第3話

 暗雲は経済的領域から忍び寄ってきた。年金は定年した年から一部だけ支給されたが、少額だった。三〇歳を過ぎて専任教員となった省吾の在職年数は三〇年に満たなかった。その年数では大した額は望めまいと思ってはいたが、その通りだった。一方、省吾の文学活動は金を食った。彼は小説と詩を発表するために三つの地域文芸誌に加入していた。その会費と作品が掲載された場合の掲載料を払わなければならなかった。それに小説と詩の全国的な月刊文芸誌を二つ購読していた。これらの経費の数ヶ月毎の支払いが省吾を苦しめるようになった。それに彼が気晴らしにやるゴルフ。本コースを回るのは年間四、五回くらいなのに、それでも彼には負担となった。

 

 負担とはつまり環に文句を言われる苦痛だった。金は全て環が握っているので、金が必要な時、省吾は環に申し出る。環は快くは出さなかった。収入は年金しかなくなったのだから使い方を考えて欲しいなどと言う。まるで俺が無駄遣いをしているようではないかと省吾は心外に思う。省吾にとって文学は生き甲斐だし、人生の目的だ。それは環にも伝わっていると思っているし、解ってくれていると思っていた。しかし、金の交渉を通じて、環にとって省吾の文学活動は金のかかる道楽でしかないことが分ってきた。結婚当初、一〇年経ったら作家になると省吾は環に言っていた。それが実現しなかったので、環は省吾の文学活動を冷やかな目で見るようになったらしい。本人が如何に意気込んでも金にならなければ趣味に過ぎない。道楽でしかない。そう言われれば省吾も悔しい思いで黙る他はなかった。ゴルフとなると、これは純然たる遊びだし、環の不平の言葉を苦笑を浮かべて甘受する他はなかった。

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