【未完結】今日も後輩は元カノのフリして笑う
和鳳ハジメ
第1話「NTRクソレズ女が義妹になった」
これからの事を思うと、長南秋仁(ちょうなん・あきひと)は暗雲たる気持ちであった。
少し前に恋人へと至った幼馴染みに、とても大事な話があったからだ。
彼女の家は秋仁の家の隣、勝手知ったる我が家の如く入り階段を上るとすぐそこが部屋。
「――――――は?」
「…………っ!? きゃああああああああああ!? な、何なんだお前は!! なんで勝手に入ってきてるんだ!?」
「アキ、君…………」
恋人である幼馴染みの部屋にはいると、そこはある意味では天国のような光景が広がっていた。
部屋の西側にあるベッド、その上では二人の女の子が全裸で重なっており。
(え? は? どどどどどどど、どういう事なんだよッ!?)
だってそうだどうして予想できるのか、最愛の幼馴染み、おっとりふわふわお姉さん的な彼女も。
そして見覚えのあるもう一人も、汗だくで肌はテカり息を荒げている。
――浮気、それとも寝取られか、不貞の事実だけでも困惑するのに、その相手が秋仁と恋人が通う大学でも有名な美少女とか。
「ごめんねアキ君、わたし…………ちんこ必要なかったみたい」
「謝罪の言葉ァ!! もっと言い方あっただろうが!!」
「おっぱい大きな男好きするボディにして一度はアキ君に抱かれておきながらレズレイプされてレズだと確信したわたしをどうか責めないで欲しいけど、葵ちゃんを一発殴るぐらいで許してあげて」
「清々しい程に自分本位だな海恋ッ!! いやお前はそういうヤツなのは長いつきあいで重々承知してるけども!! もっと言い方あるだろうが!!」
「けどアキ君、どーせ今日は別れを言いに来たんじゃないの?」
「だからってまだ別れてないんだから怒ってもいいよなぁ!!」
そう、秋仁は幼馴染みであり恋人の田倉海恋(たくら・みれん)に別れを告げに来たのだ。
恋人を辞めて、幼馴染みに戻ろうと。
だがこれはない、断じてこれはない。
「ふッ、――すまないな長南。海恋はアタシが貰った」
「お前も言葉は正しく使え? 貰ったんじゃなくて横から奪ったんだろ? 殴るぞオラァ!!」
「ごめんなさいアキ君、お尻はいいけど顔は許してあげて!!」
「お前もだよバカ海恋!! 何のうのうと被害者面してんだよ!! 薄々お前自身も男はムリって自覚してたんだろうが!! だから俺もなぁ、お前が好きだけど涙を飲んで別れを言いに来たのにさぁ!!」
事の発端は、一週間前の初体験であった。
性格は多少アレであるが、同年代では最上級の美少女とのセックス。
当然舞い上がったし、お互い初めてであったから拙い部分が大いに存在した。
「長南、あえて聞くが――初めてのセックスの直後、相手に気持ち悪すぎて吐かれるという体験はどうだった?」
「テメェよく聞いたな佐倉!? つーか言ったのかよ海恋! いやショックに決まってるだろうが!! 『今まで自覚してなかったけど多分わたしレズだわ、生理的嫌悪感がすっごい、アナタじゃなけりゃぶん殴ってたわ』って言いながらゲロ吐かれたんだぞ!?」
「正直、あの時はすまんかったって思ってるわ」
「まぁ聞け長南、海恋だって泣きはらすぐらい悩んでたんだ、――――ずっと海恋が好きだったアタシが慰めついでに押し倒しても問題あるまい」
「問題だらけだよ佐倉ァ!! つーかテメェ、レズかよ!! そりゃ普段から女子達に囲まれてる王子様的存在だけどさぁ!! 分かるかよこんなの!!」
佐倉葵(さくら・あおい)という存在は、長身でスポーツ万能のイケメン女子だ。
男子から見れば、尻が魅力的なポニテ美少女であるが、とにかく女子からの人気が高く。
また、海恋の親友でもあって。
「という訳で、わたし達別れましょアキ君。アナタの子を産むぐらいなら出来るかもしれないけど、男や夫として見るのはちょっと…………ね? これからもよろしく、幼馴染みとして」
「どこまでも都合のいい女だなテメェ!! いやそれに惹かれた所もあるし今でも好きだけどさぁ!! いいよ別れるよ!! でもテメェ、これは浮気だからな寝取られ女!!」
「ふッ、これが負け犬の叫びってものか……心地良いな!!」
「あ、お前は当然一発殴るからな? つーか根に持つからな寝取りクソレズ女? 言いふらさないけど絶対に許さんからな??」
「ふぇッ!? 躊躇なしかお前!? 本当に拳を握りしめて近づいてくる!? 助けて海恋!?」
「ごめんなさい葵ちゃん、素直に一発殴られて――ふぎゃ!?」
「あがッ!?」
「お前もだよバカ女!! あばよ!! これからは幼馴染みだけど暫くは声かけんなアホ!! まだ好きなんだからな恋人になるまで十年以上幼馴染み以上恋人未満だったんだぞ!! こんな失恋して引きずるわアホ共!!」
全裸の美少女二人に拳骨を落とし、秋仁は肩を落として踵を返す。
好きだった、愛している、きっと海恋も同じ気持ちだった。
でも、感情だけで解決できる問題ではない。
「あーあ、ホント、どうしろってんだよもう……」
気持ちの整理がつかない、別れを言いに来た以上ある程度は想像していた。
だがNTR、寝取られだ、それも同じ大学の女子にだ。
(明日からどんな顔で教室に居ろってんだよ!! アイツ等と講義被りまくってるんだよ!! ……そりゃまぁ、海恋の親友以上の付き合いはなかったから滅多に話さないけどさぁ!!)
