第18話 チャラ男VS俺!?

 話しかけてきたのはいかにもガラの悪そうなチャラ男。声が合図になり、ゾロゾロと彼の仲間らしき人が虫のように増えた。全部で10人。全員髪を染めており、中には見てるだけで痛そうなピアスを開けている奴もいる。


 俺から言われるのは失礼だが、お世辞にも育ちがいいとは思えない。初対面の彼らに対する印象は最悪ってところだ。


「そうだけど」

「やっぱり。俺たちも今年から高校に入ったばかりの1年生なんだよ」


 そう言うチャラ男A。なんだ、やっぱり見た目に騙されちゃダメだな。全然いい人じゃん。全く同い年には見えないけど。


「せっかくだしさ、俺たちと一緒に遊ばねえか?」

「なあ、どうだ? そこの可愛い子。そこの彼氏くんより楽しませてあげれると思うぜ?」


 そう言うチャラ男B、C。前言撤回。やっぱりこいつらは、ただの不良だ。ノアさんを狙ってるのか。


「夜闇くん。どうしたらいいのかな?」


 めんどうだな。事件になる前にさっさとここから退散した方がいい気がする。


「悪いけど、先客がいるんだ。遊ぶのはまた今度にしてくれないか?」


 それじゃあ、と席を立とうとした俺の肩を掴んでいる力が強くなり、無理やり椅子に座らされた。


「まあ、待てよ。せっかく俺たちが誘ってやってるんだぜ? 断るなんて冷たいことすんなって。そこの子、どっかで見たことあるんだよなーって思ってたんだけどさ。巷で話題になってるこの子だろ?」


 そう言ってスマホの画面を見せてきた。おれらくこいつがリーダーなのだろう。他の連中が急に黙ったからな。それになんとなく発してる覇気が違う。彼のスマホ画面に写っていたのは紛れもなくノアさんの姿だ。


「だったら?」

「なんだよ。図星か? まさかこんなところで見つかるなんてな。詳しくは知らねえけどさ、いいとこのお嬢様なんだろ? だったら素材としては最高じゃねえか」

「素材?」


 何をするつもりなんだ。俺が眉をひそめるのを見て男はニヤリと笑う。こいこいと手招きして俺はひょいひょいとついて行った。周りに聞こえないように耳打ちする。


「公開収録だよ。俺好みの女になるまでネットで動画配信するのさ」

「なに!?」

「アダルト系が金を稼ぐには1番手っ取り早いんだよ。世界中に変態はいるからな。あいつらが喜びようなことをすれば次から次へと金を捨てていく」

「お前、頭おかしいんじゃねえのか?」


 こんな連中、今まで出会ったことがない。人間ってここまでクズになれるのか。むしろ感心してしまうくらいだ。どう育ったらこんなことを思いつくのか理解に苦しむ。


「失礼だな。ま、俺好みの女に変えるってだけさ。今はこんだけ清楚なのが獣に変貌する様を見届けるのはたまらないぜ? お前も男ならこの気持ちがわかるだろ?」

「わかりたくもねえよ」


 一緒にすんな! そんなくだらない気持ちがわかるくらいなら俺は進んで男なんかやめてやる。


「あっそ。まあ、知名度は抜群だし、容姿に関しても申し分ない。固定客もかなりつきそうだな。これならあっという間に億万長者間違いなしだ」


 そこまで話して俺から離れた。


「ということで、彼氏くんは先に帰って好きなことでもしてろよ。1人で過ごすほうが楽しいよな? な?」

「ふざけんな!」


 庇うようにしてノアさんの前に立つ。


「夜闇くん?」


 ノアさんは状況が飲み込めてない。まあ、話を聞いたないんだから仕方ないか。清楚なお嬢様にこんな話を聞かせるつもりもないけどさ。


「なに、お前。俺たちとやるつもりか? この人数差はお前1人でどうにかできるもんじゃないだろ?」

「だから逃げろって言いたいのか? 悪いけど、んなことしねえよ。あんたらクズに後ろ姿を見せるほど俺は腰抜けじゃないからな。それに、男ならタイマンで勝負しろよ。1人相手にそんだけの人数で挑まないと勝てる自信がないのか?」


 こんな状況は先にひよったほうが負けると相場は決まってる。売られたなら倍にして返せばいい。タイマンでも勝てる自信はないけどさ。人を殴ったことなんてないし。


「生意気なガキだな。誰を相手にしてるのかわかってんのか? 舐めた口きいてるとぶっ殺すぞ?」

「やれるもんなら、俺をぶって殺してみろ! 一生恨まれる覚悟があるんならなぁ!」


 返事代わりに飛んできた拳が俺の顔面に直撃。


「夜闇くんっ!」


 衝撃で数歩たたらをふむ。


(痛ってぇー!)


 声に出さず奥歯を噛み締めて痛みを誤魔化す。大したことない。全然耐えれる。


「なんだよ。そんなもんか?」

「てめぇ!」


 2発、3発。俺の顔面をやつの拳が殴る。3回目の時には口の中が切れたのか血が垂れる。いくら殴っても反撃してこないことに動揺している。そりゃそうだ。相手からしてみれば何回殴っても倒れないサンドバックなんだからな。逆に恐怖すら感じてるかもしれない。


 5発目の殴りが俺の顔を捉えた後、チャラ男のリーダーは俺から一歩一歩と後退する。


「なんなんだよお前……」

「どこにでもいる高校生だよ。文句あっか!」


 こっちはなぁ、殴られることなんてバイトをやってたら日常茶飯事なんだよ! 大体俺に原因があるけどよぉ!


「夜闇くん!?」

「俺は平気だからそこにいろ」

「は、はい」


 何度殴られても倒れない俺に嫌気がさしたのかリーダーの目つきが鋭くなる。舌打ちをしたあと手下の連中に命じた。


「めんどくせえ。もういい、お前ら! さっさとこいつを病院送りにしてやれ!」


 命令と同時に俺たちの方に襲い掛かるチャラ男たち。けど、俺たちの勝ちだ。俺が手を出さないのにも理由がある。わざわざ俺が手を下す必要なんてないからな。時間さえ稼げればいい。なぜなら──俺の知り合いには最強のボディーガードがいるからな。


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「どうした!?」


 後ろの人間が次々と叫び声を上げて倒れていく。リーダーが振り向いた時には彼以外のチャラ男連中は気絶していた。


(やっと来たのかよ。遅かったんじゃないのか? 番犬さんよ)

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