Chapter 3-9

「起きたか慎之介。赤西も付き添いお疲れ様」

「いやいや。こいつには言いたい事が散々あったからさ。今日は茅先生も一緒に帰る事になったけど、大丈夫?」

「私は構わんよ。伊月はどうだ?」

「私も大丈夫だよ。それで、茅先生はどこなの?」


 調理実習室に戻って来て、三峰と一之瀬君に茅先生と帰る件を伝える。

 実は、僕が気絶してからそんなに時間は経っていないので、部活はまだ普通にやっていたし、三峰と一之瀬君も別に大して待ちぼうけを食らっていた訳でもない。


 一之瀬君の質問に、歩が答える。


「あんまり部外者がずけずけ入って行ってもアレだから、って外で待っててくれてるよ。……で、三峰さんは何してんの?」

「ん? ああ、ちょっと暇を持て余したので場所を借りたのだが、興が乗ってしまってな。少し待っていてくれるか?」


 三峰の格好は今、三角巾にエプロン着用済みだった。その格好でフライパンを振る彼女の前には、既に出来上がった料理の皿が所狭しと並んでいる。チャーハンにポテトサラダから始まり、鶏肉のトマトソース煮やらナポリタン、果ては麻婆豆腐まで。

 一之瀬君も手伝いながらではあるが、非常に手際よく、次々に料理が仕上がっていく。この短時間でよくこれだけの数を調理できるものだ。三峰だからこそできる芸当なのか。

 この光景を、湯本君を含めた料理研の部員たちが呆然と眺めていた。思わず漏れ出た、といった調子の湯本君の呟きが聞こえてくる。


「素晴らしい、三峰嬢……! ああ、いや、でも僕には一之瀬さんという心に決めた方が……」


 何故だか自然と僕の眉根が寄った。何故だ。

 そんな僕の視線に気付いた湯本君が話し掛けて来る。


「具合はどうですか?」

「まあ、ご覧の通りだよ。いや、恥ずかしい所を見せてしまったね」

「いやいや、そんな事は……。元はと言えば僕から勝負を持ちかけたせいでこういう事になってしまった訳ですし……。ところで冴木氏。本人の了承もなく捨ててしまうのも失礼かと思って残しておいたのですが……」


 なんだか非常に申し訳なさそうな湯本君が手にしていたのは、僕が作った野菜炒めと言う名の炭である。最後まで手を煩わせてしまって済まないなと思いつつ、捨ててもらうように頼む。

 だが、横合いからそれを止める声が掛かった。


「……勿体ない。私が食べる」

「って、部長!? 部長!? 部ちょおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ……明日の朝刊、僕が捕まった記事とか載らないよね?

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