異世界めぐり/ Dimension Drifter

世も末

魔導世界 

第1話めぐるぐる

 数多の■と次元を越え

 物語の■わりは■まりを迎える

 輪廻せし■の行く先は

 ■滅と再生を■り返す





 ――待ってくれッ! そのキンタマ男が君の旦那だと言うのか。

 

 私は将来を約束した彼女に、今日こそ指輪をプレゼントしプロポーズをする決意を固めていた。

 

 約束した待ち合わせの場所には、仲睦まじく抱きしめ合っている男女が。


 背の高いキンタマ野郎と、仕事の同僚で付き合っているハズの彼女がいた。


 声を掛けるや否や彼女がすでに婚約している男性がいる事を告白してきた。


 悔しくて震えて、どうしようもなく涙が止まらなかった。


 なぜ言ってくれなかったんだと彼女を責めもした、だが現実は変わらない。


 彼女は『“さようなら”でも、仕事と恋愛は別だから』と仕事先では無視はされないが周囲に捨てられた男だと噂をされ同僚の目がとても冷たかった。


 これは……夢であってくれ…………現実なんかじゃないっ! フラフラと歩いて行く先には電車が……。





 という夢を見ていた。


 そういえば私は素人童貞だったなと今更思い出す――――ああ、死にたくなってきた。


 昨夜も仕事で疲れて自宅のベットで倒れるように寝て居たはずだ、息苦しく呼吸がうまくできていない感じがしていたんだが…………。


 現在の状況は五感が失われ生きている感覚がない、生命の危機を感じてはいるのだが冷静に思考ができている。――現実的ではないからなのか?


 健康診断でも内臓関係が危ないですよ? と医者に警告されるも、惰性で仕事を続け死んだように仕事をしているだけであった。


 仕事の激務と日頃の不摂生が祟ったのだろう。呼吸ができない感覚に精神的苦痛を味わいながら薄れる意識の中で思い出す。


 ――――生きているのに生きていない。


 私の人生はたった一言で表せるほど社会にとって必要のないちっぽけなものだったのだ。


 このまま深い眠りに落ちるのもいいかと諦念した。


 できれば自由に、自在に、適応し、生きたかった……。思考が途切れる間際、押し潰される思考と共に激痛が走った。





 意識が戻ってくると共に視界に広がる薄汚れた灰色の風景。


 空間の認識すら覚束ない。私は浮いているのか? そもそも、生きているのかさえわからない。


 呼吸は――――していないし、肌に温度も感じない。視覚だけが存在しているのだろうか? このままの状況ではすぐに気が狂ってしまいそうだ。


 自宅のベットで小説やアニメを楽しんでいたのが恋しく感じる。


 そう考えていると周囲の灰色の風景がやや暗くなり、私の愛用していたスマホが目の前に現れ浮かび上がっている。


 私の愛用していた流行りの過ぎたスマホと酷似しているが…………見えているだけで操作できないのであれば楽しめないではないかッ!? 動けない私に手が存在していれば…………。


 見えている範囲の空間に銀色の触手のようななものが現れると、骨や神経、筋肉に変化していき、ビリリと何かに接続される感覚が走ると不思議とこれが私の“手”なのだと強制的に理解させられる。


 自身の手を動かす感覚で銀の腕を意識すると、スマホを掴んで操作する事が可能となった。


 しかし満足に娯楽を楽しむための電波は存在しておらず、ネット環境には接続できないようだ。


 ――――もしや、願ったことが叶えられているのか?


