第23話 青き森の大賢者様確定か?

 ※ ※ ※ ※ ※


「一時はどうなるかと思いました」

「ウン。俺もだ」

「柔らかそうなベッドでしたが、使えませんでしたね。残念です」

「そうだなぁ。飲み過ぎて、雑魚寝したんだから」

「屋根が有るぶん、野営よりは良かったがな」

「二人とも、もう少し小さい声で頼む。頭に響くんだよー」


「そうそう。さっき、アネット様が朝飯だって呼びに来てくれましたよ」

「そうかー、でもなー」

「俺達、完全に二日酔いだからなぁ」

「でも、朝めしは食べるんですよね」

「当たり前だろ。ここのは、美味いからな」

「フェリクス、回復魔法をかけてくれよ」

「回復魔法で二日酔いは治りませんよ。何で何時も同じ事を……、知ってるじゃないですか」

「ウーン、神官の仕事じゃ無いって事か」

「当たり前ですよ。私が治せるんなら一番先に自分に掛けてますよ」

「それもそうだな」

「マァ、伝説のエリクサーポーションや完全蘇生呪文のザオリ〇なら可能かも知れませんが、そんなの見た事もありませんよ」

「分かった分かった。ごちゃごちゃ言ってないでメシに行くぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「「「おはようございます」」」


「あれ? リョウター様、女達は?」

「10人分を一度に作るのは大変なんで2部制にしたんだ」

「なるほど」

「ツアーズの皆は先に済ませたからね。因みに、向こうの広場で食後の紅茶を優雅に飲んでいるよ」

「そうでしたか」

「アネットとエベリナは、これからだけどね」

「そうですか」

「じゃ、席についてくれ。アネットとエベリナもな」

「ハーイ」


「うー。オッと、失礼しました。二日酔いなもんで」

「フウゥウゥ……」

「苦しそうだねー」

「マ、たんなる飲みすぎですから。そんなに気されなくとも……、っぅウー」

「ゥ、あ、頭が……イタイ」

「ホー、気の毒じゃな。よし。妾が皆に回復魔法をかけてやろう」

「エ!」

「フン! どうじゃ?」

「「「ェエー!」」」

「治った!」

「痛くない」


「オイ、大変な事を思い出したぞ」

「俺もだ」

「皆もか」

「ウン、ウン。夕べの事だ」

「食事の時だよな」

「カレーを食べてからだ。妙に時間が経っていたんだ」

「そう、そうなんだ」

「あの時、アネット様が余興だと言って、妖精の幻影を見せてくれたんだよな」

「エェ、皆も喜んだんですが」

「見せられた幻影が酷かったなー」

「ホント、酷かったです。なにしろカラ揚げの雨がぼたぼた降ってくるし」

「オムライスが、牙猪みたいな大きさになって追いかけて来るし」

「ポテトフライやイカリングが、大きな口を開けて迫って来たぞ」

「アァ、それも群れだったしな」

「おまけに、逃げた先ではディアナがマヨネーズの沼で嬉しそうに泳いでいたんだぜ」

「ウへ。お、俺が見たのと一緒だ」

「皆が同じ幻影を見たのか」

「だな」

「なら、女達は?」

「あいつらは、二日酔いになっていないから回復魔法の必要が無いだろ」

「記憶が失われたままでOKという訳だ」

「絶対にそっちの方が良いぞ」


「……きっと、あんまりな幻影という事で、誰かがエベリナ様に頼みこんだんだ」

「それで、皆の記憶を消してくれたんだな」

「……そうだったんだ」

「妖精は悪戯好きって話だからなぁ」

「アネット様って、可愛らしい女の子みたいなのに……」


「で、俺達は昨夜の失っていた記憶が蘇った訳だ」

「そうかー」

「じゃ、エベリナ様の回復魔法ってフェリクスが言っていた蘇生魔法ぐらいに凄いんじゃないか?」

「です。まさかのザオリ〇かも知れません」


「片付かないから、早く食べて下さい。アネットもエベリナも食べ終わってるんですよ」

「ハ、ハイ」


 ※ ※ ※ ※ ※


 エベリナの驚異的な回復魔法と、冒険者達の悲惨な体験はさておき、異世界でも二日酔いの症状は似たような物で有ると分かった。では、話を俺っちと女冒険者達に戻そう。


「で、これが交易用の品なのかな?」

「中々の物でしょう。この間のお礼も兼ねているんです。値打ちにしておきますよ」

「ガラス玉に……、これは装飾品なのかなぁー?」

「気に入らんみたいだな。この磨き石なんかはどうだ?」

「ウーン……」


 交易品というのは中々の意味深な物である。その昔、アメリカでは現地人(インディアンと呼ばれる人々である)とヨーロッパの住民(いわゆる白人と呼ばれる者達である)が交易をおこなう場所をトレーディングポスト(交易所)と言ったそうだ。