この先、どうやって生きていけば良いのか。
どうやって息をしていたのか、昨日までどうやって日々を過ごしていたのか。
そんな些細なことすら分からなくなっていく、それぐらい好きだったのだ、愛していたのだ彼女を。
「ただいまー……」
「あら、どうしたの秋仁。酷い顔して」
「ああ母さん、今日は早いね」
「忘れたの? 三時間後には食事会って行ったでしょう? さ、秋仁も用意しておきなさい。なにせ貴方の新しいお父さんとの初対面なんだからね」
「今日だったっけそれ…………はぁ、仕方ない」
海恋との関係の事で秋仁は失念していたが、母が再婚するという話があったのだ。
父は彼が幼い頃に交通事故で死亡し、以来ずっと母は女手ひとつで彼を育て大学まで入れてくれて。
そんな母が再び恋をし、再婚にまで至ったのだ。
「――――うし、オッケ。あらためて結婚おめでとう母さん、顔合わせが今日で、籍はもう入れてあって、明日には新婚旅行だっけ?」
「ええ、明日から新しい名字だから、大学に届け出はだしたわよね?」
「大丈夫だ、……明日から佐倉秋仁かぁ、はぁ、じゃあ支度してくるよ」
長南という愛着のある名字が消える、仕方のない事だが秋仁は無性に寂しさを感じ。
そしてふと気づいた、そういえば。
(………………クソッ、あの寝取り女と同じ名字かよ!! まあ佐倉なんて名字のヤツは日本中に沢山いるだろ。……佐倉……うう、海恋~~~~!!)
海恋、口に出さずともその単語を思うかべてしまい秋仁はずーんと気落ちする。
どうしてこうなったのか、こうするしかなかった筈だが、心はまだ納得せず。
行き場の失った恋心が、喉から溢れそうになる、涙がこぼれそうになる。
(そういや、向こうにも連れ子がいるって言ってたな。新しい家族……、ま、一緒に暮らすかどうか分からんけど気が紛れるってもんか。――――アイツと同じ名字だけど日本に佐倉なんて名字のヤツがどれだけ居るんだ、まさかなぁ……)
仮にその連れ子が一緒に暮らさなくても、一ヶ月後には新しい父親とはこの家で一緒に暮らすのだ。
失った恋を忘れるには、ちょうどいいかもしれない。
そう思っていたし、そうなる事を心から祈っていたのだが。
「――紹介するわ秋仁、この人が佐倉戒厳さん。貴方の新しいお父さんよ」
「はじめまして秋仁君、これからよろしく。君に心から父親と思って貰えるように頑張るよ」
「そしてこちらが――――」
(な、んで…………)
駅前の少しお高めのレストランで始まった食事会、父となる人は少し顔が怖かったが立派そうな印象を受けた。
だが、今、母が紹介しようとした人物。
新しい父の連子、“彼女”もまた秋仁と同じように口をぽかんと開けて
「佐倉葵ちゃん、同い年だけど秋仁の方が誕生日が早いからお兄ちゃんとして――――」
「――――さ、さささささ佐倉葵!? な、なんでここに居るんだよ!!」
「そそそそそそそそそ、それはコッチの台詞だ長南!? え? 父さん!? 再婚相手の連れ子って~~、うう、ちゃんと聞いておくべきだった!! 珍しい名前だから気づけた筈なのに!!」
「ふむ? 二人は知り合いかい?」
新しい父・戒厳の質問に二人は咄嗟にアイコンタクト。
(言えるかよ恋人を寝取ったクソレズ女って!! 戒厳さんには罪はないし母さんの幸せをブチ壊すことなんてさぁ!!)
