塔の下で

橘暮四

第一話 塔の上

「ラプンツェル、ラプンツェル。おまえの髪をたらしておくれ」

優しい声が聞こえる。視界は暗い。でも怖くはない。私はお母さんの腕に包まれている。布団のぬくもりが酷く心地良い。灯油のような、ろうそくのような、甘く昏い世界。

 私はこれが夢だと知っている。この優しい世界がもうすぐ終わることを知っている。もう何回も、同じ夢を見てきたから。でも、ろうそくの火はいつか消えるから美しい。夢はいつか覚めるから心地良い。覚めることのない夢なんて、そのあまりの美しさに私自身が燃え尽きてしまいそうだ。

 ろうが融けていくような、そんな匂いがする。お母さんの声が遠ざかっていく。甘く昏い世界に、冷たい光が暴力的に差し込んでくる。物語の続きを聞けないまま、私はその夢を失う。

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