第五話 青天の霹靂5 叡智の神の末裔に相応しい男
「モーガンは自分の祖父は閣下に大変信頼されていたと言い回っておりましたので、ご存じだと思っておりました」
ざまぁみろ。
そう心の中で呟いた口元は、幼少期からのモーガンに対する積年の恨みが晴れて緩む。気持ち悪い笑顔になっているのを自覚して慌てて手で顔を覆う。
「信頼していた男の孫の名前くらいは知っているさ。あいつは私によく似て優秀な男だった。頭脳明晰で人望もあり、王宮内でも官吏として出世街道を順調に歩み、上級官僚候補の呼び声も高かったのに……私より先に逝ってしまうとは思わなかった。私と真っ当に政治談義が出来るのもあいつくらいだったのにな。本当に惜しい男を亡くしたものだ」
そう言って目を細め今は亡き自分の片腕だった従兄弟に思いを馳せるマグナレイ侯爵は寂しそうに笑った。
モーガンの祖父が信頼されていたというのは本当だったのか。あれだけ閣下が褒めちぎるという事は余程の御人だったのだろうな。生きてらしたらモーガンだって少しはマシに育ったろうに。
マグナレイ侯爵を見つめていると、鋭い眼差しで見つめ返される。
「いいかステファン。私は信頼していた片腕の従兄弟にモーガンという名の孫息子がいる事は知っているが、マグナレイ侯爵家の跡取りに相応しい男としてモーガン・マグナレイと言う名が届いたことは聞いていない」
俺は神妙な面持ちで頷く。
「……ただ……私が跡継ぎというのは、青天の霹靂と申しますか、若輩者の私には些か荷が重く……」
モーガンやモーガンを担ぎ上げてたやつらが侯爵家に相応しくないにしても……いつも万全に根回しして外堀を埋める筈なのに。俺に直接打診するなんて、クソジジイらしくない。
何か裏があるに違い。
そう、例えば他に本命がいて俺は様子窺いの為の当て馬だとか……
素直に喜べず、マグナレイ侯爵の思惑に乗らない様に考えを巡らす。
「いいか。マグナレイ侯爵というのは『叡智の神の末裔』としての振る舞いも求められる。愚者には務まらない。
そう言うとマグナレイ侯爵はニヤリと笑う。
「ステファン。褒められて嬉しいのはわかるが小鼻が膨らみきっている。まずは領主教育として感情を相手に悟られない様にするところからだな」
俺は慌てて手のひらで鼻を隠す。
過去に宰相まで務め上げたマグナレイ侯爵は人身掌握に定評のある人物だ。先程自画自賛した内容をオウム返しにしただけだが、あたかも自分が考えている様に話すのはお手のものにも関わらず陶然とした面持ちで話を聞き入ってしまった。
「私はな、ステファン。お前のその自尊心が高くて承認欲求の塊の様な性格を気に入っているんだ」
「……」
俺の自尊心をくすぐれば思い通りになるってクソジジイに思われているって事だな。
悔しいながらもその通りな自覚のある俺は腹を括った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます