第34話 再開のリーファ

「ハトだ」


ツリーグルのところへ向かおうとする俺たちの前に一羽の後が降り立つ。

ハトは逃げる様子もなくクチバシで地面をついばんでした。


「見て! 足に何か結ばれているわ」


ハトの足には銀色に光る筒上の何かがくくりつけられている。

俺たちの世界ではその昔、戦の情報を伝えるために帰巣本能きそうほんのうのある鳥に小さな手紙くくりつけて飛ばしたという話がある。

この館が帰る場所だったとするならこのハトの持ち主はツリーグルという事になるだろう。

俺はハトに近寄ると逃げる様子もないので銀色の筒の中身を出した。

中には小さな紙が入っており――こう書かれている。


「すべてを話す。ツリーグル」


ツリーグルの屋敷に着くと呼び鈴を高らかにガン!ガン!ならしてやった。

何ならドアを破壊してやってもいいかとも思ったが事情を聞いてからだ。


ゆっくりとドアが空くと執事が現れてトシユキを招き入れた。

執事は歩きながら「ツリーグルさまを許してください」とつぶやいたが聞く耳を持たないトシユキの姿を見て、「以前より変わられましたね」と意味の分からない事を言う。

ドアが空けられると部屋の奥の窓側にツリーグルが立っていた。

トシユキとツリーグルとの間には机があり心理的には壁があるがトシユキならば簡単に飛び越えて、ツリーグルの胸ぐらをつかむことも出来るだろう。

しかし それをしないところを見ると事の事情がきになるのか、トシユキはツリーグルを見守った。


ツリーグルは窓を開けるとこちらを振り返って歩み寄ってくるとリーファの前に立つ。

「のう 話をする前に――少しだけでよい――抱きしめさせてはくれぬか?」

「変態 おやじ 死ね」

ツリーグルは涙を流し始めた。

片目からの涙、しかし そのうち無い方の目から血の涙が流れ始めた。

「頼む――これっきりじゃ――」

「同族のよしみ――我慢する――血の涙を止めろ――気持ち悪い」


ツリーグルのハグは一瞬だった。

抱きしめてリーファの頭を一撫ひとなでするとすぐに立ち上がって離れた。

その瞳は何かを決心した顔だった。

ツリーグルは手を伸ばすとハトが窓から入って来て指先に止まる。

まるで 操られているように。

「スリースターの掃除――ご苦労であった。お前たちも気づいていると思うがこの街のギルドは表の顔とは別に裏の顔を持っている。

人身売買に麻薬取引――そして、ギルド帳簿にあった汚職じゃ。

この汚職が実に厄介じゃった。

何せワシの研究所との利権りけんを争う事になったのじゃからな。

ワシはギルドメンバーの引き抜きや様々な事をやったが資金の豊富なギルドには勝てんかった。

そこでじゃ。

スリースターを崩すべく――トシユキ。お前たちに掛けてみることにしたのじゃ」


「殴る前に一つ聞かせろ。なぜ 俺たちなんだ?一目ぼれってわけじゃないだろ?

複数の奴らに同じような依頼をしていただけじゃないのか?」


「いいや ワシはお前たちを見ておったのじゃ。エルフの里からずっとな」


ツリーグルは手に止まったハトを見せた。


「こいつの目を見てほしい。片目はハトのものじゃが反対の目は――人間の目じゃろ?

ワシはある方法でこやつに自分の目玉を食わせたのじゃ

遠くを見るために」


遠くを見たいとはだれもが思う事だろう。

トシユキの元いた世界においてはドローンなどはまさにその夢をかなえたものと言えるのではないだろうか?

しかし 問題は自分の目玉を食わせてまでそんな夢をかなえたいかという事。

人間の数倍の寿命があるエルフが10年ぽっちしか、生きられないハトに自分の目玉を食わせたのだ。

そこまでして得たいものとは?

そして エルフの里を知っていることにリーファは疑問を持った。


「お前――エルフの里――言ったな――お前 何者?」

「ワシか? ワシはリーファ お前の父親だ!・・・・・・・


リーファの心臓は張り裂けそうに鼓動を打った。

トシユキもアケミもミリーも衝撃を受けて思考を追いつかせようと必至に頭に血を送るが間に合わない。

一筋の風が窓のカーテンを揺らす。

空は何も知らない済み切った青だったがこの部屋の中だけは何かが竜巻のように渦巻いていた。

意味の分からないハグには意味があった。

親子の対面がこれほどあっさりとしたものでありながらその代償に払ったものは自身の目玉と言うのなら対価としては釣り合うものなのだろうか?


「自分の娘と会えてよかったな。でもさ――娘を危険な目に合わせるなんてクソおやじじゃねぇか?」


「スリースターを一匹ずつ間引いてやったじゃろうが。

それにワシには娘と同じ価値を持つものがもう一つあるのじゃ。

それは――妻――エリーゼ・・・・じゃ」


「お・お母さん・・」


「そうじゃ リーファよ。お前の母は生きておる。

命の炎を燃やし続けているという方が正しいかもしれぬが・・

お前たちを研究所に案内しよう。その資格がお前たちにはある。

今こそ――この世界の砂漠化の理由と――エルフ一族の秘密を話そうではないか」


俺達は念願の研究所に正々堂々と入ることが出来るようになった。

エルフの長老よりも正直に言って、ツリーグルの方が俺たちが元の世界に戻る方法を知っているだろう。

でも リーファの事を考えると探してあげたかった気もする。

そんな複雑な気持ちでツリーグルを殴る気持ちの失せた俺は研究所には行ったのだが――そこで思いがけないものを見ることになる。


「ここが ワシの研究所だ」


ガラス張りのいたる部屋にエルフが閉じ込められていた。

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