キャンプ場から、世界征服する? しないの?

@kato-

第1章 遭遇しました

第1話 キャンプ場。クローズしてます。

 大変、長らくお待たせいたしました。お待ちいただきました皆様、ありがとうございます。はじめて御読みいただく皆さま、ありがとうございます。初回のみ3話までアップいたします。以後は、毎週日曜日更新の予定です。今後ともよろしくお願いいたします。

 尚、作品中に出てまいります個人、団体、地域及び国家の名称等は偶然の一致が有りましても、誹謗中傷する物ではありません。あくまでも創作という事でお願いいたします。

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『ゴロゴロ、ピッカ。ドド、ドーン!』


 ワッ! 雷だ? かなり近いな? 


 西の方で随分と大きな音がしたが、近くの木にでも落雷したかな? よりによって夜中だよなぁ。なんだか少し揺れたようだし。ひょっとしたら雷と地震とが重なったのかなぁ。そんな事あるんだろうか?


 宿直室の常夜灯は点いている……か。ウン、……電気は来ているな。棟に有る大型冷蔵庫のブーンと言う作動音が小さく聞こえている。こういう人工音は、廻りが静かな程、響くんだよ。そう言えば、海外ニュースなんかでは雷が落ちて、山林火災が起きるらしいが、大丈夫だよな?


 でもまぁ、寝ていると小さな地震でも大袈裟に感じる事が有るしな。ザーと雨音が聞こえるから見に行かなくとも良いか。警報レベルだったら役場から連絡があるだろうし。朝になったら視回ればいいか。どれ、もうひと眠りするか。


 ※ ※ ※ ※ ※


 何がどう違うとは説明が難しいが、朝になるとキャンプ場だなーという感じになる。やはり、山の空気は旨く感じる。都会の騒音の中で目を覚ますより鳥のさえずりを聞きながら朝を迎えるのが良いものだ。これは極普通の感覚であり、当然ながら常識を備えた俺っちの意見でもある。


 どうやら昨夜の雨は去っており、何事も無かった様である。先人いわく、夜中に考える事に碌な事は無いと言うからな。朝飯も食った事だし、そろそろ見廻りの時間だな。さて、朝もやの中を、キャンプ場内を決められた巡回コースで廻るとするか。


 臨時管理人となってまだ日も浅いのに、それなりに独り言も板についてきた。そうだ。夜中に、落ちたかもしれない雷の跡でも探がしてみるか? 何か変わった事でも見つければラッキーだなぐらいのつもりで歩いていた。表に出ると朝もやが立ち込め中々良い雰囲気である。雨は止んでるし、いつもの見廻りだが気分は散歩だな。


 一応、昨夜の雷がどうだったか確かめないとな。西側を先に見ておくか。日報にはいつも異常なしと、書くだけだもんなー。たまには違う事も、書かなくちゃいけないんじゃ無いかなーと、思ったりする今日この頃である。朝もやが、少し残っているような中をテクテクとキャンプ場の西の出入り口まで歩いて行く。


「昨日だったよな……」


 何がって、西の入口には地元の人が建立した小さなお堂が有る。その中にはお地蔵さんが祀られているだ。その地蔵さんが何かのはずみで倒れていたんだ。もちろん、向きを直したさー。だが、そのお地蔵さんが今日は見当たらない。お堂だって影も形も無いんだ。オッと、お地蔵さんに失礼だね。居られません。だよねー。


 不思議な事が有るもんだなーと、思っていたら風が出て来たんだろうか? 朝もやが一気に晴れて来た。ふと視線を前に移すと、目の前には400メートル程の草原が広がり、その向こうには暗い緑の森が広がっている。それは今まで見た事も無いような、巨木が生えている大森林だった。


(エ……? !!)


 人間本当に驚くと声にならない声をあげるというのは本当だった。そんな事を思いながら、取りあえず管理事務所に戻る事にした。確かに、ここはキャンプ場だから緑は多い。だが、あんな巨木がボコボコと生えている様な場所では絶対に無い。草原だって無いはずだ……よなー。昨日まで無かったんだし。


 もう一人でのお留守番は止めた方が良いかな。しかし、この俺っちが幻覚を見るとはなー。落ちている物はもちろん、変な食べ物を……そこら辺に生えていたキノコを食べた覚えはない。落ち着け! 落ち着くんだ。


 これって管理ノートに書くべきかな。でもやっぱ、管理ノートにはまだ書かないでおこうとだけ決めた。時間をおいて、もう一度見に行こう。そうそれが良い。ウン、案外と見間違えだったかも知れないしな。


