29 タルカス




週に一度貯えた食べ物がほとんど無くなる。


毎日コツコツと貯めているのだ。

生きているといきなり悪い事が起きてしまうかもしれない。

そんな時のために俺は食べ物を貯えているのだ。


そして冬が来れば俺は眠る。

それこそ重大事だ。蓄えは必要なのだ。


だがそれは突然起こる。


何者かに俺は持ち上げられて不思議な所に入れられてしまう。

周りはつるつるだ。

昇る事も出来ない。

必死に逃げようとするが絶対に出られない。


そしてしばらくすると元の所に戻されるが、

俺の匂いはほとんどない。

俺は慌てて巣に入るが、

そこにはわずかに食べ物だけが残されているだけだ。

あれだけあったひまわりの種はほんの少しだ。

それが週に一度起こるのだ。


一体誰だ。

俺の住処を荒らす奴は。


俺は怒っている。

本当に怒っているんだ。


俺の生活を踏みつけにする誰か。

毎日俺は必死に生きているんだ。

夜中に走り続け食べ物を見つける。


生きるためにやっているんだ。

生き残るために。


許せるものか、

絶対に許せない。


いつかこんな目に遭わせている奴をやっつけてやる。

全てを踏みつけて俺は全部を破壊してやる。


本当に俺は怒っているんだ。





「もう、自分が欲しいって言ったのに

あの子は全然世話をしない。」


私はぶつぶつ言いながらジャンガリアンハムスターの

ハム子をすくってバケツに入れた。

中に入れるとハム子はぴょんぴょん跳ねる。


「可愛い。」


私はそう呟くと巣の中にあるひまわりの種と巣材を少しだけ残して、

後は全部捨てた。

そしてケージごときれいに洗う。


「ペットは良いけど面倒くさいなあ。」


ケージを洗い上げると雑巾で拭いて、

少し干してから巣材を入れた。

新しいエサも綺麗にした巣に入れて回し車も入れた。


「巣に少しだけひまわりの種と巣材を戻しておくからね。」


そしてバケツの中で跳ねているハム子をそっとケージに入れた。

ハム子はしばらく慌てたように中を走り回る。

綺麗になった回し車でも走っている。

一晩で5キロ以上も走るらしい。


「私もこれぐらい歩けば痩せるのかな。」


私は少しばかり音がする回し車を見て、

新しいものを買わないとだめかなと思った。


洗い始めてからハム子を戻すまではほんの10分程だ。

だがハムスターにとってはとても長い時間かもしれない。


可哀想だなとは思うが

放置して不潔にしてもいけないのだ。


「勘弁ね、ハム子。」


そう言えば雄なのにハム子とは。

だが名前を付けたのは私ではない。


まあいいやと思いながら、

もうすぐ子どもが帰って来る。

おやつの準備だと私は台所に向かった。






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