ゴブリンから女の子を助けたら、いつも塩対応の先輩社員だった件。でもその恩恵は途轍もなかった!

SHO

第一章

第1話 今日で研修期間が終わる!

 僕は小早川冬至こばやかわとうじ。今年大学を卒業してとある会社に就職した新社会人だ。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「……(コクリ)」


 そんな僕には悩みがある。今挨拶したのは会社の一年先輩で、新人の僕に色々と教えてくれる事になっている、立花莉音たちばなりおんさん。

 その彼女なんだけど、まず僕に目を合わせようとしない。挨拶も返してはくれるけど、今みたいに明後日の方向を見ながら頷くだけ。仕事の事だって、資料を渡されて、『それを読んで理解して。話しかけるな』的なオーラを出して来るし。

 ああ、そう言えば質問があって話しかけたら、無言でメモを渡されたな。『質問は社内メールで。話しかけないで』って。


 言っておくけど、僕が何かをした訳じゃないよ? だって配属初日からああだもん。全く心当たりがない。それである日、立花さんを僕の教育係に任命したであろう上司に相談した事があったんだけど。


「あははは、う~ん、頑張って?」


 いや上司! あんた新人潰す気か!?

 そりゃ立花さん、かなり仕事が出来るのは見ていれば分かるし、ぶっちゃけ小柄で可愛いし小柄で可愛いけど! あと何気に胸もそこそこ大きい感じだけど!

 でも彼女は他人と関わって生きて行くのがダメな感じの人だ。配属されて二週間彼女を見てきたけど、社内の誰とも積極的に関わろうとしていないし、他の社員も彼女に対して余所余所しい。

 ――その中でも僕は別格で塩対応されているんだけどね。


***


 今日で配属されて一か月。研修期間も終わりだ。これで立花さんと必要以上に関わる必要がなくなると思うと心が軽い。

 地方の中小都市では普段の足として車が必須という話を聞いて、通勤用に買った古い軽自動車。スマートキーなんて洒落たものはないし、今や絶滅危惧種のマニュアル車だ。

 古いけど、一応4WDターボの愛車に乗り込み発進させる。ターボが効いているせいか、走りは軽快だ。

 家賃が安いっていう理由で、会社がある〇×市の隣町にアパートを借りたもんだから、通勤というドライブの時間はそこそこ長い。カーステレオから流れるお気に入りの音楽を聴きながら、テンションを上げるのも毎日の日課だ。

 ……そうでもしなきゃ、あの立花さんと顔を合わせる会社になんか行けるか。この一か月耐えきった僕を褒めてあげたい。よし、今日は一人焼肉でもしよう!


 暫く走ると、〇×駅が見えてきた。この駅の近くのオフィスビルの中に僕の会社がある。そして社員用の駐車場も駅近くの月極駐車場を借りていて、そこに停める事になっている。


 少し早く着きすぎたかな。愛用の腕時計を見ると、7:28と表示されている。今日で研修期間が終わるからって浮かれすぎだな僕。いくらなんでも早すぎだろ。


 でもまあ、折角だからという事で早めにオフィスビルに入り、エレベーターで職場のある三階へと向かった。


「さすがに誰もいないか。あ、そう言えば給湯室の蛇口が緩んでて水漏れしてたっけ」


 お湯を沸かしてコーヒーでも飲もうかと思った矢先、ポタポタと水漏れしている蛇口の事を思い出した僕は、工具を探しに備品室へ向かう。

 ドライバーやらハンマーやらが乱雑に詰め込まれた工具箱を探し当て、それを右手に給湯室へ向かった。


「えっと……」


 水道の元栓を閉め、大ぶりなモンキースパナを手に取る。蛇口の修理をするには大袈裟な大きさだけど、大は小を兼ねる的な思想なのか。しっくり来る工具はそれだけだったので仕方なくそれで蛇口を分解していく。


「うわあ、パッキンが切れてるよ……さすがに予備のパッキンはないよね。今日はだましだまし――」


 ――キャアアアア!


 その時、女性の悲鳴が聞こえた。僕はたまたま持っていたモンキースパナを手に給湯室を飛び出した。


***


 あたしは立花莉音たちばなりおん。24歳。独身。交際歴なし。ええ、余計なお世話よ。

 ……まあ、男の人とお付き合いとか興味ないし、何よりリアルの世界での人付き合いが苦手。面と向かって人と話も出来ないし、コミュ障ってやつよね。

 あと、低い身長にコンプレックスもある。その癖におっぱいはそこそこ大きくて、よく男の人からは『合法ロリ』とか言われたし、女の人からは『あざとい』とか言われたし。好きで身長が低い訳じゃないし、好きでおっぱいが大きい訳でもないのよ。


 そんなあたしは社会人二年目。今年はウチの部署に一人の新人が入ってきた。爽やか系でキリッとしてて、元気のいい子。だけど、いかにも陽キャなオーラが出ている体育会系で、あたしとは正反対の世界に住む住人ね、きっと。

 それに比べてあたしはコミュ障。ああ、ネットやオンラインゲームのボイスチャットだと普通に話せるんだ。普段の自分もあれくらい話せるといいんだけど。

 たぶん、ネット上のあたしはロールプレイをしてるんだと思う。何かキャラを作ってそれを演じているというか。どっちが本物のあたしなんだろうね?


 ……その新人君が来る前の日、課長はあたしに新人教育係を押し付けてきた。こんな陰キャのあたしにそんな大役務まる訳ないでしょうが。だけどコミュ障が災いして断る事も出来ず、なし崩し的に引き受けざるを得なかった。

 それから一か月、随分新人君に辛く当たっちゃったなあ……

 別に彼は全然悪くない。悪いのは全部あたし。あたしのせいで希望と不安でいっぱいの新社会人としてのスタートをぶち壊しちゃったね。悪いと思ってるよ。でもそんな新人研修期間も今日でおしまい。せめて一言、お詫びの社内メールでも打とうと早く出勤してきたんだ。


 だけどあたしは、エレベーターが開くの待っている所で、バケモノに襲われた。あたしと同じくらいか、少し小さいくらいの緑色の肌をした気持ち悪いナニカ。

 右手には剣みたいなものを持っていて、いかにもあたしを狙っている。反射的に悲鳴を上げた。

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