(あわッ、あわわあわわわわわわ!! 不味い不味い不味い不味い!! アタシが原因で破談になる!! こんなの予想できる訳ないだろう!! 本当に不味い、父さんだけじゃない新しいお母さんまで迷惑が――)
(お、落ち着け俺!! こいつは絶許だけど、寝取った寝取られたの問題は俺とコイツの問題だし、そもそも海恋とは別れるつもりだったし、そ、そうだから俺達の関係は……)
(くッ、全てコイツに任せるしかない!! そうだアタシは愛に道徳を破り捨てた女だ!! 覚悟は出来ているけどなるべくなら穏当にすませて欲しい!!)
見つめ合ったまま硬直する子供達に、親達は不思議そうな顔をして。
やがて、秋仁は大きなため息を一つ、肩の力を抜いて答えた。
「いやー、スゲー吃驚したぜ。俺もちゃんと聞いておけばよかったよ、大学でよく一緒の講義受けててさ、ま、友達の友達って関係?」
「あら、そうなの!? 奇遇ねぇ、ふふっ、きっとこれも戒厳さんと私の運命が繋がってるからね」
「そうなんだ父さん、まさか大学の知り合いとここで会うとは思わなかったから。うん、彼はいい人だよ。アタシの親友がよくそう話してるし」
「ほう、そうなのか。凄い偶然もあったものだなぁ……。なら一層よろしく頼む秋仁君、明日から葵も一緒に暮らすからな。親バカだが葵は美しく育った、だから言い寄る男も多いと聞く。――どうか葵を守って欲しい」
「え、ええ、俺に出来る事なら……」
「こっ、これから家族としてよろしく長南……ではない、うん、秋仁」
「ああ、よろしくだ葵」
二人はとてもぎこちなく握手をして、そして次の日。
当初の予定通りに、新しい父・戒厳と母・秋菜は一ヶ月もの間、海外へと豪華な新婚旅行に出発し。
となれば当然、家に残るは秋仁と葵。
(うっわー、うっわぁ……マジか、マジでか、一ヶ月間も俺は海恋をNTRったクソレズ女と二人っきり?? は? もう気が狂いそうなんだが??)
(ふふふ、不味い、これは本当に不味いぞ。愛に走った結果とはいえ身から出た錆すぎる。――ああ、ピンチだ!! アタシは美しいからな!! 復讐として犯されても不思議じゃないぞ!!)
こうして、恋人を寝取った義妹との共同生活が始まり。
引っ越しを手伝ったあと、夕方前。
(俺は――――ッ)
秋仁は大学に行く格好と強ばった顔をし、リビングのソファーにて無言でコーラを飲む葵へ、その表情すら確認せず一方的に告げた。
「…………スマン、一緒に暮らすには流石に気持ちの整理が追っ付かない。数日はダチんとこ泊まらせて貰う」
「……」
「家の中で分からない事があったらlineくれ、――もしくは海恋に聞け、右隣の家だから、俺の部屋の窓から呼びかけても大丈夫だ、じゃあな」
「……」
義妹は返事を返さず、彼が家を出る音を聞き。
玄関の扉が閉まった瞬間、ぐだっと座っていたソファーに倒れ込む。
「助かるが、罵声もなしか……自業自得とはいえ堪えるな……、家族になってしまったんだ海恋にも相談しないとな」
謝って済む問題ではない、だが一晩経てば頭だって冷える。
彼に、新しい兄に、謝罪をしたかった。
葵は今、新しい家族への大きな罪悪感と海恋を手に入れた幸福で心がぐちゃぐちゃで
――そのころ、秋仁はというと。
「………………取りあえず、部室行くかぁ」
少しばかり、途方にくれていた。
友達の所に泊まるとはいったが、そんなの口から出任せに近い。
大学のサークルの部室に行けば、部員誰かに一夜の宿を借りるぐらいは出来るだろうと。
(一人暮らししてる奴って、どれだけいたっけか)
胸にぽっかりと穴が開いた空虚な気持ちで、秋仁はトボトボと歩き出したのあった。
家から大学まで電車を使って十五分、更に部室等まで五分、所属サークルの「現代造形部」に辿り着き。
「あれ? どうしたっすか先輩、そんな泣きそうな顔して……?」
そこには、親友の妹にして高校時代からの後輩。
ポニーテールの美少女、津井尾真衣(ついび・まい)が一人で漫画を読んでいたのであった。
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