第32話 俺は今後のために、彼女には本当のことを言いたい…

 須々木初命すすき/はじめは、水源小豆すいげん/あずきが所属している空想部に入部することになった。


 まだ、本当の意味で彼女との責任は果たしていない。


 だから、入部するという考えに至った。


 付き合うという以外の方法での責任の取り方。


 小豆は、初命に対して好意を抱いていて、初命が誰かと付き合うと知った時、驚きを隠せない表情を見せていた。


 彼女には申し訳なく思うが、そういう判断を下さなければ、初命の今後の生活が狂ってしまう。


 結城奈那ゆいき/ななとは正式に付き合うことになり、そのためには、現在進行形で関わりのある二人との関係性を解消する必要性があったからだ。


 一人目である小豆とは、ギリギリ解消できたと思う。


 小豆は戸惑い、納得していない表情はしていたが、部活に入部してくれたのなら、自分の中で受け入れると言ってくれた。


 すんなりとではなかったが、彼女が何かしらの形で納得してくれたのであれば、よかったと思う。


 やはり、数股なんて、互いのためにとってもあまりよくないもの。


 多少の苦しさを感じることになったとは言え、これが正解の形かもしれない。

 初命は決別するように、拳を強く握りしめていた。


 あとは、もう一人――黒須音子くろす/ねこだけである。


 彼女とは本当に解消できるかはわからない。

 けど、自身の心内を曝け出さないことには何も始まらないと思う。


 音子と色々なことをしてきたが、ここは真摯に向き合い、彼女が納得できる展開に持っていくしかない。


 それができるかどうかよりも、やってみる他ないだろう。


 そんな初命は机に座り、授業を受けていた。

 チャイムが鳴り、授業が終わる。


 初命は授業中、先生の話を聞きつつも、今後のことについて考えていたのだ。


 本当であれば、授業の方に集中するべきなのだが、どうしても、脳内から音子のことが離れなかった。


 疚しい思いが、僅かにでも残っているからこそ、悩み考え込んでしまう。


「では、終了な」


 男性の先生は言う。


 その先生は必要な教材を片付け、教壇前から急いで立ち去っていく。


 今から昼休み時間なのだ。

 先生も早くに休息を取りたかったのだろう。


 初命は黒板に記された文章を簡易的のノートに記し、机に広がっていた教科書の類を片付けた。






「昼休みじゃん。奈那さ、ちょっと、どっかで食事をしない?」


 いつも通りの声で話しかけてくるのは、奈那の友達二人。


 奈那は席から立ち上がると、ちょっと待ってと、二人に言っていた。


 すると、奈那は背後を振り向き、席に座っている初命へと視線を向けてきたのだ。






 校舎内。四人は学食近くにあるフリースペースにいた。


 テーブルを囲うように座っている。


「ねえ、二人とも、今週中の休みにテーマパークに行く予定だったでしょ。それで、須々木君も誘っていい?」

「別にいいよ」

「私も、拒否する必要性もないし」


 意外にも、二人はすんなりと受け入れてくれていた。


 でも、なぜ、奈那は一緒に行こうとしたのだろうか?


 初命は右隣に座っている奈那の様子を伺う。


「須々木君もそれでいいかな? 予定とかも大丈夫?」

「大丈夫だけど」

「では、問題ないわね」


 奈那はホッと胸を撫でおろす。

 と、彼女は瞳で初命にだけ合図をしてきた。


 テーマパークで一緒に過ごしたいのだろう。


 初命は雰囲気的に、そう察した。


 そのあとも、今週の休日の予定を、四人で昼食をとり、テーブルを囲いながら話し合う。


 ようやく恋人らしいことができるきっかけが手に入り、内心、初命は胸の内が高鳴り始めていた。


 あともう一つの悩みを解消しなければならない。

 初命はそう強く感じることになった。






 今日の昼頃。今週中の休みについて話し終えた後、初命は三人とは別れていた。


 まだ、休み時間は残されている。


 早いところ、音子とのやり取りを終えるべきだと思い、彼女の教室までやってきていたのだ。


 音子の教室は、二学年の初命の教室から大きく離れた場所にある。

 普段から訪れることのない場所に、少々戸惑いつつも廊下サイドから室内を覗く。


 いないな……。


 音子の姿が見当たらない。


 昼食中は教室にいないのだろうか?


 他の教室も確認するために、廊下を移動していた。




「初命先輩? どうしたんです? こんなところに?」

「ん⁉」


 いつもながらの声。


 突然の問いかけであったが、声をかけてきたのが彼女だとわかった。


「もしかして、私を探してたんですか?」

「そ、そうだよ」

「じゃあ、私のこと、好きってことですよね」

「――⁉ こ、ここで、大きな声で言うなよ。変に疑われるだろ」

「でも、いいじゃん。私の体だって見たんだし♡」

「そ、それは、ここでッ」


 初命は彼女の口元を両手で抑えた。


 何が何でも、余計な情報を漏洩させるわけにはいかない。


「音子、ちょっと、別のところで話そうか」

「んッ」


 音子は初命から口元を塞がれているため、うまく声を出せていなかった。


 申し訳ない気分だが、こればかりはしょうがない。

 早いとこ、別の場所に移動する事が先決である。






「もう、気が早いんですから、先輩」


 二人は今、校舎裏にいた。


 テンション高めな彼女の態度を見ると、あのことについて話すことに躊躇いが生じる。

 でも、ここでハッキリと言わないと、どうしようもないのだ。


「先輩、今週の休みの日、どこかに行きませんか?」

「……そ、その件なんだけど」

「先輩の方から誘ってくれる予定だったんですか?」

「いや、そうじゃなくて……」


 テンションが狂う。


 音子は可愛らしい女の子。

 妹みたいで、人懐っこいところもある。

 多少は、心が黒かったりはするのだが、長年の友人付き合いとはいえ、ハッキリと決別させた方がいい。


「俺、音子とは付き合えない……」

「え? どうして? 一緒にお風呂だって入ったり、おっぱいもあんなにも揉んだじゃない」

「けど、俺にも事情があるんだ……」

「……初命先輩、最低ですね」


 彼女の嫌悪の混じった声が、初命の心に強く響いていた。


「ごめん……」


 初命はそんな言葉しか口にできなかった。


「私のおっぱいも大きくできていないですし。やっぱり、最初っから、大きな方が好きなんですか?」

「……」


 意見しづらい。

 初命は押し黙ったまま。

 途轍もない気まずさに、今襲われていた。


「でしたら、私にも考えがありますから」


 音子はそういうと、冷たい瞳を初命に見せ、そのまま背を向けると、校舎裏から駆け足で立ち去って行った。

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