番外編 出会い
一之瀬伊月と三峰真綾の場合
冬が終わり、春が始まろうという時期。梅の花は咲き始めるが、桜が咲くにはまだまだ早い、そんな頃だ。
高校入試の合格発表が行われ、私こと三峰真綾は、自分の合否を確認する為に陽乃坂高校へと足を運んでいた。公立の普通科高校である所のここは、特に進学校という訳でもなく、私がここへ進学を希望した時には、先生方にもっといい学校へ行けるだろうとあれこれ薦められた。
それを断ってまで陽乃坂を受験したのは、私自身が偏差値の高い学校へ行く事に興味がなかったのもあるが、なにより家の都合というものが大きい。私の許嫁である、冴木慎之介が陽乃坂を第一志望として受験するのだ。
合格していた中学を蹴ってまで、彼と同じ中学に通わせてきたウチの両親だ。高校も同じ所に行けと言うのは自明の理であった。私としても異存はない。この冴木慎之介という男、性格の方はかなり残念な感じなのだが、あれでなかなかいい奴なのだ。悪い人間ではない。少なくとも私は結構気に入っている。
さて、それはさておいてだ。陽乃坂高校の校門を潜った私は、昇降口前に貼り出された合格者の一覧を確認しに行った。
0280。
ずらりと並んだ合格者の受験番号の中に、私は自分の番号を見付ける。学力的には問題のない所なので、周りの受験者たちが大きく一喜一憂している中で、私はほっと息を吐くに留めた。
……まあ、英語は自信がなかった訳だが。もしそれが原因で落ちていたとしたら地味に「しょっく」だ。こればかりは受験前に手厚く指導してくれた慎之介に感謝しなければならないな。自分の学力よりも下の学校の倍率を無闇に上げてしまった手前、落ちたりすればどこにも顔向けできん。
「……256……264……269……」
ふと、私の隣から念仏のように番号を数えていく声が聞こえてきた。
私とは違う中学校の制服を着た女の子だった。肩口で切り揃えられた「せみろんぐ」の髪が似合う、朴訥な印象の少女だ。少女漫画の主人公のよう、と言うとちょっと聞こえが良過ぎるだろうか。
「270……! あっ、もう無理、見れないよぉ……!」
彼女はどうやら、緊張やら怖さやらで自分の受験番号が確認できないようだ。手にしている紙には、0279とある。
ふむ。私は合格者一覧に視線を戻す。私の番号の一つ前だ。確認はすぐにできた。
「279、ちゃんと書いてあるぞ」
「えっ!?」
「ほら、あそこだ。よく見てみろ」
「えっと……あっ! ホントだ!」
私が指し示す先を見て、彼女も自分の番号を確認する。
彼女はあまりの喜びに、それをどう表現していいのか分からなくなってしまったらしく、中途半端に両手を掲げたまま固まってしまう。
仕方ない、と私も両手を上げ、彼女と「はいたっち」を交わす。
「受かったぁ!」
「よかったじゃないか」
「ありがとうございます! ……あ、えっと」
私は彼女に、自分の受験番号が書かれた紙を見せる。
「春からは「くらすめいと」になるかもしれんな。三峰真綾だ。よろしく」
「……うん! 一之瀬伊月です! よろしくね!」
これが、私こと三峰真綾と、後に親友となる一之瀬伊月の出会いだった。
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