第17話 真夏のオアシスと極寒の山

オアシスの街バレルでは湖に泳ぎに行く女や男が増えてきた。

水の掛け合いに追いかけっこ。

砂漠の砂に埋まって砂風呂を楽しんだり

炭をおこして香ばしい何かを焼いているお店もあって

カップルが楽しそうにしている。


「俺も 大好きな彼女にあんなな事やこんな事をしてあげたぃ~!!」


妄想ばかりが膨らんでしまうがそれもそのはずで最近は研究班のイチゴの研究を手伝う日々が続いている。

肝心の研究の方は「もうすぐれす!」「すごい 発見れす!」とか言うのだが

本当のところはわからない。

もうすぐ 文化祭があるのでそれまでには何とかするつもりだろうか?

そう言えばリーファは元気かな?

リーファのお見舞いに行くことにしよう。

きっと また元気な声で俺が来たことを喜んでくれるに違いない。

それとも しばらく行けなかったことを起こるだろうか?

ファイアボールを撃ち込まれるのだけは 勘弁してほしい あはは


ガラガラガラ

「リーファ お見舞いにきた・・・え?」


病室に入ると先生とナースが必死に治療をしている。

ベットには苦しそうにもがくリーファの姿があった。

「リーファ!リーファ!確りしろ!」

「う。。うぅ・・。」


あまりに大声を出したので病室から追い出されてしまい

病室の前のイスに座ってうずくまっていた。

するとしばらくして アケミとミリーがやってきて「どうした?」と聞いてきた。

手に花束なんて持っていたけど 今はそれを渡せる状況じゃない。

リーファの尋常じゃない苦しみ方を説明すると二人の顔は青ざめていった。

そして3人でイスに座って時間が過ぎるのを待っていると病室の扉が開いて先生が出てきた。


「先生! リーファはどうなんですか!」


先生は下を向きため息を吐くと

「ようやく落ち着きました。ですが気力と魔力が落ちている状態です。せめてリーファさんを励ましてあげてください。」


ミリーとアケミが慌ただしく病室に入って行った。

俺も入ろうと思ったそのとき 先生に呼び止められた。


「トシユキさん あなただけ特別にお話があります」


俺は個室に通された。

先生は分厚い本を持ってきて説明を始めた。

「かつて現代の我々ですら理解の出来ない文明を気付いていたエルフたちですが今は希少種と呼ばれていることはご存じですね。

エルフを治療する場合は古代の文献を調べて一つ一つ対処していくしか方法がないのですが

この施設ではこれ以上リーファさんに施せる治療がないのです」


「先生 その話はリーファは知っているのですか?」

「あなたにだけ お話ししました。実はあなたにお話ししたのには訳があるのです」


先生は分厚い本を開くと氷の葉っぱの挿絵の入ったページを指さした。

「氷結の葉と呼ばれるアイテムです。このアイテムはエルフの魔力の・・・バランスを保つ・・・炎と風にいをなす・・・3つ目の属性・・・なのです」


長々と説明をしてくれたけど魔力が関係している話しらしくて今一つ要領を得られなかった。

ただ 簡単に言えばエルフの特効薬になるということらしい。


「それは お高いのですか?」


「安心してください。お金で解決することも出来なくはありませんが

それは大人がやることです。

それにあなたにそれが出来るほどのお金はないでしょう?ふふふ

私は貧乏人からは最低限の治療費しか頂かないのがもっとうでもありますし

実はそのアイテムが手に入る場所を知っているのです」


「では 早速 アケミとミリーも呼んで3人で向かいます」


医者は首を振った

「それはダメだ。リーファさんは弱っている。

仲のいい二人には心の支えになってもらわないと。

今度発作が起きたら私たちでは治療のやりようがないのです。あなた一人で向かってください」


医者は説明をつづけた。

このアイテムは寒いところにでしか採取できないらしく

本の説明を一通りすると医者の指は そびえ立つ高い山を指した。


「この街の源泉となっている年中雪が溶けない山。デビルマウンテンにこのアイテムは眠っています」


行くも地獄、帰るも地獄の極寒の山らしくその恐ろしさは

険しい岩山もさることながら恐ろしい魔物もすんでいるらしい


「童貞をこじらせたものが魔物を召喚する能力を手に入れることがあるというのはご存じですね?

