通りゃんせ、通りゃんせ ‪……

甘寧

第1話

通りゃんせ 通りゃんせ


ここはどこの 細通じゃ

天神さまの 細道じゃ


ちっと通して 下しゃんせ

御用のないもの 通しゃせぬ


この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります


行きはよいよい 帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ


幼い頃に遊んだ事のある遊び歌。

母が散歩中良く歌ってくれた歌。


「カカ様、なんで帰りはこわいの?」

「帰り道は暗くて、鬼が出るからよ。だから玖々莉くくりも日が明るいうちに帰ってくるのよ?」

「分かった!!」



──……その日、私は夢を見た。

7歳になったばかりで、その日は一張羅の着物を着て、貧乏ながらに着飾って七五三のお祝いの為、学問の神様である天神様が祀ってある神社へ両親と一緒に出かけた。


お祝いと言っても、神様に無事に7歳になりましたよ~と言う報告だけ。


その報告も無事終わり、家に帰る為に鳥居をくぐろうとした時に「玖々莉」と呼ばれた。


振り返ると、見たこともない男の人が立っていた。

上等な着物を着ていたから一瞬で私と住む世界が違う人だとは思った。

けど、その人の笑顔は優しくて思わず足を止めてしまった。


「あの……」

「7歳おめでとう。でも、まだ幼い。時期が来たら迎えに行くから」


「待ってて」その一言を言い終えると突風が吹き、目を瞑ってしまった。

目を開けるとその人はいなくなり、鳥居の外側では両親が私を待っていた。

その時、見た両親は何故か泣きながら驚愕していた。


何故泣いているのか、その時の私には分からなかった。

その数日後、近所のおばあらが話しているのを聞いて、その謎が判明した。


「玄さんとこの鈴ちゃん。明日7歳じゃろ?」

「そうさね……玄さんとこもきっとじゃ」

「そうじゃろうな……可哀想に……」


(鈴ちゃんの話?)


鈴ちゃんとは私と同じ長屋に住んでいる同い年の仲のいい友達だ。


その鈴ちゃんの話をしている事に気が付いて、盗み聞きは悪いと思ったが何故か気になり、木陰から聞き耳を立てた。


「そういや、三郎んとこのククちゃんは戻されたようじゃったね」

「そうじゃったそうじゃった。ようやっと7歳まで育てたのにの」

「なあ。かかあは喜んじょったが、三郎は食い扶持が減らせんかったと嘆いとったな」

「可哀想じゃが生きていくにゃ、一人でも食い扶持を減らさにゃいかん」

「ククちゃんもこんな村にいるより天神様の元におった方が良かったじゃろうに」


何の話をしているの?食い扶持を減らす?天神様の元にいる?


「折角着飾っても天神様のお目にかからにゃ連れて行ってもらえん」

「そうじゃな。鈴ちゃんはどうじゃろか」


おばあらはそんな話をしながらその場を後にした。

私は足の力が抜け、その場にしゃがみこんでしまった。


確かに家は貧乏で食べる物も一食ありつければいい方だけど……


(トト様は私を天神様の元にやろうとしたの?)


そこで、私はハッと思った。


一つ上でガキ大将だった大ちゃんも、長屋のお姉ちゃん的存在だった華ちゃんも7の誕生日の日にいなくなった。

カカ様に聞いたけど、奉公に行っていると聞いていた。


じゃあ、私は?


本当は私は天神様の元に行く予定だったんだ。

7歳のお祝いなんて子供を喜ばせるための嘘だったんだ。

トト様とカカ様の顔は、そういう事だったんだ……


全てを知った私は、泣き腫らした顔で長屋に戻った。

トト様とカカ様は心配してくれたが、それが本心かどうか私には分からなかった……



──次の日、鈴ちゃんは長屋に戻ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る