昨日見た夢・つれづれ短編集

ましさかはぶ子

61 1317



この惑星の夏が来た。


この星の公転軌道は楕円形をしている。

そしてこの惑星系にはもう一つ生き物がいる惑星があり、

そちらも楕円軌道を公転している。

この惑星より少し公転周期が長い。


夏はどの惑星も恒星のそばにいるが、

それが終われば徐々に恒星から離れる。

冬では恒星は空に小さく光っているだけで

地表は氷漬けだ。


だが冬が過ぎると春が来る。

毎日ほんの少しずつ恒星は大きくなり、

そして夏が来る。


大地から氷は消え、うっすらと植物が生えて来る。

生き物も生き生きと行動し始め、

この星はまるで祭りのように華やかになるのだ。

長い冬の後の短い夏だ。


「今年は良い夏になりそうだ。」


ここは宇宙局だ。

この星はかなり科学力が進んでいる。

他の星にも植民星があり移民も進んでいた。


「最近発見された星の状況はどうだ?」

「まだ若い星ですね、知的生命体はまだいません。」

「それで何か実験がしたいと話があったが聞いているか?」

「ええ、これです。」


彼はケースを出した。

透明なその中には一種類のある昆虫が沢山いた。


「この虫は1年幼虫のまま地中で過ごし、

夏に羽化して繁殖をします。」

「そうだな。」

「これを発見された新しい惑星に放ちます。」

「ふむ。」

「この星は我々の惑星ととても良く似ています。

ただ公転周期が0.076年で、

我々の惑星の夏時期の恒星からの距離の位置を、

楕円でなく円軌道で公転しています。」

「公転周期は非常に短いな。

それならその星では常に夏なのでは?」

「いえ、自転軸が少し倒れているので、

各地で違う複雑な気候の様です。

それでそこに移された昆虫が

この惑星で何世代も繁殖をすると

卵から成虫までの期間が変わるかどうかと言う

実験がしたいそうです。」

「まあ逃げ出さないようきちんと区分けすれば

問題ないだろう。」

「それでここと連星の惑星にいる

同種の虫も実験したいと。

その惑星と比較すると公転周期は0.058年となります。」

「この昆虫はよく似たものであると分かっている。

住む惑星が違うだけで成虫になる期間が違うからな。

同じ惑星で繁殖させると

その期間は変わるかどうかだな。」

「どちらもそれぞれの惑星で夏に羽化しますから。

移動させた惑星に合わせて羽化までの時間は変わるでしょうか。」

「どうかな、どちらもいつも驚く程大量に羽化するからな。

あちらの惑星に合わせて夏に繁殖したら、

あの星はこの虫が支配する事になるかもしれんぞ。」


そしてその実験は実行され、

青い色をした惑星にその虫は放たれた。


それはその星に広がらないよう飼育されていたはずだった。

だがいつの間にかその虫はそこから逃げ出していた。


そしてその虫がどのように繁殖するかの実験を

確かめる者はいなかった。

この虫たちが元々いた星はもう無くなっていたのだ。


その虫は長い時間をかけて青い星で増えていく。


もうその虫がどこから来たのか誰も知らない。

だがその虫は夏が来る度に生まれては来なかった。

13年と17年と言う長い時間をかけて

成虫となり地上に出て来るのだ。


はるか遠い彼方の星の記憶をこの虫だけは覚えていた。


そして今年はその虫は同時に出て来る。

221年ぶりに。




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