Chapter 3-2

 歩が赤点0だと聞いて、笠原君が笑みを浮かべる。


「よかったですね、歩先輩! 伊月先輩も、三十位おめでとうございます!」

「ありがとう、このみちゃん」


 一之瀬君、顔、顔!

 笠原君の言葉に、一之瀬君は頬を引きつらせながら礼を言う。最近この展開になると、一之瀬君が怖い。歩もその怖さを感じ取ったか、僅かに背を反らしている。

 まあ、笠原君を振り解いたりしようとしない所を見ると、何で一之瀬君が怖いのかは分かっていないようだけれど。


「こ、このみちゃんはどうだったんだ?」

「あたしですか? あたしも赤点なしです! しかも中学の時には取った事ない点数取っちゃいました!」


 にこっと笑い、Vサインを作る。


「よかったじゃないか、笠原君。これも教え方がよかったお陰かな!」


 と僕は髪を掻き上げながら胸を張る。しゃきーん。

 笠原君も、部活のない日は勉強会に参加していた。特にテスト一週間前は全部活が休みになる為、五人での勉強会が連日行われていたのだ。


「はい! 勉強見てくれてありがとうございました、冴木先輩、三峰先輩!」

「礼には及ばんさ。英語は慎之介に丸投げで、四人分の負担を背負わせてしまったからな」

「ふふふ、まあ四人分と言っても、一人分は去年やった所だからね! 僕の頭脳をもってすれば容易い事さ!」

「うっし、見るもん見たし教室戻るかー」


 と、ポーズを決めている僕を置いて、みんなはさっさと帰って行ってしまう。

 今日はやたら褒めてもらえるなーとか思ってたらこれだよ! いや、なんとなくそろそろかなっていう気はしてたけど済みません落ち着くので置いて行かないでくださいお願いします。


 慌ててみんなの後を追おうとした僕の耳に、こんな声が聞こえて来た。


「人に教える余裕があるとは、流石学年一位は違いますね」


 この慇懃無礼な声はよく知っている。今回のテストでも僕の真下――つまり二位の所に名前がある男子生徒、湯本良邦ゆもと よしくにだ。

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