 ヨーロッパ人は現地人に物を売りつけ(交換とも言うらしいが)ていたらしい。当時、現地人側は毛皮や織物がメインで有った。白人側は道具、工具、刃物、鉄製品、鍋、裁縫具、ビーズ、ビー(ガラス)玉、である。


 特にビーズやビー玉等の品は、遥か昔から交易の必需品である。逸話では24ドル相当の交易品でマンハッタン島を買ったというキラーアイテムである。


 少し話から飛ぶが、現在は似たような感じで、アラスカに昔から住んでいた人用に酒の販売がメインの交易品になっているらしい。


 なにしろ一日中飲んでいるぐらいだから、彼らは人生における悟りを開いた賢者達なのかもしれない。確かに、セイウチやオットセイを狩っているよりよほど楽しいのだろうとは思う。


 多くの国では、お酒に対してかなりの規制がされている。その反対の意味で、日本はトップに近い先進国である。公共の場で堂々と飲酒ができるし、持ち歩きも可能なステキな国なのだ。


 そう、日本は酒の規制が緩いようだ。何しろアルコール度数9%の缶飲料が、コンビニ、駅、スーパーなど様々な場所で、普通に、しかも安く売られている。さらに酒精の高い酒が、街中の自販機で24時間販売されているのだ。


 確かにコンビニで生ビールを売っている国は少ないだろう。訪日した某国の〇〇〇〇ファン(〇にはラグビー・サッカー・ホッケー等、お好きな単語を入れてください)が涙を流して喜んだそうだ。


