第22話 さらわれたリーファ

文化祭も近づいてきてお芝居の方も仕上がってきた。

監督のスピルグは熱心なだけじゃなく丁寧なので感心させられる。

見た目とは真逆の男なのかもしれない。

俺はエルフの歴史について調べている。

スピルグに異世界転移の事をはなすと大書庫で神話を調べてみるといいと教えてくれたからだ。

神話の本を進められたので試しに読んでみたのだけどこの話が教訓めいた童話が多くてツボってしまうものだった。


ふと本から顔を上げるとアケミが見える。

大書庫に用事があるのか?

それとも胸の上に本を何冊載せられるのか挑戦に来たのかはわわからないが

瞳が生き生きしているように見える。

もしかしたら何か重要なことを見つけたのか?


「私たちみたいに異世界に飛ばされた人の記録がないのか調べに来たのよ。

スピルグがトシユキが書庫で調べてるって言うから手伝いに来たの」


もしも俺達より先に異世界に飛ばされた人がいたなら元の世界に戻る方法も調べていたに違いない。

話が盛り上がっていると今度はイチゴがやってきた。


「ここにいたのれすね。スピルグの言った通り大書庫なのれす」


「イチゴじゃないか? 気球の方は順調か?」


「バッチリなのれす。

それよりもトシユキが前に採取してきた氷結の樹氷のおかげで

ニンニクマンの力を強化できるアイテムが作れたのれす」


イチゴは黒いチョコレートでも入っていそうな箱を取り出すと

不敵の笑みに自信たっぷりの瞳で箱を開いた。

中からは銀色のリングがあり装飾の宝石には氷結した部分からモヤが上がっていた。


「パンパカパ~ン イチゴちゃんの大発明~!

名付けて バブルリングなのれす」


以前 デビルマウンテンに行ったときの話を参考に作ってくれたらしく

オナラ玉バブルクラッシュが使えるようになるらしい。

気球を造るために俺のオナラを回収したがるただの幼女ではなかったらしい。


イチゴとアケミと3人で笑い話をしていると

遠くの方で誰かの声がした気がする。

大書庫だから 注意でもされたのか?

「トシユキ」と俺の名前を呼ぶ声が確かに聞こえた。


辺りを見渡すとこちらを見ている人はいないし

書庫で騒いだ罪悪感から空耳が聞こえたに違いない。

それにイチゴがワクワクして生きの荒い犬のようになってきた


「さっそく 使ってみるのれす」


俺はリングを指にはめると腕を振って見せた。


オナラ玉!!!バブルクラッシュ


単にシャボン玉が出来るだけかと思たけど腕を振ったときにイメージが

流れ込んできてこのバブルは遠くへ飛ばすことが出来ることや

高度なんかを調節して弾けるタイミングまで設定できるものだった。

飛ばしたシャボン玉は イチゴがキャッチすると「成功なのれす」といって

はしゃいで見せたが勢い余ってシャボン玉が破裂してガスが飛び出す。


パチン!


スキル:マッドサイエンティストを付与しました。


グッタリとしたイチゴの顔を覗き込む

「イチゴ・・?!」


イチゴはうつむいたままクスクスと笑い出した。

「ようやく、またこの人格に戻れたようだ。

私は 研究室でお前のオナラを扱っていたときに

事故で偶然に生まれたもう一つの人格だ。

クククク。。。そのリング! 私とイチゴとの共同開発なのだよ。

大事に使いたまえ ククククク。。。

さて 研究室へ戻るとするか。

私は魔法が使えない人たちのための気球を造るというくだらないことはしない。

睡眠薬だ!

不眠・・緊張・・イライラ・・万人を救える崇高な発明に戻るとするよ。

ああ・・そうそう。お前のガスは嗅ぎ続けたとしてもデバブの効果は一定時間しか持たないようだ。

興味があるのなら研究が終わると日課のようにアレを吸い込んでラリってるイチゴの方に聞いてみると言い。。クククク。。。」


イチゴはそう言うと大書庫を後にした。

アケミが心配をしていたようだけど時間が経てば元に戻るだろう。

その日は夕暮れまでアケミと書庫で調べ物をした。


舞台ではセリフの少ない俺や元々剣劇が得意なミリーとは違い

シスターのアケミやヒロインであるリーファの練習時間は増えていった。

そんなある日スピルグが困ったような顔をしていた


「困ったYO。でもNA~でもNA~・・」


どうしたのかと話を聞いてみると演劇に必要な小道具のアクセサリーが欲しいらしいけど

リーファの面倒を見なければいけないからいけないのだという。

俺とミリーの二人で買って来てくれないかと頼まれた。


「その場所は一人では行きづらいYO。でも二人なら自然だYO。

そうそう その場所にはトシユキが話していた転移ポータルみたいな

どでかい柱が立っているから二人で見てくるといいYO」


俺達は繁華街を抜けて道路が整理されていない砂漠の砂が積もった道を進んだ。

ミリーは薄着のローブとは言え熱くはないのか?

