第11話 俺は、彼女の前で、後輩を押し倒してしまった⁉

「先輩って、こういうの好きですよね?」


 笑顔を見せ、はにかんでいる後輩。


 誘惑するかのような態度を露わにする彼女の言動に、須々木初命すすき/はじめは尻餅をついたまま、困惑していた。




 後輩の黒須音子くろす/ねこは、上の制服を脱ぎ、黒っぽい色合いのブラジャー姿を見せていた。


 小柄な感じの音子であれば、明るい色合いの下着を好むと思っていたのだが、そうではないようだ。


 制服の中身は、大人っぽい印象であり、普段から感じる幼く、生意気なイメージとは違っていた。


「初命先輩? どうしたんです? 緊張でもしてるんですか? でも、そういう先輩も、私は好きですけどね♡」


 この環境下。

 音子の方が有利である。


 この試着室は、女性用の下着が売っているエリアにあるのだ。


 下手にここから出れば、見知らぬ女性から変な目で見られ、疑われるかもしれない。


 が、しかし、逃げようと思って、易々と逃げられる環境でもなかった。


 カーテンの前には、ブラジャー姿の彼女が佇む。

 スカートの方は履いているため、まだ、色々な意味合いで、初命は心を維持している。




「初命先輩って、私のおっぱいを見て、どう思います? 大きい? それとも小さいかな?」

「そ、それ。今、聞くか、普通……」


 初命は尻餅をついたまま、彼女の方から視線を逸らす。

 極力見ないことにした。


「初命先輩、こっちを見てくださいッ」

「ん――ッ⁉」


 急に、彼女から両手で頬を抑えられ、視線を前へと向けるように促される。


 視界の先には、ブラジャーに隠れた、音子のおっぱい。


 ブラジャーで大半は隠れているものの、谷間はしっかりと見えている。


 今、顔を固定されているため、初命の瞳には彼女のおっぱいしか映っていなかった。


 こ、これ……どうすりゃいいんだ……。


 初命はどうにもできない事態に、体が硬直し始めてくる。


 それにしても、間近で見ると、それなりに膨らみがあるように思える。


 あの日、制服越しに触った。

 その時は、ブラジャーも身に着けていたと思う。

 だから、触った感じは小さく感じたのかもしれない。


 実際に見るのと、触るのは、別物なのだと、今、悟ったのである。




「やっぱり、初命先輩。私のおっぱいばっか見てる」

「……それは、しょうがないだろ。それ以外に見えるものがないんだからさ……」


 初命の声は震えていた。


 彼女から両手で顔を固定されている。


「初命先輩、もう一度聞きますけど。私のおっぱい大きいですか? それとも小さいかな?」

「お、大きいと思うけど……多分」

「本当?」

「うん、本当さ」

「……副生徒会長とは? 比べてどうです?」

「それは、断然……ッ⁉」


 本音を口にしようとした瞬間、初命は口を閉じる。

 ここは穏便に済ませよう。




「音子の方がやっぱり、大きいと思うよ」

「……本音ですか?」

「ああ」


 初命はそう言った。

 どんな返答が返ってくるか、それを考え込むだけで、今の時間が恐ろしく長く感じる。


「本音で言ってもいいですからね、先輩は。私、副生徒会長と比べて、そんなに大きくないですし。わかってますから、それくらい」


 刹那、音子は、初命の頬から両手を話し、開放する。

 そして、彼女は距離を取ったのだ。


「私、副生徒会長には色々と負けてますし。勝てないってのもわかってるつもりです」


 音子は淡々と、小声で言う。


「だから、私、初命先輩が好んでくれる下着を身に着けたいんです。私は先輩に気に入ってもらえるなら、どんな下着でもつけますから」

「いいよ、そこまでしなくても」

「だって、そうしないと、先輩、私と付き合ってくれませんよね? まだ、返答も貰えていないわけですし。後でって、言って焦らされているわけですけど……」


 音子は不満そうに俯きがちになっていた。




「私、ひとまず見せますから」

「へ? 何を?」

「なにをって、これです」


 悲し気な対応を見せていた音子は、急に視線を初命へと向け、自身のスカートをめくりあげていた。


「⁉」


 彼女の制服のスカートに隠れていた新たな領域が明かされる。


 黒っぽい色合いのパンツ。


 その妖艶な代物が、初命の瞳に映る。


「先輩、私、こういうパンツなんです。先輩的に、どんな下着が似合うと思いますか?」

「……な、なんでも似合うと思うけど……音子なら……」


 初命はおどおどした口調で視線を逸らしながら言う。


「初命先輩、ちゃんと見てください」

「み、見てるから……」

「先輩の視線、別のところにいってますから」

「でも、はしたないだろ……そういうの」

「そうかもですけど。先輩のためなら、恥ずかしくなんて、ないですから」


 音子は本気であり、彼女は初命に対して思う気持ちは本物なのだろう。


 けど、エッチな誘いじゃなく、せめて普通の対応にしてほしい。

 そういう誘惑をするなら、公共の場じゃなくて、それなりの場所があるはずだ。


 初命は一旦、態勢を整えようと立ち上がろうとする。


 刹那、足元が滑った感じになり、態勢を崩してしまう。


「せ、先輩⁉」


 正面にいる後輩の驚きの声が聞こえた時にはもう遅い。


 初命は咄嗟に瞼を閉じながら後輩の方へと倒れこんでしまう。




「イテテテ……」

「もう、何をするんですか、せ……⁉」


 音子の抑え込んだ悲鳴のような声が聞こえる。


 初命は瞼を見開いてみると、彼女を押し倒していたことに気づく。

 しかも、音子の胸元を触っているのだ。


 倒れこむ瞬間に、彼女を押し倒し、おっぱいを触ってしまったようだ。


「せ、先輩、私のブラジャー……」

「ん……んッ⁉」


 音子の問いかけに驚く始末。


 おっぱいを触るだけではなく、倒れこむ瞬間、ブラジャーに触れていたようで、そのブラジャーをずらしてしまっていた。


 女の子の体の中で大事な部分が、今、露出している状態。


 ブラジャー無しの状態だと、ハッキリとわかるおっぱいの膨らみ具合。


 今まで謎のヴェールに隠れていた胸が明らかになった瞬間であった。




「ご、ごめん、そういうつもりじゃなくて……」

「でも、先輩……変態です……」

「でも、さっきから普通に下着は見せていたような」

「そ、それは、決心をつけてから見せていたからです。いきなり、見られるなんて……エッチ……」


 仰向けで倒れこんでいる後輩に覆いかぶさっている初命。


 彼女の胸を覆うブラジャーは外れ、おっぱいは丸見え。その上、おっぱいを直接揉みしだいている。


 これだけであればよかった。




「須々木君。どこに行ったの」


 刹那に聞こえる、結城奈那ゆいき/ななの呼び声。


 初命はドキッとした。


 傍から見たら、か弱い女の子を押し倒し、エッチな行為をしているかのような態勢。


 絶対に見られてはいけない。


 そう強く決心を固めていたのだが、カーテンが落ちたのである。

 今いる試着室の中を隠す、唯一の砦がなぜか、外れてしまった。


 しかも、丁度、試着室の前に奈那が佇んでいたのだ。


 これって、相当、運が悪すぎだろ……。


 初命は、後輩を押し倒している姿を、彼女にまじまじと見られる事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る