第41話 彼女は、俺のことを、試している?
いや、変態なのだろう。
この前、そんな彼女から使用済みのブラジャーを貰ったからである。
ほぼ初対面な感形成なのに、いきなり、恥ずかしげもなく下着類を渡してくるのだから、驚きだ。
初命もどうしたらいいものかと頭を抱え込んでいたくらいだった。
そんな経験をしている際、初命は大きなものと直面している。
恋人がいるのに、見ず知らずの美少女と、朝っぱらから密会していること。
今、初命と向き合うように佇んでいる彼女は、パッと見、清楚系である。
変態には見えないのだが、二人っきりになると、別人かと思うほどに雰囲気が変わってくるのだ。
水曜日。
今日は比較的朝早くに学校を訪れていた。
初命が、聖嶺に言い寄られるに至ったのには、理由がある。
それは、さかのぼる事、数分前――
初命は特にやることもないのだが、何となく早めに自宅を後に、今、校舎内に登校していた。
最初は、教室に向かおうと思ったのだが、昨日の水源小豆との小説の件もあり、朝早すぎると思ったのだが、部室へ顔を出そうと思ったのだ。
が、やはり、小豆はいなかった。
まだ、朝のHRが始まるより前の時間帯。
初命は部室棟の空想部で一人。
小豆が来る前の間、本棚にあった小説を読んでいたのだが、たまたま、とある子が部室に入ってきたのだ。
それは、聖嶺である。
彼女はちょっと、お話いいかなと言い、部室内にいた初命に優しく声をかけてきたのだ。
最初のうちは、清楚系で人当たりのよさそうな立ち振る舞いで問いかけてきていた。
この前の変態的言動は何かの勘違いだったのだろうかと思ってしまうほどに、大人しい態度。
お姉さん然とした面影があり、初命は彼女に言われた通りに従うことにした。
普通にやり取りをする感じなのかと考え、初命は聖嶺に導かれるように廊下へと出たのである。
それが最大の間違いだった。
今思えば、せめて空想部の部室内に呼び込むべきだったとさえ思う。
小豆に、聖嶺との関係のことについて聞かれたら、少々困るところだが、そこはうまく取り切れればいい。
聖嶺にとって、有利なる場所に引っ張り込まれたことで、自由が利かなくなる。
こうなってしまってはどうしようもない。
初命は今、部室棟の空き教室に二人っきり。
初命には恋人がいるのだが、そんなこと、お構いなしに距離を詰めてくる彼女。
何を考え、このような誘惑をしてくるのだろうか?
まさか、浮気させるのが本当の狙い?
ということは、聖嶺は初命のことが好きなのかもしれない。
自意識過剰な結論に至ってしまう。
たとえ、過剰な思考回路に陥ったとしても、この現状をなんとしてでも絶対に乗り越えなければならない。
この年上の女の子からの誘惑から逃れ、浮気という絶対にしてはいけない展開をうまい事回避するしかほかないだろう。
今までだって、そうやって乗り越えてきたのだから――
初命は拳を軽く握り、勇気を振り絞って彼女と真剣に向き合うことにしたのだ。
「俺、本当に彼女がいるから。そういうのはよくないと思ってて」
初命はそう言った。
ハッキリと伝えた方がいい。
そう思っての発言である。
「でも、どうして、俺に、そういうことを……」
一応、伺うように問いかけてみた。
「私、本当にあの子のことが好きかどうか、試しているだけだから」
「結城さんとのこと?」
「そうだよ」
聖嶺はどうしてそんなことを聞いてくるのといった感じに、疑問交じりの表情を浮かべていた。
「わかってて、付き合うとか、そういう発言はよくないと思うし。聖嶺さんって、結城さんとどういう関係なの?」
「知りたい?」
「はい……」
興味本位とかではない。
本当に、なぜ、ここまで関わってくるのか、知りたくてしょうがなかった。
付き合っている前提で、初命に接点を持とうとしているということは、奈那とも何かしらの関係があるのだろう。
そうとしか思えなかった。
「私とあの子って、姉妹なの」
「え?」
時間が止まったかのようになった。
「姉妹……ですか?」
「ええ」
「姉妹ということは、聖嶺さんが、この学校に転校してきたことって知ってるんですよね?」
「多分ね」
「多分?」
初命は首を傾げた。
姉妹ということはいつも一緒に過ごしているとかではないのだろうか?
血の繋がった関係同士なはずなのに、彼女の態度に違和感を覚えてしまう。
「私と、あの子って。小学生時代にね、別々になったの」
「別々? 家庭の事情的とかで……」
初命は気まずそうに問う。
「そうね、奈那は父親の方。私は母親の方で、生活していたって感じ」
「大変だったんですね……」
「ええ、でも、人生だもの。しょうがないでしょ。それと、あの子は昔から何もできない子だったし。今頃、どうしてるのかなって思って。こっちの地元に戻ってきたってわけ」
「そうなんですね」
「それに、来年から通う大学に近いってこともあって、いっその事、引っ越しちゃおっかなって」
「すごいですね……」
行動力がある人だと思った。
「まあ、いいじゃない。私が決めたことだし。それに、あの子、大丈夫? 大変そうにしていない?」
「今、大変そうにしてますけど……生徒会で色々なことがあるみたいですし」
「じゃあ、あなたが、何かやってあげなさい」
「そのつもりですけど」
初命は自分の思ったことを口にする。
「では、私が本当に、二人がふさわしい関係か、ちゃんと判断してあげるから」
「判断ですか?」
「ええ。そうよ。そのために、ここに来たってこともあるわ。でも、私のブラジャーを手にするなんて、ちょっとよくないかなぁ?」
「それは、聖嶺さんが……」
「そういう言い訳はなし。本当に、あの子の彼女なら、うまく断ればよかったじゃない」
と、彼女は初命の耳元で囁く。
どう考えても、誘惑してきているような気しかしない。
「これから、あの子にふさわしいか、どうか、ちゃんと、判断してあげるから、よろしくね♡」
追撃してくるかのように、聖嶺から意味深な感じに言われる。
初命は、彼女の快い体の匂いに圧倒されるだけであった。
こ、これから、どうすればいいんだろ……。
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