第13話公爵家へいこう!

 諸君おはよう。


 いやぁ、いつになく腰が軽い。

 え、下品だって? 知ったことかッ!


 朝日が昇り始める前に目を覚ますと、腕の中には満ち足りた表情のイルメシアがすやすやと寝て居る。


 よほど疲れているのであろう、ベットから私が起き上がっても起きる気配がない。

  

 人間の手足ではない義手や義足も、不足し完璧足りえないからこそ美しい。

 

 彼女は愛される事への瑕疵とでも思っているだろうが、その憂いこそ愛おしく感じてしまう私も少しおかしいのだろう。

 

 三人目のベイビィが産まれてもおかしくないほどのカウンセリングは成功したとだけ言っておこう。


 お湯で温めたタオルで昨夜のカウンセリング後を拭いながら部屋の喚起を行う。

 

 仮にも王族を手籠めにしたあの怪しいおっさん誰だ!? と言われないように体裁だけでも取り繕っておこう。


 粗方清掃が終わったため朝食までまだ時間が余ってしまった。

 

 ベットに戻るとイルメシアへ腕枕を再開しヒトトキの微睡みに戻るとしよう。

 

 こう、事後の女性特有のフェロモンのような香りはなぜこんなにも落ち着くのだろうか? 女体の神秘であるな。







「母様ッ! 母様ッ! どこですか!? 母……様……」


 うむ。騒がしいな。

 

 部屋の入口へと目を向けると驚愕と共に段々と鬼のような形相へと変化していっているキルテちゃんが。


 視線の先には……ああ、裸のイルメシアが居たな。うん、マズイぞ。


「――シンタ。覚えてなさいよ……早く準備して朝食を取りに来なさい。誤魔化しておくから」


 ヒエッ。


 私の首筋をこれでもかとスリスリしてくるイルメシアをトントンと頭を叩き、起こしてあげる。寝起きにスマッシュヒットを叩き込みたい衝動に襲われるも理性を総動員させ耐える。


「ほら、起きなさい。キルテちゃんに目撃されたぞ?」


 ボンヤリこちらを見つめるとおはようのキスをしてくる。ううむ、さすがの余裕の貫録だな。慌てさえしない。昨日の小娘のように泣き叫ぶイルメシアはどこへ行ったのやら。


「んっ……朝食を取りに行きましょうか……あなた、また今度ね」


 下腹部をスリスリとさすりながら妖艶な笑顔を向けて来る。

 うーん、負けた気がする。





  機嫌悪そうに黙々と朝食を食べるキルテちゃんにニコニコ笑顔で女の顔をするイルメシア。そして間に挟まれあわあわと混乱するシャリウちゃん。我、我、とか言っててキリリとしていたのに意外と可愛いタイプなんだね。


 向かいに座る私はキルテちゃんのメンチビームをそよ風の如く受け流し惚けている。


「昨夜のうち救援部隊の要請を行っている。予備部隊が控えていた為に夕刻には着くだろう。師団単位で戦力を失った帝国軍の侵攻は小康状態に落ち着くだろう。まあ“だろう”であり確実とは言えないがな」


 シャリウちゃんが手元にある損害報告書と行動予定表を見せながら説明を続けている。まだ幼いながらもキリリと指揮官の表情だ。あ、このパン美味しいな。


「夕刻に公爵家に向かうのは危険、とまではいかないが緊急を要するであろう。こと王女様と王妃様がいらっしゃるのだから」


 まあそうであろうな。

 ココに居る三人であればさっさと私に乗せて高速で移動することもできるが。


「数名の護衛と将校を伴い移動しようと思う。シンタ様についてはどう説明しようか悩んでいる所だ、です」


「敬語はいらないよ。気楽に話しかけてくれ」


「――わかった。昨晩に巨神としてのシンタ様のことでやれ戦力だ帝国へ報復だと我が公爵軍の戦力に組み込める気でいるアホウがおってな。反転攻勢出たい右派が現在力を持っていてな。傘下の貴族もうるさい」


 ああ、いるよね。愛国心が行き過ぎてバリバリの武闘派って。

 

 まあ、こんな冴えないおっさんがでっかい巨神ですなんて言ったら、扱いやすいとでも思われそうだしな。


「まあ、言わんとすることは分かるよ。こんな冴えないおっさんだと扱いやすくも見えるだろうし余計な軋轢が生まれるだろう――死にたいのなら好きにするといい」


 全力で殺気というものを放つ。眼に見えない重圧がこの砦を襲っている事だろう。物理的に干渉はしないとは思うが……ああ、ここまでにしておくか。


「私は私の身内しか助けない。今回、公爵領を救援したのもキルテちゃんにお願いされたからだ。下手にズルズル戦力としてあてにするつもりならば命を掛けたまえ」


 ん。キルテちゃんは当然としてイルメシアも平然としている。シャリウちゃんは……なんで頬を赤らめているのだろう。これ威圧し損じゃないのかな。砦のみんなごめん。


「まあ、シャリウちゃんのお願いなら無理のない程度なら良いと思うよ? キルテちゃんもイルメシアもそれくらいは許容するつもりだったでしょ? ――つまり指揮系統には組み込まず遊撃する傭兵みたいなのかな。報酬はキルテちゃんとイルメシアが決めてくれればいい。あ、技術書や禁書なら閲覧許可をくれれば嬉しいかな」


