昨日見た夢・つれづれ短編集

ましさかはぶ子

89 鈴の音 - ホラー -



いわゆる幽霊、霊は何かの錯覚だ。


はっきり言おう。

私は信じていない。

そんなものはないと私は信じたい。


だがそれでもどうしても理解できないことがある。




たまに車で通る道の横にある場所だ。


そこはかつて何かがいる……と言う噂があった。

昔その近くで大きな事故があり、

悲しい事にかなりの方が亡くなったのだ。

その後噂が立ったが除霊など行ったらしい。

なので今では全く話を聞かない。


もう何もないのだ。

それは分かっている。

だがそこを通るたびに私は緊張した。

なるべくその道は避けるのだが、

自宅に帰る時はその横の道を通らないとかなり遠回りになる。


その日は時間がなくそこを通らなくてはいけなくなった。

嫌な気持ちがしたがそこのそばには信号があり、

そこを止まらずに抜けられると良いなと思った。

だが信号は赤になり、仕方なく私は停車した。


その途端、助手席でうふふふふと女の子の声がした。


私は緊張する。

すぐに何も知りませんよと言うふりをした。


だが鈴の音がする。

今までそんな音はしていなかったのだ。

助手席には私のカバンが置いてあるが鈴はついていない。


その時信号が変わり私は慎重に車を発進させた。

車が走り出しても鈴はずっと鳴っている。


私は困ったことになったと思った。


ともかく相手からは私がどれほど知らないふりをしても

もう気が付いている事は悟られているのだ。


彼らはそう言う点ではかなり敏感だ。

不思議を理解する者を見つけるのは容易いだろう。

何しろ彼らはその人達に何かをして欲しいからだ。


助けて欲しい、家に帰りたい、どうにかしてくれと。


だがこちらは何を言っているかほとんど分からない。

焦れるような気持ちはなんとなく感じるがそれだけだ。

ほとんど何も出来ない。


そしてこちらが何もしないと相手は怒る。

勝手なものだ。

こっちは分からないのだから。

そしてそれが続くと逆恨みする者もいる。

やがて恨みが募って邪悪なものに変わることもある。


先ほど聞いたあの笑い声は半分ぐらい

何かに変わりかけている気がした。

悪戯してやろうと言う声だ。


そして私は運転をしている。そこで悪戯されては……。

鈴の音はずっと続いている。


「……好きなところで降りていいよ。」


私は走りながら言った。

独り言だ。

鈴の音が止まる。


「家に帰りたいのかな、行きたいところがあるのかな。」


するとふっと潮の香りがした。

海の方だろうか。

今いるところは少し南に行くと港がある。


「あのね、私は次の信号を曲がるの。

南には行かない。」


私は右折車線に入る。


「ここをまっすぐ進む車は南に行くよ。

ずっと南は港だから海だよ。

もし違っていたら別の車に乗ると良いよ。」


信号が変わる。

ふっと気配が変わった。

そして鈴の音はもうしなかった。


私は呟いた。


「……帰れると良いね。」



あれが何だったのかは私は分からない。

そして私は霊現象は全く信じていない。

あれは脳内のバグだ。間違いない。


だがあの道はもう通りたくないと私は思った。






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