その昔、すべてを諦めてしまった男が孤独の果てにデビルマウンテンに住み着いたのです。

それから100年が経ち今では魔物だけが山をさまよっているという訳です・・なんと恐ろしい事か」


デビルマウンテンには リーファを助けるアイテムがある。

あんな辛い顔をリーファを見なくても済むなら俺はなんだってしてあげたい。


あと・・ちょっとだけ疑問があったので先生に聞いてみた。

「先生 ちなみに童貞を治す治療なんてあったりしますか?」

「ああ もちろんだこの診療所をなめてはいかんよ・・。」


「あるのか!!」


カーテンが空く音がした。

ザザザ~


二人切の会話のはずだったのに 聞き耳を立てていた人物がいた。


「フン!話は聞かせてもらったわ!!」


「リーファの担当のナースさん?!」


大きな体を揺らしドシドシと 音を立てて歩いてくるナースさんは先生の横まで来ると

座っている俺をギョロリのして大きな目で見下ろすと顔のブツブツから威圧感を感じた。

そして先生までもが自信を付けたかのように腕組みをすると自信たっぷりに説明を始める。


「聞かれてしまっては仕方がない。彼女は天才ナース!

患者に手を触れることなく童貞の治療をすることが出来る天才ナースなのさ!」


「フン!!男ってそうなの!みんなHな事しか考えてない。

リーファちゃんがいるのにも関わらず 

さっきから、そぉ~んなHな目で私を見つめて・・イヤ! もう 男って・・・。」


「Hな目なんてしてますか?! ケガレを知らない子馬のような目ですよ」


「まあ・・いいさ。リーファちゃんはいい子だからねぇ。

あの子に免じて今回だけは特別に私が童貞の治療をしてあげようじゃないか!

でも 勘違いするんじゃないよ! 

本当の愛は!

こんなやり方じゃ手に入らないよ!!」


天才ナースさんは ジャンプをすると大きな体を投げ出して大の字に寝転んだ。

ドスン!と大きな音がして建物が確かに揺れたのだが何事もなかったかのように

目玉をギョロリとさせて不気味に微笑むとまな板の上のコイのようになった。


「さあ! さあ! 好きにすぐがいいさ!!」


「できるかぁ!!!!!!」


先生には一応お礼を言って部屋を出た。

何もしていないのに何かを失ってしまったようなそんな気持ち。

大人になるって・・・。いいや そんなことを考えるのは止めておこう。


ガラガラ


病室に戻るとリーファは落ち着いているようで静かに笑みを浮かべてくれた。

アケミの感情はわかるがミリーの顔を見ても リーファの事をとても心配していることが伝わってきた。

この二人には病室にいてリーファを励ましてもらわなくちゃいけない。

俺は 先生との話はリーファはもちろん二人にも話さずに一時の別れを交わすと

デビルマウンテンに登る準備をするために兵士宿舎へ向かった。



「食料 よし! 防寒着 よし! いざ出発だ」 

「待つのれす」


いざ出発!と言うときに 研究班のイチゴに声をかけられた。


「・・・デビルマウンテンれすか?正気れすか?・・・そうれすか。

じゃぁ せめてニンニクマンの研究が終わってから出発するわけにはいかないれすか?

もうすぐニンニクマンの秘密がわかりそうなのれす」


ニンニクマンの秘密がわかればデビルマウンテンを登るにしても心強い。

でも こうしている間にもまた発作を起こしてしまうかもしれない。


「デビルマウンテンに向かうよ」

「そうですか・・ そう言うと思っていたれす。じゃぁ 私の代わりにイチゴちゃん人形を持っていくのれす」


キーホルダーサイズの小さなイチゴの人形だった。

「ありがとう お守りにするよ」

「ふっ ふっ ふっ。それはお守りじゃないれす。研究班のイチゴの自信作れす」


こうして俺は デビルマウンテンを目指すことになった。

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