 見間違いだったんだ。そうに違いないと言い聞かせる自分と、そんな見間違いをする訳が無いという自分とのせめぎ合いである。この年でボケてしまうのは早すぎるという結論に達した頃には、また西の出入り口に着いてしまった。


「あるんだなー、森……が」


 ※ ※ ※ ※ ※


 昨日まではごく普通の生活だったんだ。この長閑と言っても良い生活は、先輩にバイト先を紹介された事から始まった。臨時とは言え、俺っちはキャンプ場の臨時管理人をしているのだ。


 今いるのは「青の森キャンプ場」の西の入り口だ。ただし、このキャンプ場は只今クローズ中である。東西2カ所にあるキャンプ場の出入口には、トラ柄のロープが張られており場内進入禁止である事が分かる。そのトラロープには休業中と付けられた札がぶら下がっているだけの至って簡単な表示である。


 外人さんによると、日本人と言うのは、立ち入り禁止用ロープが、一本渡してあるだけで入ってこないモラルの有る民族だそうだ。かく言う俺っちも、ロープ一本張ってあれば普通なら入らない。


 で、キャンプ場は何処でも同じだと思うが、夏のハイシーズンを終えて、秋の連休も過ぎるとホッと一息つけるようになる。秋も深まるとバーベキュウに来る者や、家族連れも少なくなって行くのだ。そして紅葉も終わり、冬にキャンプに来る人達は本当にキャンプ好きといえるそうだ。


 この「青の森キャンプ場」は、所々に昭和の感じがある普通のキャンプ場である。マ、正直に言うと令和に至る30年分が無いくなっている感じと言って良い。以下、俺っちのいる職場なのだが、案内パンフより抜粋して紹介しよう。


 「青の森キャンプ場」は、自然環境が豊かな山間にある美しく、四季折々の自然が楽しめるキャンプ場です。風の音や森の木の薫り、安心してアウトドアライフを楽しめ、みなさまが素敵な思い出をつくれるキャンプ施設です。……ここら辺はマァ、普通である。


 春には花開く桜並木でお花見、夏には水遊びや、すぐ傍の川ではマスのつかみ取りのイベントもあります。秋には紅葉を満喫でき、冬には雪を頂く山々の凛とした風景が広がります。晴れの日は自然に癒されて過ごし、夜には満天の星を見る事が出来ます。確かに景色は良い。……むしろそれしかない。


 多彩なアウトドアスポーツやテニスコート、キャンプ場を一周するウォーキングコース、野鳥の観察なども楽しめます。雨の日は、雨音を聞きながら工作やゲームをしたり、様々な楽しみ方でお過ごし下さい。……雨になったら大人しくしていろという事であり。……下手に川原に行って事故っても知らんぞという事である。


 場内にはテントサイト、バンガロー、ロッジ、コテージ、オートキャンプサイトがあり各所に炊事場、調理台、洗面、が用意してあります。管理棟には売店、自販機はもちろん男女別の水洗トイレ、コインシャワー、ランドリーもあります。キャンプ用品一式のレンタルを行っていますので、いつでも快適なアウトドアライフを楽しむ事ができます。


 以上であるが、規模は少し大きいかもしれないキャンプ場であるが、ごく普通ともいえる。もちろんオートキャンプキャンプサイトに電気は来ているし、今時ちょっと珍しいバブルの置き土産と言うのかもしれないような高級コテージもある。


  ……これは素直に、身一つ(ハッキリ言って、財布の中身次第であるが)で来てもOKですよという事である。もちろん営業努力は、それなりにしているらしい。昨今のキャンプ流行りで夏の間だけとなるが、バーベキュウの食材はもちろん・酒・お菓子・日用雑貨を売ったり、ちょっとしたコンビニ並みの販売量であるそうだ。


 むろん、利用者の為であるが、何をどう忘れても間に合うし、そこそこの売り上げがあると言われている。例の何処にでもあると言われる、世界的な巨大飲料会社の自販機も場内各所に置いてある。因みにストックは、事務所裏の倉庫に山と積まれている。凄い備蓄量であるが、配達の車がなかなか来てくれないので仕方ないそうだ。


 キャンプ場には、買い出し用に中古のワンボックスが置いてある。動けば良いので、紫色に塗られているが気にしない事にしている。ボディの横に、「ようこそ、青の森キャンプ場」とでっかく描いて有る。春になり、お客さんが増えるとバーベキュウ用の食材を買い出しに行くらしい。結構、大量にいるので軽トラから替えたそうだ。


