婚約時代
ユッコ
第2話
放課後になり、それぞれの用事に向かっていく。クラブ活動、塾、買い物。
圭は時計を確認し、ゆっくりとした動作で立ち上がる。特に予定はないのだ。5時までに家に帰れば良い。
駅の近くにある、歴史は古く、まあまあの進学高。入学してしばらく経ち、もうすぐゴールデンウィークになる頃だ。
生徒の2割ほどは同じ中学から来ている。目新しくもなく、新鮮でもある。
班長の、山下こころは頬杖ついて、隣の席から圭を見ている。
「帰るの?」
うなづいて見せる。
「暇ならクラブ活動はいったら?中学は何してたの?」
「帰宅部」
「もう、青春しなよ」
うなじの出るくらいの髪の長さで、左だけ
小さく三つ編みしている。瞳のまん丸い、活発そうな女の子だ。美人ではないが十分可愛い。
気が向いたらなと手を振って、帰ろうとする。
「スポーツやりなよ。見学一緒にいかない?」
「考えておく」
「明日、一緒に回ろう。約束!」
こころは勝手に約束している。
教室でた廊下で、艶やかな黒髪ロングの女生徒がカバンを片手に立っている。見ただけですずらんの香りのしそうな美少女だ。
圭は彼女の傍を通り過ぎて生徒玄関に向かう。
彼女は黙ってついてくる。
靴箱で外履きに履き替えて校門で立ち止まる。
先ほどの女生徒が隣に来て、立ち止まった。
「お待たせしました」
制服モデルかと思う、顔立ちの整った、スレンダーで、日本的な美少女と言える風貌だ。
実際、読者モデルしている。年に数回掲載される位だから学校では気づかれていなかった。
通り過ぎる男子生徒が、ハッとして彼女をみる。
圭を見て横目で睨んでいく。いつものことだ。隣の女生徒は気にもしない。ただ圭を見つめている。
「先生が来るまで、時間あります。買い物してもいいですか?」
先生とは二人の家庭教師のことだ。二人は塾に行っていない。一緒に家庭教師から教わっている。
学校のある駅から電車で一駅で降り、その駅から10分ほど歩いたところに圭の家がある。北日本の田舎だから、駅からそれだけ離れると、街灯も少なく夜は暗い。
犯罪は少ないので危険ではないが、駅と家の間に、住宅とコンビニが二軒あるだけで何もない。
学校の駅前あたりで買い物は済ますしかなかった。
「何買うの」
「お菓子の材料とかです」
女生徒は佐々木樹里亜だった。二人は前を向いたまま話している。少し離れているので注意しないと連れ立ってるとはわからない。
表情も変化しない。
「わかった」
通りのスーパーに入り、樹里亜は買い物する。圭はスーパーの外で待っていた。
しばらくして樹里亜が出てくる。
「ありがとうございます」
うなづいて、歩き出す。
ランニングしている高校生の団体。だべりながら広がって歩く生徒達。穏やかな夕方だ。
黙って二人は駅へと入って行く。
改札を出て、電車を、待つ。
5分もすると電車は来た。
樹里亜は出口近くの席に座り、少し離れて、圭は手すりに掴まる。
わずか一駅の帰り道。
電車を降り、改札を出る。
後ろをついてきた樹里亜が隣に並び、圭の手を繋ぐ。笑顔で圭をみる。
「早いだろ」
「誰もいませんよ」
繋いだ手をブンブン振る。表情も今までの能面から打ち解けた感じになる。
「変わりすぎだよ」
「許嫁に戻りました」
「そんなに学校とかで、気をつけなくてはダメか?」
「ダメです。二人の関係がバレたら大変です」
「お前のファンに殺されるか」
「反対です、私が総すかんされます」
「そんなことないだろ、おれモテないし」
「‥‥」ため息する樹里亜。
「今年のバレンタイン、チョコ幾つもらいましたっけ?」今年の2月、つまり中3の時だ。
「でもそれは、進路が別になるから、その挨拶みたいなものだぞ」
「仮にそうだとしましよう。なら卒業式の日、女の子にLINE交換求められた数は?」
「そして、制服のボタン全て取られて帰って来ましたよね?」
ジト目で畳み掛ける。
圭は、小学校までは小さくて体育も成績悪かったので女子からの人気は皆無だった。
中学になってから、身長はどんどん伸びた。元々顔は良かったのでじわじわ人気がでた。
許嫁と言っても、小学校の頃は、子供の事だから幼なじみ位の感覚であった。中学生になると流石に、異性として意識してきた。
樹里亜がよく、圭と一緒に帰ることに同級生も不思議に思うようになった。
樹里亜はたいてい圭の家に下校したら来ていた。両親は立て直した会社を軌道に乗せるため、毎日遅くまで働いていた。迎えに来るまで圭と宿題したり、テレビ見たり、夕食も結構な頻度で一緒に食べていた。それが普通のことだった。
だが、他から見れば普通ではない。
「圭ちゃんとは親同士仲良いから、親が迎えに来るまで、圭ちゃんの家でいなさいって」
流石に許嫁だとはいえなかった。圭と仲が良いというだけで妬まれた。圭のファンがいることは気づいていたし、バレたら大変になる。だから、圭にも、許嫁の事は秘密だと念押ししておいた。家に上がり込んでる事だけでも問い詰められていたからだ。
男子の方でも、樹里亜の飛び抜けた可愛さは話題になっていた。小学校生の時はスカートは学校でははかないし、女の子っぽい感じな格好してないので目立たなかった。髪だけは肩より長い綺麗な黒髪だったが。
中学生になると制服だ。すらりとした体型はとても制服が似合っていた。顔もまるで
化粧してるかのような美形だから目立たないはずがない。
「お前なんで佐々木と仲良いのか」と何度も聞かれた。先輩に呼びつけられた事もある。
身の危険を感じ、合気道を習い始めた。空手とか、相手を倒すよりも自分に合うと思ったからだ。
樹里亜は男子に人気あって困ったものだと考えていた。
圭の家に着くと、樹里亜は買った物を冷蔵庫とかに片付ける。勝ってしったるものだ。
「樹里亜さん、週末はお菓子作るの?」
家政婦の雪江さんのお母さんだ。
雪江さんは家にくる、父の仕事の付き合いのある会社の専務の息子さんにみそめられ、最近結婚してしまった。圭の初恋は終わった。
「はい、またお台所使わせていただきます」
「まあ楽しみね」
「頑張ります」
ガッツポーズして、樹里亜は自分用に使っている部屋に着替えに行った。彼女も圭の家に個室がある。
圭も着替える。パジャマにもしているウエアーだ。
樹里亜はワンピースになった。小学校の時も圭の家ではスカートかワンピースを着ていた。
読者モデルスタイルの美少女の、少し短めのワンピース姿。今でも慣れない。ダイニングのテーブルに隣同士座り、たわいもない事話していると、家庭教師がやってきた。二人で受けるので効率が良い。
勉強の時間は終わり、夕食の用意ができたと呼ばれる。
樹里亜は、美味しそう!と圭と並んで座る。
「なんか、こいつの好物ばかりな気がする」
「おばさま大好き」
「まあ、樹里亜さんがいると食卓が賑やかでいいわね」
圭の母親がテーブルに座った。
「圭も樹里亜さんがいないと寂しそうだもの」
黙って圭は食べ始める。樹里亜と圭の母は連休の予定とか、新しくできたお店のこととか、たわいもないことを話し合っている。
圭は話しに入ったりしないが、口元押さえながら、母と笑う樹里亜を見ているだけでほっこりする。
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