同じようにイヤな笑みを浮かべた。

「その体、別の場所で受けた禁呪継承なのですね」

 リレイアは女性がゾンビ化していなかったことに少し驚いたようだ。

「こんな体だからね。せっかくいい食い扶持ができたと思ったのに残念だよ。ひっひ……次はどこに行こうかね……」

 女性はそう言い残して立ち去ろうとした。

「お待ちになって」

 呼び止めると思ったよ!

 リレイアは女性から禁呪継承の儀式を受けた場所を聞き出していた。

 そうだよね! 別の禁呪の手がかりだもんね!

 ああっ! けっこうな金額を情報料として払ってる!

 しばらくご飯は干し肉だなあ……。

「ユキ! 次の目的地が決まったわ!」

 リレイアは満開の笑顔で鼻息を荒くし、空の彼方を指さしたのだった。

 ちなみに、女性から聞き出していた目的地は逆方向だけどね。

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