昨日見た夢・つれづれ短編集

ましさかはぶ子

83 竹取の翁 - モヤモヤ -




わしは、その、そこに子どもがいるなんて

知りもせんですよ、

だって自分の土地ですが。

そこに子どもがいるなんて思いもせんですよ。


そりゃね、竹が光っていりゃ見に行きますよ、

当たり前じゃ。


それでぱんと切ったら中からごろごろと。

最初は中に石でもあったかぐらいですわ。


でも血が飛んだんでね、

これはなんかの動物かと。

人なんて思いもせんですわ。


でも飛んだのが人の頭みたいでこけしかと思ったんですわ。

よく見ると人なんでね、届けたんですわ。


故意?

そんな訳ない、竹の中に人がいるなんて

信じられんでしょ。


光ってるから変だと思わなかったかって?

そう思ったから切ったんですわ、

えっ?不注意?

ならあんたならどうしますか、

自分の土地の竹が光ってて、

そこに子どもが捨てられてるなんて

どう考えても分からんでしょ。



え、え?嘘じゃろ、

月の貴人の娘?

なんでそんなもんがわしの竹の中に?


治外法権?

竹の中?

治外法権だから月の法律が適応されるって?

わしの土地の竹だぞ、

そこに勝手に子どもを入れておいて、

信じられん、

わしのどこが悪いんだ!

大逆罪?

しらん、そんなの!


月に引き渡しするって?

わしは行かんぞ、わしは悪くない!

ばあさん、ばあさん、

ばあさんを置いて行けるか、

おおい!ばあさん!






「竹の翁の引き渡しは完了しました。」


それを聞いた裁判長が暗い顔をした。


「実に後味の悪い事件だ。

元々罪人である月の姫を黙って竹に入れて

地球に堕としたのが悪いのに。」

「月とは引き渡し条約があるので

どうしても翁を引き渡さなければなりませんでしたが、

翁の最後まで無実を訴える声が哀れでなりません。」

「そうだな、翁の無実が認められて

無事戻って来られるよう我々も思案しよう。

それで次の案件は、」

「はい、桃の中にいた男児を真っ二つにした

老女の事件です。」

「……気持ちは分かるが、見た事がないものに対して

いきなり刃物を振り回すことは

控えていただきたいものだな。」


裁判長は大きなため息をついた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る