第四話 青天の霹靂4 やんごとなきマグナレイ一族
──やんごとなきマグナレイ一族
ヴァーデン王国内にその名は広く轟き、一族の歴史は神話の時代まで遡る。
建国神話のなかで王族の祖である創世神と創世神を支えた十二柱の神々の伝説は王国の民であればみな幼い頃から慣れ親しんでいる。
建国から王室を支える名門として名高いマグナレイ侯爵家は十二柱のうちの一柱である『叡智を司る神の末裔』とされており、その名に相応しく今なお一族の多くが文官として王宮で働き、一大派閥となっている。
本家ともなれば、宰相や大臣を務める者を多数輩出し、俺の目の前で鷹揚な態度で腕を組み文机に座るジョシュア・マグナレイ侯爵も二十年ほど前に宰相として辣腕をふるっていたという御人だ。
神話の時代から今に至るまでその時々で輝かしい実績を残し、褒賞として賜ったとされる土地は王国内に点在する。俺の様なマグナレイ一族の傍流として末端に名を連ねさせてもらっている下位貴族連中は、その点在する土地のうちの一つの管理者として指名され叙爵された幸運な先祖を持っていたに過ぎない。
俺もこの屋敷に初めて足を踏み入れたのは今日が初めてだが、普通であればマグナレイ一族の末端に名を連ねている程度では、産まれてから死ぬまでの間に一度であってもマグナレイ侯爵家の敷居を跨ぐことはない。
本家であるマグナレイ侯爵家とは天と地ほども立場が違う。
爵位を譲るから養子になれ?
その言葉を反芻しても理解が追いつかない。
確かに結婚をしておらず子供がいないジョシュア・マグナレイ侯爵が、養子をとり家督を譲る事はマグナレイ一族の誰しもが理解している。一族で集まれば、必ずその話題で持ちきりだ。
ただ、血は繋がっていると言っても、俺なんてマグナレイ一族の傍流も傍流……何代遡ればマグナレイ侯爵家の本流に合流できるのかわからない様な立場で、自分が養子になるなど考えた事がない。
貴族は血がものを言う。
幼い頃からよく知る、遠縁にあたる一歳上のモーガン・マグナレイの顔を思い浮かべた。
一番マグナレイ侯爵家に血筋が近いとされるモーガンは幼い頃から「マグナレイ侯爵は俺の祖父の従兄弟にあたり、その祖父はマグナレイ侯爵の片腕として生前はご活躍されていた。信頼されていた祖父の孫である自分が跡取りに指名されるに違いないのだから俺に従え」と偉そうに振る舞っていた。
神童と名高かった俺はモーガンにしてみれば邪魔な存在だったのか、ずっと虐げられてきた。
大切な物を奪い壊された事は数えきれない。
なのに周りの大人たちは咎めることもせずに、マグナレイ侯爵家の威光を笠にきた傲慢なその子供に媚びへつらうばかりだった。
「モーガンが跡を継ぐのではないですか? 一族みなそう思っていますよ」
「モーガン? 一体誰のことだ?」
モーガンなんて見たことも聞いたこともない様な顔をする目の前のマグナレイ侯爵を見て、俺は浅ましくも口元がゆるむのを抑えきれなかった。
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