「んっ――ふぃぃ。わかりました。お任せをシンタ様」


 そんなキラキラした瞳で見つめないで欲しい。キルテちゃんが怖いから。

 

 結局、巨神扱いされていた私はイルメシアとキルテちゃんが持つ宝玉に収納している体で行くことになった。

 

 私は流れの傭兵で合流したということも。あまりいい顔はされなかったが知ったことではない――度が過ぎれば死体が増えるだけだ。


 夕刻に救援部隊がやって来ると共に引継ぎを終わらせて出発。鹵獲されて修理された魔導車両数台に荷馬車を接続して出発する。

 

 貴重な鹵獲品などが積まれており、分解、解析する為に工場へ移送するらしい。


 そう考えると帝国の工業力は進んでいたのだろう。港を複数所持しており外国との輸出入も盛んだとか。どうにかして海へと進出しない限りジリ貧だろうな。


 公爵家での話し合いにより王国の復興を目指すか、公爵領の独立宣言、建国を目指すか。だ。


 ダガラ親子の現在の清々とした表情を見れば……公国の独立宣言だな。

 

 復興を目指すのならば侵略された帝国に対して必ず報復を行わないといけない、

王都が失陥しているからだ。

 

 戦線は拡大し周辺国も巻き込むならば大戦争へと発展することになる。泣き寝入りする積りかッ! と愛国心の強い貴族は反発するだろうが、民間の犠牲者の数は少なくなるだろうね。

 

 王都周辺何ぞどこぞの周辺国にくれてやればいい。その間に公国は公国として立国し立ち回ればいい。

 

 下手に復興するよりも柵を捨て、公国として地力を伸ばしていく方が建設的な安打と思う。


 乗り心地の悪い荷馬車に毛布を敷いてのんびりとイルメシアの膝枕を堪能する。

 

 護衛として私、イルメシア、キルテちゃんとシャリウちゃんしかいないからな、将校に足を踏まれたりもしたが私は心が広い。今はイルメシアの膝枕に免じて許してあげよう。


 舗装されていない道を魔導車両のキャタピラが踏みしめて行く。照明機器も備え付けられているために夜間行軍もできるようだ。

 

 ガタガタと揺れる荷台を揺り籠がわりにひと眠りするとしよう。


 





 朝焼けに照らされて目を覚ますと、ダガラ親子に腕枕をしておりお腹の上にシャリウちゃんが乗っかってきている。

 

 これ、公爵家に到着する前に目を覚ますことが出来て良かった……といえばいいのか?

 

 眠っていることをいい事にこっそりと皆におはようのキスをして大きく伸びをする。んー、自由だ。




 

 遠目に城と見間違えるほどの豪邸が聳え立っている、城ではないが敷地面積では王城に負けていないだろう。

 

 すでに敷地内には入っており、整えられた木々に綺麗な噴水が立ち並び、綺麗な石材で整えられた三本の塔が存在感を主張している。

 

 本邸に辿り着くまでにグネグネと入りくねった作りをしているのは防衛をする際の侵入のしづらさを想定しているのだろう。

 

 軍事力を尊ぶ公爵家らしい邸宅といえば邸宅だな。


 所々に建てられた監視棟には恐らくバリスタか、魔導砲などが備え付けられているのだろう、鹵獲品の解析に導入のスピードを考えれば間違いないと思う。

 

 新しい物でも有用性を認めればすんなり採用する革新的ともいえる現実主義だな。


 これならば、王妃であるイルメシアの話もすんなり……通るといいな。

 

 本邸である門の前に到着すると案内係である執事らしき人物とクラシカルな装いのメイドさん達がお出迎えをしてくる。


 そして奥の方には覇気溢れる壮年の男性、恐らく公爵が待ち構えて居る。

 

 王妃のお出迎えかな、まあ上位者を出迎えないなんてこの世界の思想じゃありえないだろう。


 私が荷馬車を先に降りると王妃であるイルメシアの手をとり降車を手伝う、もちろんキルテちゃんとシャリウちゃんもね、歩き出す三人娘の背後にかしこまってそっとついて行く。


 執事とメイドさん達は私を測りかねているがずっと悩んでいるがいい。

 

 公爵の家系以外には傭兵かお手伝いさんで通すからね。


「王妃様、王女様、無事……とは言えませんがようこそいらっしゃいました。長旅でお疲れのご様子。しばし休まれてください。それと――王都の救援が間に合わず大変申し訳ございませんでした。我が身いかようにも差し出す所存です――続きは我が邸宅にてお話を」


 悲壮な決意をした公爵であろう人物がダガラ親子を邸宅へと案内していく。

 私は別室へと案内されたがゆっくりと今後の話でもしてもらうとしよう。

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