私は自分の死ぬ予定を知っている
もちづき 裕
第1話
アルジェントロ領にあるダンペッツォ山からタジム盆地を眺めてみれば、群れとなって現れた魔獣が行き場を失って、岩場に体当たりをしながら駆け回っているのが良く見える。
毛足の長いバロッファは牛種に近い見た目をしているのだが草食ではなく肉食で、この盆地まで追い込むまでの間に村を二つほど滅ぼしている。
今は繁殖期のため特に凶暴な上、群れの長が代替わりをしたという事も相まって、今まで住処としていた場所を捨てて、人が住む領域まで進出してきたのだった。
『デイシャ・パーラ』
範囲を決めて魔力を地面へと流し込めば、盆地に誘い込まれた百頭にものぼるバロッファがぬかるんだ地面へと沈み込んでいった。
四肢の関節まで沈みこんでしまえば、どれだけ凶暴な魔獣でも身動きが取れない。泥濘んだ土をそのまま固めてしまえば、後は部下たちが剣と槍を使って全ての魔獣を仕留めてくれるだろう。
全ての魔獣が絶命したところで、こちらを見上げたアルジェントロの兵士たちが勝鬨の声を上げた。
「ウォーーーーーーーッ!」
「ルカ様ばんざーーい!」
土魔法を得意とする私はルカなんて名前じゃない。
私はルカの妹のピア。
兄の代わりに領主軍をまとめて魔獣の討伐のために働いている。
「魔力切れしてないか?大丈夫か?」
後ろから心配そうに声をかけてきたのは、本来なら兄の副官として働く予定だった従兄のラウロ。魔獣討伐なんて野蛮な事をしたくないと言って、兄が魔獣討伐を拒否したため、今は私の側近として働いている。
「大丈夫だよ、これくらいだったら余裕だから」
余裕なんて嘘だ、だけど、弱みは誰にも見せられない。
「そうか、あんまり無理するなよ」
「ああ」
頭がくらくらする。
吐き気がして気分が悪い。
それでも平気な顔をして馬に跨った。
我がアルジェントロ領は僻地とも言われるような場所に位置しており、最近では隣国の襲撃よりも魔獣の襲撃の方が多いというような有様となっている。
被害を受けるのは森からも近い小さな村で今のところはおさまっているけれど、今後、このままで行けば、人口の多い街まで魔獣の被害が広がる事になるだろう。
魔獣が来ないようにするために、より強力な魔石を用意して結界を張るようにすれば良いのだろうが、そんな金が我が領にあるわけがない。
いくら魔獣の素材を売って金にしたとしても、到底、結界魔石を買うほどの値段には届かない。それだけ魔石は貴重で高価なものだった。
長毛種のバロッファは骨から内臓まで売り物になるため、商人は大喜びするだろうけれど、私には何の足しにもならないのは確かな事だ。
「うわっ!臭っ!何だその匂い!獣くさいにも程があるんだけど!」
兄のルカと私は双子だ。
二人とも髪の毛は辺境独特とも言われる虹色で、瞳も金色とこれまた珍しい。
兄も中性的な顔立ちをしているため、性別が違っていても、全く同じ人物のように良く似ている。
ただ、兄は短髪、私は腰まで伸びた長髪で、同じように騎士服に身を包み、私は腰に剣を差しているが、兄は無腰。
兄の代わりに作戦に参加している私だが、ピアと自分の名前で呼ばれる事はほぼない。辺境の地で戦っているのが私の兄という事になっているから、名前だけはルカと徹底しているところがある。
「バロッファの討伐に出ていたのだから仕方がない事でしょう」
ラウロが兄の前に立ちはだかりながら言い出した。
「そろそろ妹に任せず、貴方様が出てもよろしいのですよ?貴方様も土魔法の使い手ではないですか?」
「嫌だよ、獣くさいのは嫌いなんだ」
兄は不貞腐れた表情を浮かべると、
「それに僕はこれから王都に行くのだから、魔獣と戯れている暇なんかないんだよ。魔獣なんかを倒すのは、獣くさいピアにぴったりの仕事だよ!」
ニヤニヤ笑いながら言い出したのだった。
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