第23話 一匹のネコ

殴れなかった。。

背負っているミリーが重たく感じる。

そのとき背中から声がした。

「トシユキよ なぜ殴らなかったのだ?」

「正気に戻ったのか? 騙されたことは許せなかったけどあの場で殴ってもリーファとのことは解決しないと思ったんだ。

俺は元の世界へ帰ろうとしているわけだしリーファの気持ちを考えているのか

と言われたら自信がなかった。

いいや、、ちがうか。ミリー、俺にも実は呪いがかかっている。

元いた世界は呪いだらけさ」


たとえ話が悪かったのかミリーは呪い話で盛り上がってしまった。

宿舎へ戻ってくると門の前に見覚えのある顔がいた。

兵士長だ。

俺達を探していたようで挨拶でもしようかと思ったら 

こちらを見るとあごひげをさすって険しい表情になった。

「ジークが 生きていたんだ。追加の報告が入りしだい早馬を乗りつないで目撃された街へ行くよ予定だ。

待っているぞ。じゃぁな・・ おっと そうそうこれがお前たちの卒業証書だ。

お前たちの事だから卒業証明書を取得しないで出発するつもりだっただろ?

俺が代わりに取得しておいてやったぞ。がははは

リーファにも渡そうとしたのだがアイツは受け取らなかったから返しておいた。以上」


兵士長が去っから俺はアケミにもジークが現れたことやスピルグに騙されたことを伝えた。


「髪の毛の指輪?(うわ~キモ)。ねえ トシユキそれって何か変よ」


アケミが言うには女の子が自分の髪の毛で指輪を作ることは

一部の上級者の方を除いてありえない話らしい。

アケミの言葉を聞いていると安心感があると言うか

裏側の部分を知っているだけに、かき上げる髪の毛も潤んだ瞳も

その声が発せられる柔らかそうな唇からも絶大な信頼感があった。

「私が出来るアドバイスはリーファと二人切りになって話をする事ね(壁ドンしてキスしてしまいなさい。口でわからせるのよ)

私たちは 先に兵士長のところで待っているから必ず連れ帰ってくるのよ!(私たちはお邪魔だしね)」


アケミも上級者の方かもしれない。

だけど これまでずっと一緒に旅をしてきたんだ。

二人切りで話せばきっとわかってくれるかもしれない。


けど、どこへ行けば会えるのか。

ぶらぶらと歩いていると目の前に猫のような動物が横切っていった。

目と目が確りと合ってしまったので偶然 なんとなく付いて行くとその先にはリーファがしゃがみ込んでいる。

猫はリーファのところへ行って体をこすりつけると

リーファは 頭を撫でてエサをあげていた。


話しかけるなら今かもしれない。

体の血が熱くなる。

きっと 今話しかけなくちゃダメなんだと思った。


「リーファ!」


猫とリーファは俺の方を見ると驚いた表情をしていた。


「今さら 何をしに来た?」


「スピルグ 何かと付き合うな!アイツはウソつきだ。

俺とミリーがあんなことになるはずないだろ?

全部スピルグのシナリオだったんだ。

俺達が舞台に逃げ込んだ日からスピルグはリーファを狙っていたんだ

気付いてくれ!」


これでどうだ!

さあ なんでも聞いてくるがいい。

勘違いなんだから 答えられない事なんて何一つない。


「スクールで流れている噂 調べてみるといい」


リーファは後を追いかけてほしくないようにそそくさと言ってしまった。

それでも追いかけようかと思ったけど俺をじっと見ている奴がいる。


ジーー!


猫が大きな瞳でエサを貰いそびれた事を目で訴えかけていた。


「わかったよ。あとで いっぱいエサを持ってくるよ。会わせてくれてありがとな」


猫はこちらに来ると足にすり寄ってきた

「ニャー ニャー グルグル」


出発の準備をしなくちゃいけないと宿舎へ戻るとイチゴが走ってやってきた。

「これ 本気なのれすか?」

イチゴの話では 研究室の引き出しを開けたときに目の前に垂れ幕がおりてきて

その垂れ幕には「好きです トシユキより」と書かれていたらしい。

他の研究者たちから「イチゴが イチゴになったぞ」と言われては恥ずかしかったとか。

すぐにイタズラだと気づいて研究室の人たちはわかってくれたけど噂がスクール内に広まってしまったらしい。


極めつけだったのが何とか6世が現れた事だ。


「我は 何とか6世ではない。ジャン・・6世様だ。

だが そのような減らず口を叩いたり、なぜ我に逆らう態度をとるのか

ようやく理解できたがな がははは」


6世は手紙を見せてきた。

「親愛なる・・6世様・・好きです。トシユキより」と言う手紙だった。

またハメられた。

男にラブレターなんて送るはずないだろ!

でも スクール内の噂になっているに違いない。

あのとき スピルグを殴っておかなかったことを本気で後悔した。

俺は廊下を走った

「ぶっ飛ばしてやる!」


考えてみればリーファの気持ちだってスピルグが作り出した偽物なんだから

リーファに気を使う必要なんて最初からなかったんだ。

「うぉぉぉ!!」


スパン!スパン!


鈍器のようなもので突然殴り飛ばされた。

振り返ると兵士が二人いて俺を睨んでいる。

スクールのデスドーベルマンも連れているぞ。


「トシユキだな? 実はお前。。魔物を召喚できるようになっているんじゃないか?

スクールの噂を聞く限りでは お前は童貞をこじらせていると判断した。

大人しく取り調べを受けてもらうぞ! 行け!デスドーベルマン」


「ワンワン ワンワン」


しゃがみ込んでいる体制の俺にデスドーベルマンは容赦なく襲い掛かろうと飛び上がった。

オナラ玉!!!バブルクラッシュ


俺が逃げたことで色々な人から追いかけられることになってしまい宿舎から逃げ出した。

アケミたちに助けを求めにいくか?

時間を掛ければ解決できるかもしれないけど 

それでは兵士長がシークを探しに出発してしまう。

それに・・元の世界に戻りたいのはアケミもなんだ。

だから リーファを取り戻してまた4人で旅をしなくちゃいけないんだ!


「明日の早朝の練習 それにかける!」


俺は宿舎の誰も使っていないボロい部屋に忍び込んで夜を明かすことにした。

夜の食堂からこっそり食料を持ってきたけど

元々俺の食べる分だったんだから 問題はないだろう。

「ニャー ニャー」

「お前 ここに住んでいたのか?」


猫だ。猫に似ている生物なんだけど・・。

エサをあげて温かい湯たんぽを手に入れた俺は砂漠の夜の眠りについた。

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