第9話 エピソード その⑼


『梶山君、どこにいるの?てっきり先に行ってると思ってた』


 ――先に行ってるだって?何のことだ?


 予想外の展開に僕が戸惑っていると、数分してまた千早からメッセージが届いた。


『梶山君、今、倉庫みたいな物が見える場所にいるんだけど、ここでいいの?』


 千早は僕に一体、何を確かめているんだ?文面を何度よんでも、僕には覚えのない事ばかりだった。だが、何度も読み返しているうちに、僕ははっとなった。


 もしかしたら誰かが彼女のSNSに、僕に似せたアカウントで何らかのメッセージを送ったのではないだろうか?


『こんなところで話し合いなんてできるのかな。もう僕たちに構うなって言うんでしょ?そんな強気で大丈夫なの?』


 間違いない。僕のふりをした何者かが、舘岡たちと話をつけるというでたらめで千早を呼びだしたのだ。


 僕に成りすまして偽のメッセージを送った犯人は――もちろん、舘岡本人に違いない。


 もはや一刻の猶予もなかった。


 僕は『グラスクラック』にログインすると、トップページ上に表示された「本契約に進む」をタップした。


「注意・「魂」を「力」に変換したらもとの魂は復元できません。承諾しますか?」


 僕が「OK」を選ぶと、「案件を選んでください」という文言と検索窓が現れた。


 僕はすぐさま「千早 居場所」と打ち込んだ。だがその直後に現れたメッセージは僕を失望させるものだった。


「該当する案件は0件です」


 僕は頭をフル回転させた挙句、今度は「千早 舘岡 罠」と打ち込んだ。すると「一件の該当案件がありました」という文言が画面上に現れた。やった!


 続けて表示された「関係者の画像をサムネイルで表示しますか?」との問いに、僕は迷わず「OK」をタップした。すると円で囲まれた舘岡と取り巻きたちの画像が出現した。


 ――やはりこいつらだったのか。


 僕は怒りで全身の血がたぎるのを抑えられなかった。たとえ囲まれて殴られたとしても、この連中を許すわけには行かない。僕が先の画面に進もうとした、その時だった。


「ヴィジョンを見ますか?」


 画面上に現れた謎の表示に、僕は迷わず「はい」をタップした。すると周囲の風景が一変し、どこかの倉庫らしい空間が目の前に現れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る