 ちなみに彼らの合い言葉は、ビールを切らすなだったらしい。何処でも合法的に手に入る日本は、さすが先進国だと、べた褒めだったそうである。オッと、話を戻すんだった。


「これは?」

「これは紙くずでは無いぞ。リョウター様が前回言われた通り、絵が沢山載った古書だ」

「手書きだねぇ。確かに文化的資料になるかーなー。マァ、良いかも知れんが、俺っちが持っていてもな」

「じゃ、少し小さいがオークの魔石はどうだ」

「とれとれだ」

「とれとれ?」

「転送魔法陣に乗る直前に、男達が採って来たんだ」

「フーン。で、とれとれなんだ。オークの魔石かー。やっぱり、異世界なんだなぁ。確かに見慣れない石だが」

「ゴブリンと角ウサギのもあるぞ」

「へーこれがゴブリンの魔石か?」

「角ウサギは少し小さいが数が有る」

「パワーストーンになるのかな。ただの綺麗な石コロみたいだけど。要らないかなー」

「要らないって、魔力は少ないかも知れませんが魔石ですよ」

「おかしいな。魔法使いでなくとも欲しがるのが普通なんだが……」

「魔力と言うが、使い方がなー。それに効果があると証明できないしな。健康商品の通販によくある個人の感想ではダメだろうなー」

「難しいのかー」

「フーン、こっちは色石ねー。奇麗だけど、穴あけ加工がしてないんだ。ブレスレットかネックレスでないと売れないんじゃないか。大きいのは飾り物に使えるかなー?」


「どうですか?」

「そうは言ってもな。ただキレイなだけではなー。それに、オークの魔石だろうが日本では魔法が無いから使え無いんだよ」

「日本って?」

「ここは青き深淵の森だよな」

「イヤ、キャンプ場。日本に有るの。ここと、異世界の青き深淵の森が繋がっているの」

「分からん? 繋がって?」

「ひょっとして、国が違うんじゃないか」

「イイヤ、国でも大陸でも無いの。住んでいる世界が違うから、異世界なんだよ」

「ハァ?」

「話が嚙み合わないのは、一般人の冒険者には理解を超えているからかな。それが普通なんだよな。やはり、妖精やドラゴンとは違うか」


「フム。ミスリルインゴットだったら、どうなんだろう? 分からんけど……。マァ、それは置いといて、俺っちは金や銀だって換金手段を持って無いから文鎮と同じなんだよ」

「文鎮て?」

「文房具の一種、鉄の塊だよ。価値が低いと言う例えだな」

「「「エー」」」

「言っちゃ悪いが、例えオルハルコンやヒヒイロカネだとしても、こっちでは使えないって言っているだろうにー」

「「「エェ、エ!」」」

「証明できない物を、あたかも効力が有るように言って売るのは違法売買だ。となれば犯罪だからなぁ。いつ掴まっても仕方が無いぞ。なぁ、エベリナ」

「俺達は、そんな事は聞いた事ないけど。エベリナ様、本当なんですか?」

「そうじゃ」


「ア、思い出した。ごめん。ごめん。そうだったなー。言ったのはエベリナにだったわ。冒険者の皆は知らないか。でも、本当に使えないんだよー」

「そうじゃの。あの時は、妾もきつく叱られたぞよ。チャンと反省したし。な、アネット」

「アッ! 思い出した。エベリナ、インディアンスパゲティーの恨み。晴らさでおかりょうかー。フー!」

「猫じゃないんだから。アネット、ドウドウ。今度、作ってやるから。な」

「絶対じゃぞー」

「エベリナは口をはさむな! 静かに反省してろ!」

「スマンのじゃ」


「で、何が欲しいの?」

「エーと、砂糖。コショウ。塩。とレトルトカレーでしょ。それに」

「マヨネーズを絶対に忘れないで」

「ディアナ、それは分かっているから。もう立派なマヨラーになったんだな。可哀想に」

「ウーン、そうだなー。交易品を持って帰るのもなんだから」

「……」

「マ、重い目して持って来てくれたんだ。じゃ、遠慮なしに全部貰っとくよ。ありがとう。でも次からは、いらないから」

「全然、嬉しそうじゃないな」

「イヤ、嬉しいよ。感激しているよ」

「ホントー?」

「なんだか膨れっ面みたいだけどー」

「分かっちゃったか。ウーン、しかしなー。正直くれるというなら、その楯の方が断然良いな」

「エ、これ? これが良いの? これで良ければあげるよ。ホイ」

「オゥ。あ、ありがとうございます。ムフフ」

「そんなに気に入ったんだ」

「後、これに合う剣があれば最高だよー」

「あるよ。ちょっと待ってな。ホイ」

「わ、悪いなー。なんか強請ったみたいで」

「気にしなくていいよ。この小剣は刃こぼれも有るし、ガタが来てるからね。こんなので良ければ」

「イヤーホントー、わるいね~」


 ※ ※ ※ ※ ※


「交易品は貰ってやったぞ感がありましたね」

「そうですねー」

「ディアナ。あんな、なまくら渡していいのか?」

「使い古しの盾もな」

「良いんじゃない。小剣は予備でひび割れしていたし。あたりが悪ければ、あと1回保つかどうかだからね。治しに出しても修理代の方が高くつくし」

「フーン」

「何よりも、本人が喜んでいるみたいだったし」

「アァ、それもかなりな」


 ※ ※ ※ ※ ※


「オイ、さっき女達に聞いたんだが、あのリョウター、レッドドラゴンを叱り飛ばすらしいぞ」

「ミラーン。そんなに大きな声で。相手は大賢者リョウター様ですよ。言葉に気を付けないと。もし、気分でも害されたら冗談じゃないですよ」

「エー、俺。ここに着いた時、あいつとため口で話したよ。しまったなー」

「おかしいとは思ったんだ、レッドドラゴンのお嬢様をエベリナって呼び捨てにしてるし」

「一言、間違えばレッドドラゴンがほっておかないと思いますよ」

「そうだぞ、相手はレッドドラゴンだ。下手すると、ここら辺は溶岩の海になるぞ」

「妖精だって、手懐けているみたいだし」

「そうそう、妖精の姫も呼び捨てだしな」

「あり得ない話だよなぁ」

「これから、敬語オンリーだな」

「オンリーだなんって、何だ?」

「うるさい! 婆さんが口癖にしてたんだよ。だけど敬語と言うのは真面目な話だぞ」


「しかし、蛮族用の交易品ならせいぜい2万、3万ゴールドだろう」

「だな」

「リョウター様は、いらないような感じでしたが」

「むしろ、迷惑そうだったぞ」

「分かる。ビー玉だからな」

「大賢者ならいらないだろうし、もしガラス製品が必要になったとしても簡単に作るんじゃないか」

「でもあいつら、やるじゃないか」

「なまくらと、壊れかけの盾だ。それが砂糖。コショウ。塩。に代わるんだ」

「吹っ掛けたなー」

「イイじゃないですか。上手く行けば俺っちたちの分け前が増えるんだし」

「カルロヴィまで運ぶのは俺達なんだがなー。それも重いんだぞ」

「そうだよなー」

「でもマ、俺らは働いてなんぼだよ。言われた通り荷運びするだけさ」

「ウンウン、人間欲をかきすぎちゃいかんよなー」


 ※ ※ ※ ※ ※


「リョウター様は、この青き深淵の森に住んでいるようです。良い人そうに見えますが、人間は裏が有りますからね」

「女達は何か知ってそうなんですがね」

「そのはずなんだが……」

「あんまり、気にしてないようだなぁ」

「ひょっとしたら、悪の魔法使いかもしれませんよ」

「イヤ、それはない。悪人があんなに旨い飯を出すはずない」

「そうだそうだ。エールの扱い以外はまともだしな」

「確かにメシは美味かった」

「酒も中々イケたな」

「彼、この領地の支配者か何でしょうか?」

「あんなに、惜しげもなく香辛料を使うなんて」

「食器もかなりの銘品と見た」

「でも、ここには使用人も奴隷もいないし、チョットおかしくないですか?」

「そこだよな」

「全部、魔法で片づけているとか」

「まさかー!」

「でもな。トイレも風呂も、どう見たって魔法を使っている感じだぜ」

「エェ、温水洗浄便座で確信しました。話では、洗濯機でしたか。掃除機なんてのも在るようです」

「ウムゥー、だとしたら青き深淵の森に住む大賢者と言うのは……」

「そうだなぁ、ここには本当に居るかも知れんなー」


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