 管理事務所の横には、俺っちのオートバイが置いてある。この、ホン●のス●パーカブは19の時バイトのお金をためて購入した物で、燃費が良いので助かっている。このキャンプ場にも、頑張ってこれで来たんだ。ほんと下駄替わりにも使える、良い奴である。


 話を戻そう。その経営状態なのだが、この町のキャンプ場も少し昔まではスキー客も来て賑わった事もあるそうだ。ここも日本である。残念ながら暖冬になったとかで何年も雪が降らないというのが続いている。


 4・5年前には、スキー場を整備しようという声も有ったが、補助金が出なかったらしい。町役場の人も言っていたがスキー客の急減があり、これは結果的にセーフであり不幸中の幸いあった。


 マ、暖冬と言っても、冬なので山から吹き降ろす風は冷たく結構強い。お客さんの方も、現金なものでスキーはできない事を知っているのか、それともスキー場としての魅力が足りないのか、飽きられてしまったのか定かではないがリピターになるほどお客様は来ない。


 もう経費倒れなので、閉めようかと言う声が出始めた時に、町長が「ゆるキャンプ」ブームという事で補助金をぶんどって来た。選挙公約の一つとして、この町には昔からあったと言うそれなりのキャンプ場。その夢をもう一度と、来春からの再開発に乗り出しだそうとしていた訳である。


 幸か不幸か、冬場という事もありお客さんも少ないので、通年営業していたのを春まで休止して一時閉鎖する事になった。この、あおい町(徳川家の印籠の家紋で有名だと思うけど。漢字で書くと葵の御紋のアオイね)で、運良く? バイトを募集していた訳だ。


 先輩と俺っちは、そんな「あおいキャンプ場」に臨時管理人のバイトにやって来たんだ。マァ、お留守番だね。先輩が見つけてきたんだが、応募者がいなくて即採用との話だった。なぜ? ってなのか説明すると、青の森キャンプ場は結構な山の中に有る。自然豊かなキャンプ場と言うのが売りだからね。


 しかし、ここでは中継用のアンテナが山崩れで壊れたという事も有り、スマホの電波は入らないし、テレビも映らないような不便な所なんだ。今時、ネットが出来ない泊まり込みの長期バイトなんて考えられないだろう。南極大陸でも通じるもんな。


 ネット必須の都市生活者にとっては、忌み嫌われる大自然の中と言ってイイよね。事実、応募者が0だったと言うのも無理ない。だが、おそらくそこが弱点で有り良い所でもあるのだろう。ウン。先輩曰く、物は考えようである。社会的に隔離されているが、お蔭でバイト代の割増が出るのだ。お留守番するだけの、割増の出る良いバイトという事である。


 予定されている改修工事は、春先の少し暖かくなってくる頃からなので、4カ月ほど先になるらしい。お正月も帰れない条件だが、実家でニートしているよりも良いだろうと有難い先輩のお言葉である。


 ただ、今時の話なので、二人で交互にとなるが土曜、日曜日がお休みとなっていて自由行動が出来る。お休みの日には、一人がお留守番となるが、この土日は場内の巡回には出なくとも良いそうだ。


 管理業務と言っても一日に二度、朝と夕方にチェックシートに印を付けながら、キャンプ場内をぐるりと回るだけだ。ネットは町役場まで行けば繋がるんだが、山間の通信塔の修理が長引いていると言う話で携帯の電波は未だに届いて無い。この間きいた話ではエリア拡張工事と一緒に、来春の改装時に変更されたとの事だ。


 管理人のお仕事としては、簡単モードである。最初の頃は、先輩も割のいいバイトだと喜んでいたが飽きたんだろうか? 先輩は直ぐに一人で帰ると言いだした。お散歩するだけの管理業務など俺っち一人で十分である。二十二才の大人だろうと言い切って。一応、どちらが残るか三本勝負したんだけど。あの人は、ジャンケンだけは強いんだ。


 町役場の人に聞いたが、元々念の為の二人募集なので一人でもOKだそうだ。問題は土日の一人だけであったが、バイト代も少し余分に出すので、辞めないでと言われた。いちいち家へ帰るのも面倒だし、交通費だってかかる。そういう訳で、4カ月間だが僕の一人暮らしが始まった。


 先輩が、元気でなと帰って行くのを見送りしながら、西の入り口まで戻ると、お胴の中のお地蔵さんが傾いていた。このキャンプ場が出来る前からある、この地区に昔からあるお地蔵さんらしい。「どっこいしょ」と言って立ちを治す。これも仕事の内かなと思っていた。そして、その日の夜に雷のような轟音がしたんだ。


と、マァ、色々説明したんだが。話が終わっても、まだあるんだなー、あの森……が。

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