文化祭
黒野は遠山に最大限注意し、定期的に連絡するように告げて彼の家を出た。そして、終電を待つホームで、田辺に電話をかけたり、LINEを入れたりするが、全く反応がない。
底知れぬ恐怖と焦燥が、身体中を駆け巡った。
そのとき、早速遠山からLINEが入る。
「文化祭、一緒に回らない?」
その一文で、緊張が一気に溶けてしまう。思わずにやついてしまった。
「ぜひ、よろしくお願いします!」
そう返信してすぐ、暗闇を照らすようにヘッドライトを輝かせながら、終電がホームにやってきた。
「じゃあ、行ってくるね」
そう言って、黒野は一緒に回っていた女子たちに別れを告げた。文化祭の喧騒が、募る期待感を倍増させる。早く遠山に会いたかった。
黒野は体育館の人混みの中を、小走りで抜けて、昇降口に向かう。そこが待ち合わせ場所だった。集合は一時の予定だったが、十五分前には着いてしまう。
黒野はベンチに座り、まだ来ないかな、まだ来ないかなと思いながら、スマホを強く握りしめた。
真昼の太陽が、全身を照りつける。秋とはいえ、日中はまだまだ気温が高かった。そうやって、身体中が暖められる中、左の脇腹あたりだけが冷たいままだ。そこには小型ナイフを仕込んでいる。
黒野は持ってくるかどうか迷ったが、念のため携帯することにした。でも、盗聴器を見つけた日から黒野も遠山も特に危険な目に遭ってないし、黒野の衝動も高まっておらず、誰かを殺す計画も立ててない。
今は遠山との時間が何よりも大切に思えるようになった。
しかし、その遠山はいつまで経ってもやって来ない。一時半を過ぎた頃、流石におかしいと感じ、黒野は体育館へ戻った。
するとちょうど入り口のところで、遠山の仲の良い友達たちが見えたので声をかける。
「遠山なら、彼女と約束があるつって、だいぶ前に離れたぞ」
(私がその彼女です。だから遠山さんがどこに行ったか分かりませんか)
今にもそうやって突っかかりたかったが、辞めた。黒野は遠山の周りの人間を殺したいと思わないように、できるだけ関わらないようにしているのだ。
「ありがとうございます」
それだけ言って、その場を離れる。
それに、もし遠山が事件に巻き込まれたなら、その場所は予想がついた。この文化祭の中で、人目につかず、誰もやってこない場所。
黒野は下駄箱で靴を変え、階段を駆け上がる。そのまま、本館の屋上まで止まる事なく進んだ。立ち入り禁止の札を無視し、鉄の扉を押す。ギシギシと軋みながら視界が開ける。
黒野は息を呑み、覚悟を決めた。
屋上に出る。そこにはガムテープで口と両手両足を縛られた遠山と、佐間の妹がいた。
「思ったより遅かったじゃん」
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