彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
YAYOI99
第1話 彼を求めて、三千里 (1)
私、菅原凛(すがわらりん)の初恋は9歳だった。
当時、我が家は大変険悪なムードで、それに嫌気がさして家出した。
塾に行くふりをして、家から逃げたのは土曜日の午後。
習い事はバスと電車で通っていたので、電子マネーを使って外に出た。
学区外を出て、好き勝手に抜け出した。
途中で水分補給やお弁当を買って、手あたり次第、目に入った電車を乗り継いで逃げた。
夕食の時間には、もうどこにいるのかわからなかった。
目に入った古本屋や大型ショッピングセンターを見て回った。
私の生活は過酷だった。
月火水木金土日!
毎日、何か習い事をしてる。
勉強だったり、勉強だったり、勉強・・・勉強ばっかりだよ!
みんなと遊びたい、好きにテレビを見て、ゲームをしたい。
携帯も、パソコンも、監視されるのは嫌。
9歳ながら、疲れ切っていた。
遊びたいと、習い事をへらしてと言っても、聞いてくれない。
「今苦しい思いをするのと、大人になって苦労するのとどっちが良いの?」
そう考えるところは、両親共に意見があっていた。
絶対変えられない。
変わらない。
(言っても、どうにもならないからと、したがっていたけど・・・。)
それを我慢できなくなった。
どうなってもいいからと、覚悟して逃げた。
逃げたつもりだったけど。
「寒い・・・」
夏が終わり、風が冷たくなり始めた頃だった。
お店が次々と閉まる中、ファミレスに移動したはいいが、店員の視線が痛い。
ヒソヒソとこっちを見て話している。
いくら塾帰りの子供が多くても、10時を過ぎても一人でいるのがおかしいと思ったのかもしれない。
私のしたことで、我が家ではとんでもないことになっているでしょう。
バレたら、・・・・・・
・・・・もうバレてるだろうけど、ただじゃすまない。
◇
◇
◇
その後、長くいれそうな場所を転々とした。
でも、長くは居座れない。
最後は本屋さんで・・・本屋さんから、お店の人からも逃げるように外に出た。
暗い人ごみの中を歩いて、コンビニの裏に避難する。
座り込んで考えた。
今夜はどうしよう。
ネットカフェは子供じゃ泊めてくれない。
公園に行こうと思ったけど、場所がわからない。
「だからよ!それじゃ話が違うだろう!?」
「マジだよ!聞けって!」
近くで大声がした。
怖くて、暗がりに隠れる。
知らない大人、知らない街。
そこにいるのが怖くなった。
「・・・助けて・・・」
今さらながら後悔。
怖いよ。
一人ぼっちで、怖い。
――――――――――――――誰か助けて!
「大丈夫か?」
突然、上から声をかけられた。
見上げれば・・・・
「あ・・・」
「お前、迷子か?んー?」
綺麗な顔をした人がいた。
優しそうで、広告塔のモデルでもできそう。
可愛い感じの人。
「どうした?こんな時間にこんなところで?」
「あ・・・」
知らない人にはついていってはいけない。
どんなに優しそうな人でもついていってはいけない。
だけど・・・
「怖がるなよ。とって食ったりしねーから。」
この人、悪い人じゃない。
そんな私の気持ちを察したように、彼は両手を広げて座り込む。
目線を私に合わせながら言った。
「おいで。なにもしない。」
(この人だ。)
直感で思った。
この人なら、私を助けてくれる。
(私を―――――――――――助けて!!)
気づけば、その人の胸に抱き付いていた。
そんな私を彼は優しく抱きしめる。
「もう大丈夫。」
その言葉が引き金となって、私の目からしずくがこぼれる。
「うっぐ・・・うう・・・うええええええぇ!!」
大声で泣いた。
最後に泣いたのはいつだったか。
それぐらい久しぶりに泣いた。
「よしよし。泣くまで、よく我慢したな。」
まるで私のすべてを知っているみたいに、彼は私の背中を撫でながら言う。
それが私は嬉しく、その人の胸の中で気がすむまで泣き続けた。
◇
◇
◇
その人は、私が泣き止むまで、私を膝の上であやしてくれていた。
1人でコンビニの自転車置き場に座っていたのだけど、今は1人じゃない。
「よしよし。いい子、いい子。」
私と知らない人の2人。
いつもなら、知らない人について行ったり、近づいたりしたらいけないとわかっていた。
近寄ってきた人を簡単に信じるのは危ない。
だから簡単に信じてはダメだと言われていた。
でも、この人は違う。
夜の街、少ない通行人がこちらを見るが、なぜかすぐに視線をそらしてそそくさと立ち去る。
それに違和感を覚えたところで、私の涙は止まっていた。
同時に、布を差し出された。
「ほら、使え。」
「あ、ありがとう・・・」
彼が首に巻いていた布を渡してくれた。
バンダナのようだった。
洗剤の香りもしたが、サビ鉄のようなにおいもした。
でも、気にはならなかった。
それよりも、目の前の人が気になった。
改めて、相手の顔を見る。
ふんわりとしたブラウンのショートヘア。
ぱっちりとした優しげな瞳。
細身でいて、筋肉質な体。
すっと通った鼻筋に、うっすらと赤い唇。
本当にその人は・・・
「可愛い・・・」
「は?」
TVや雑誌で見るモデルのように綺麗で愛らしかった。
◇
◇
◇
読んでいる月刊マンガの読者モデルの子よりも可愛い人。
私の言葉に、困り顔で口を開く。
「可愛いって・・・これか?」
そう言いながら彼が見せたのは、腕につけたブレスレット。
「ウサギだ!」
「ツレに、ウサギ年がいるんだよ。」
手を伸ばして触れば、手首から外して私の手に乗せてくれた。
「そうだよな~ちっちゃい子は、こういうのが可愛いもんなぁ~?」
「えっ!?あ・・・うん・・・」
・・・どうしよう、言えない。
(まさか、この『お兄ちゃん』が可愛いだなんて・・・)
そうたそがれて、ハッとする。
(待って!本当にお兄ちゃんかどうか、確かめたわけじゃないじゃん!?)
今触れている胸は、確かにペタンコでふくらみがない。
でも、世の中には貧乳というステータスもある!
パッと見としゃべり方で、お兄ちゃんかな?とは思ったけど、聞いたわけじゃない。
確認もしてない!
服装も・・・
「・・・お兄・・・あ、いえ。変わった服だね・・・」
お兄ちゃんと判断するのはよくなかったので、気になったことだけ聞いた。
これに相手はニコニコしながら言った。
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