 ものは試しと自身の肉体を妄想する。


 自身の顔を詳細に覚えてはいないが少し欲をかき、悩みであった胴長短足を高身長で引き締まった肉体、疲労しない体力に病気やケガを負わない頑強な肉体を想像する。


 先程と同じように銀色の触手が視界一杯に広がり、取得できていた視覚と思われる情報が途切れ、まばたきのできる視界に切り替わる。


 手や足の感覚が戻ってきたのがわかる。


 視線を下半身に向けると相変わらず銀色の未来型アンドロイドのようだが、割れた腹筋に素晴らしい我が分身が生えているではないか。


 鏡でもあればじっくりナイスボディを確認したいのだが…………数瞬のち目の前に等身大の姿見が現れた。――――ああ、どうもありがとうございます。


 興奮に我を忘れ、様々な事を試しながら楽しんだ。







 現在、私は自宅で使用していたベットに寝転がりながら、スマホで見逃していたアニメをじっくり楽しんでいた。


 地面は存在していないようだが、浮いているテーブルにはいつも愛飲しているお酒に、イカの塩辛とミックスピザが置かれている。


 どうやって電波が来ているのかは分からないが時計も進み、ニュースなどの最新情報が更新されているようだ。


 なぜこのような空間にいるのか、それに自身の基本情報がいまいち覚えていないが今は考える事を放棄している。


 寝すぎで腰が痛くなることも眼鏡を使用しなくてもいいのだ、好きな事を好きなだけできるし、ここでずっとのんびりしていてもいいんだ。





 そういえば何かを願う度に空間の景色が段々と闇色に近づいていっている気がする、願い事を叶えるのは有限なのだろうか?


 自身ができる事と身体のスペックは自然と理解させられ、十全に扱うことが出来る。ただ、“そうあれ”と定められ概念を叩き込まれている気がする。


 私が手に入れた能力は――環境適応能力。あらゆる環境。宇宙。深海。マグマの中にだって生きていける、らしい。検証などできていないので確実な事は言えないのだが…………。


 ベットに寝ながらスマホを見ている時に手の中に持つのが煩わしいな、と思考すると、スマホが手の中に取り込まれ視界内に投影されたモニターが表示されたりしたときは本当に驚いたな。SFの世界に紛れ込んだ気持ちになってしまったぞ?


 しかし神様のように生命を創造したり、想像できない事はできなさそうだ。そう願える私になろうと思考すれば可能にはなるだろうが“私”と言うアイデンティティが崩壊しそうなので辞めている。

 

 それにこれ以上理を捻じ曲げると何か恐ろしい事が起きると危険な予感がしている。


 身体の試験運用をこの空間で行ってはいるが体を運用する為のエネルギーは何かしら食物や物質を取り込まないといけないようだ。


 手や足などを鋭くさせて槍のように変形したり、液状化して薄く延ばせたり、有名な粘性生物のように変化したときは驚いたな。

 

 エネルギーを消費し物質の生成する能力もあるようだ。この空間ではまだ試せていない。


 物理現象に偏ってはいるが銃器や光学兵器を生成するなどロマン溢れることもできるだろう、私の頭が原理を理解し想像できれば、だがな。


 唯一の不安が生殖活動だが…………可能だ試すには相手がいないことが最大の問題だな。それと自身の遺伝子情報はどこかに保存されており、ある程度の遺伝子操作も可能との事だが…………このことはその時になって考えればいいだろう。


 今の私に必要な事は高度な開発や研究できる能力だ。補助頭脳と言えばいいのかね? 人間を辞めるかもしれないが、そう考えるのは今更だ。すでに人間を辞めていることは自覚をしているからな。


 このままずっとひとりっきりではとても寂しい…………。共に生き、寄り添い、忠言もでき、一緒に人生を楽しめる相方が欲しい…………。


 そう願うと胸の中心部が熱くなっていく。それに周囲の空間も急激に闇に包まれていき視界が歪む。


 ――――これは…………やらかしてしまったかもしれない。


 存在が食い破られそうな感覚に襲われるも意識を保とうと気合を入れる。


 恐らく何かしらのエネルギーが枯渇してしまったのだろうか?


 虚無がじわじわと広がると虫食いの様に私の存在が食い破られバラバラにされていく。


 私の能力で唯一頼りになるのはかなりリソースを持っていかれ作成された環境適応能力だけ。


 自身の名はすっかり忘れてしまったが、良く人に言われていたこと思い出していた。


「■■■さんってうっかりしていますよね? 凄く迷惑です」


 私の視界は虚無に飲み込まれ再び意識が薄くなってしまう、次に見る夢はいい夢だといいのだが。









 ――――いってらっしゃい。

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