Chapter 2-2
放課後になり、僕たち四人は図書室に集まった。笠原君は部活があるため、今回は欠席している。
「このみちゃん、逃げたな」
「うん。逃げたね、このみちゃん」
彼女の名誉の為に言っておくが、女バスは本当に今日は練習がある。それを口実に逃げた訳ではない、絶対。……多分、恐らく。
「さて、それじゃあ分からない所があったら遠慮なく訊いてくれて構わないよ」
「三峰さん、ここなんだけど」
「真綾、ここ教えて」
「あの、君たち聞いてます?」
勉強会を始めて開口一番、僕は髪を掻き上げながら言ったのだけれど。せっかくこの僕が君たちの助けになろうというのに、何故三峰に訊くのか。って言うか歩! 君がいつもそんなんだから、一之瀬君まで真似するようになってるじゃないか!
「はっ。ついそういう流れかと思って……。ごめんね、冴木君」
「フォローの言葉が身に染みるよ、一之瀬君……」
君って意外と流れに呑まれやすいんだね。
「まあまあ。訊いてやるから落ち着け?」
「………………」
僕は何を言っているんだこいつはという目で歩をじーっと見つめた。
じーっ。
「……シン、恐い」
「でなきゃ困るよ」
「流石に弄り過ぎだ、赤西。勉強が進まん」
「はいよ。三峰さんにそう言われたらな」
と、歩が開いて見せて来たのは数学の教科書だった。
歩はどちらかと言えば理数系が苦手なタイプだ。まあ、だからと言って文系が得意と言う訳でもないので、そちらも気を抜く訳にはいかないのだけれど。
もちろん、入学してからこの方、学年一位をキープしている僕に苦手な教科なんてものはない。ふふん。
「冴木君、ここなんだけど……」
お次は一之瀬君だ。彼女が見せて来るのは英語の教科書だ。彼女はどうやら、何系が得で苦手という訳ではなく、どの教科にも覚えの早い所、躓く所がそれぞれあるようなタイプらしい。
それにしても。
「英語か。こればっかりは三峰に訊く訳にはいかないからね」
と、三峰の方を見ると、彼女は待ってましたと言わんばかりのタイミングで英語の教科書を開いて見せて来た。
僕が言うのもアレかもしれないが、この完璧超人の最大の弱点がこれだ。
じっと見つめていると、彼女は頬を真っ赤に染めて言う。
「え、英語が苦手でなにが悪い!」
既にお気付きの方もいたかもしれないが、三峰真綾は英語が苦手だ。
その苦手っぷりたるや、どうやっていつも赤点を免れているのかちょっと勘ぐってしまうレベルだ。
「君と言う優秀な家庭教師がいるからな。感謝している」
「と、当然だね! もっと敬うべきだよ、うん」
いかんいかん。いきなり殊勝な態度を取られるものだから、つい困惑してしまった。落ち着こう。
さて。勉強会も順調に進み、いい時間になってきた。図書室もそんなに遅くまで開いている訳ではないから、そろそろ帰らなければならない。
「もうそんな時間? そうだ、まだ時間があるなら、誰かの家で続きしない?」
一之瀬君の提案に、僕も歩も三峰も頷く。
では誰の家がいいだろうか。
「じゃあやっぱりここは、言いだしっぺの法則という奴で……」
「ダメ。絶対ダメ」
一之瀬君の笑顔を見た瞬間、僕と歩は凍り付いたように何も言えなくなった。
二人で三峰に視線を投げ掛ける。一之瀬君の親友である所の彼女なら、一之瀬君の家にお邪魔した事もある筈だ。だが、三峰は僕たちが視線を向けた瞬間に顔を背けてしまう。
「止めてくれ。言ったら私は一之瀬家の敷居を二度とまたげなくなる」
そのまま語る三峰の背中に哀愁を感じて、僕と歩は顔を見合わせ、無言のまま「この話題はスルーで」ということで頷き合った。
「んじゃあ、やっぱりここはシンの家だろ。そんなに遠くないし、広いし」
「冴木君の家、行ってみたい! メイドさんとかいるんでしょ?」
「まあ、一応ね」
僕が答えると、一之瀬君はより一層目を輝かせた。なんだろう、憧れでもあるのかな。
物心付いた時からそういう人が家にいた僕にとっては、むしろみんなの家にいない方が驚きだった。
「やっぱそう考えるとシンって凄いよな」
「そうなのかい?」
それは僕が凄いわけではないと思うのだけれど。
よく分からずに疑問符を浮かべていると、三峰が場を纏めてくれた。
「慎之介の家で勉強会の続きをやるということでいいな? では、行こうか」
「うーっす」
「メイドさんっ、メイドさんっ」
……「勉強会、だよね?」と思ってしまった僕は無粋だろうか。
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