ときおり見せる生足はサンダルしか履いていないと思わせるほどだ

しばらく歩くと急に人が増えて賑やかな場所にでた。

「ここは・・」


ピンク色の柱に怪しい言葉の書かれた看板

男女が手を繋いで建物の中に出たり入ったりしていく場所だった。

ミリーの顔を見ると真っ赤に赤面をしてゆでだこのような顔に汗をかいている。

「ど・どっ・どどうしよう~・・」


座り込むミリーを見るとローブから見える太ももをスリ・スリとこすり合わせ

ローブにお尻の形が現れたと思ったらお尻歩きで少しずつ後退をしていく。

しかし 今度は上のフードがだれ下がり胸のふくらみが現れたと思ったらローブの留め具が偶然外れて

水着の様な姿があらわになってしまった。 

ミリイーは思わず女の声を漏らす。

「キャ!」


それにしてもここで買ってくるように言われた小道具のアクセサリーは

本当にこんな場所じゃないと買えないのか?

「こんな場所おかしいくないか?戻ろうか?」


と言ってみたけどミリーは両手にコブシを作り口をムの字にして恥ずかしさを我慢する

「だが スピルグが転移ポータルがあると言っていただろう?ここで引き返すわけにはいかん」


そこまで覚悟が決まっているならと勇気を出して一緒に歩いた。

モジモジとするミリーに俺の手が自然に伸びて俺達は手をつないで歩いた。

顔が火照らないわけじゃないけどこの場所を歩くならむしろ自然だろう。

しばらく二人で歩くと白くて太い柱が見えてきた

どうやらこの場所のシンボルにされているようだが


「これは!」


二人が手を繋いで見上げた柱は転移ポータルじゃなかった。

柱は柱なんだけど あっちのシンボルの柱だった。

そそり立つ先端を見たミリーはようやく気付いたようで

「はぁはぁ・・ハーレム・・」と言って鼻血を流してしまうほどだった。

近くにはアクセサリー屋もあってどこにでもありそうなハート形のアクセサリーを買うと

今度はミリーをおんぶして帰ることにした。

街の人たちの中には俺達を見てクスクスと笑ったり

「激し過ぎたんだろ?」

「私も体験してみたいわ クスクス」

といった声が聞こえてきた。

好き勝手なことを言いやがって。


しかし この場所の外に出るとそこには スピルグとリーファがいた。

「ポッポー」

ハトが飛び立つ。。。

スピグルが腹を抱えて笑うように指をさしてきた

「リーファちゃん。見ろYO。ほら。記念にハート形のアクセサリーまで買ってるYO」


リーファは静かな顔でこちらを見つめると瞳からは涙が

一つ また一つと流れだした。

「みんなで私を 騙していたのか?私 要らないなら 言ってほしかった!!」


リーファは行ってしまった。

振り返るときに涙がキラキラと飛び散った。

すぐに追いかけようとミリーを投げ出して走ろうとしたが

スピルグがヘラヘラとした顔で立ちはだかる。

殴り倒してやろうとコブシを持ち上げたがリーファはどんどんかけて行ってしまう

追いかけたい。。でもヘラヘラと笑う顔を殴りたい。。

「お前!!」


怒りがピークに達したときにスピルグがつぶやいた

「すまない。でもこうするしかないんだYO」

そう言うと俺の前に自分の右手の薬指を見せてきた。

そこには 子供が編んだようなヒモの指輪がはめられていたが

よく見るとどこかで見覚えがある。

金色のヒモのリング。


「これな。オレはショートの髪型が崩れるから止めろ

って言ったんだけどアイツ聞かなくってさ。

今はお芝居が大事 だから これで我慢する。って言ってオレのために編んでくれたんだYO

お前は魅力的な男かもしれないけど 誰かの気持ちなんて考えて事ある?

オレはある。オレ 脚本家。お前 自信家。勝負するのか?イエェ~イ♪」


ついにスピルグは本性を現した。

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