サイでしょ!  ジムニー×ゆきんこ×御朱印帳

寺原るるる

第0話 ゆきんこ、ジムニーを買う

『もしもーし。もしもしー? 菜津子なつこ、起きてるー?』

「ううーん。雪子ゆきんこ……あんた、今何時だと思ってるの?」

『もうすぐ六時だよ!』

「違うわよ。まだ朝の五時半前よ。んもう。週末の朝くらい、ゆっくり眠らせてよね?」

『ダメダメっ! 今日は菜津子ももう起きて。というかね、今すぐウチに来て!』

「ええっ、今から!?」


 菜津子は重いまぶたこすりながら、布団から起き上がる。

 いつも朝の早い雪子が早朝から連絡を入れることは珍しくない。だが、有無を言わさず家に来てほしいと要求することは珍しかった。


「仕方ないわね。わかったわよ。これから準備して行くから、頭にパンツでも被って待ってなさい」

『はーい。それじゃあ、待ってるね!』


 通話を終え、スマホをベッドに置くと、菜津子は素早く支度を始める。


「あの子、妙にテンションが高かったわね? この分だと、急いで行ってあげないと本当にパンツを被って待ってそうで怖いわ」


 勝手知ったる幼馴染の家へ行くだけだ。化粧も身支度も最低限で良い。

 手早く準備を整えた菜津子は、玄関を出ると愛車のバイクにまたがる。

 本来、菜津子の実家から雪子の実家までは、乗り物さえ必要ないほどに近い。しかし、早朝からテンションが高かった雪子に妙な危機感を覚えた菜津子は、田んぼが広がる先に見える雪子の実家へと、バイクを走らせた。


 エンジンが温まる暇さえなく、菜津子は雪子の実家へと到着する。

 玄関前の、農作業用の軽トラやその横に並ぶ赤いスポーツカーが停められた車庫兼納屋の前にバイクを停める菜津子。

 しかし、菜津子を呼び寄せたはずの雪子の姿はどこにも見当たらない。

 菜津子がスマホを鳴らすと、母屋の反対側から微かに着信音が響いてきた。


「もしもし? 雪子、あんた今、芝生の方にいるの?」

『うん。菜津子もこっちに来て。早く!』

「はいはい、わかったわよ。もう向かってます」


 農家らしい昔ながらの大きな母屋おもやの脇を抜け、南側の居間に面した芝生の庭へと向かう菜津子。

 いったい、雪子はそこで早朝から何をしているのだろう?

 疑問を浮かべたまま、菜津子は芝生の整った庭先に向かう。

 そして、菜津子は見た。

 朝陽を受けて尚、黒く輝く四角い物体の横に立つ、雪子の姿を。


「雪子、あ、あんた……!」


 菜津子は目を見開いて驚く。

 菜津子の驚く様子が満足のいく反応だったのか、雪子は満面の笑みを浮かべて言った。


「ねえ、見て見て! 買っちゃった、ジムニー!」

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