第6話 予測変換

脚立に乗って、原口主任がポスターを貼っていた。

主任は几帳面で、会社の企画ポスターが斜めってないか、かなり気にしながら、


「あれ、この自然薯って文字合ってる?」

ポスターに書かれた文字を見て言った。

地方再生の催し物のポスターだ。


「みさきさん、スマホでちょっと調べてくれる?」

「ごめんなさい、いまロッカーの中で」


「じゃあ、テーブルに俺のスマホが置いてあるから、持ってきてもらっていい?」


「あ、はい」


私が持って来ると、

「じゃあ俺、手が離せないから、顔認証してスマホ開いてみて」


私は脚立の上でポスターを持ってる主任の顔にスマホを当てて、顔認証をクリアしてスマホを開いた。


「じゃあ自然薯調べてみて」

「わかりました」


私は自然薯の『じ』という文字を入れてみた。

すると予測変換で、一番最初に出てきた文字が、

熟女だった。


『熟女』


これが1番に変換されるということは、

この文字でかなり検索をしてるということだ。


『熟女』

見なかったことにしよう。


私は自然薯という漢字を出して、

ポスターを見て、

「漢字合ってます」と答えた。


「あと、この『爆誕祭(ばくたんさい)』って、言葉って、このポスターの趣旨と合ってるか、意味を調べてもらっていい?」


「はい、調べてみます」

私は『ば』と入れた。

すると食い気味に、ほんと食い気味に、

出て来た文字が、


『爆乳』だった。


『爆乳』

取り返しのつかないモノを見てしまいました。


「どう?みさきさん、趣旨と合ってる?」

主任はとてもさわやかな笑顔で言った。


人のスマホなんて見るものではないと思った。

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