第26話・【王ノ牙】と悦楽三昧と幻月鉄馬〔前編〕

  ◇◇◇◇◇◇


 次の日──月桂城の中庭に仮想を除く、十四人の罪人が朔夜姫に招集された。


 竜剣

 魔槍〔ランス・ロッド〕

 魔呪〔クッター・フィ〕

 血獣〔ルカサイト〕

 提督

 機人〔機人ジャンヌ〕

 魚拓〔九十九神つくもがみ 唯〕

 巨神〔ウィロナ神〕

 舞姫〔宵の明星・シャルム〕

 擬態〔アストロン〕

 牛鬼

 脳医〔フォン・パルモ〕

 そして、鉄馬の十三人。


 罪人たちの体には、それぞれ宝珠が付いている。

【竜剣】〔胸〕

【魔槍】〔膝〕

【魔呪】〔額〕

【血獣】〔肘〕

【機人】〔片目〕

【提督】〔外腿〕

【魚拓】〔喉〕

【巨神】〔鼻〕

【舞姫】〔肩〕

【擬態】〔舌〕

【牛鬼】〔腰〕

【脳医】〔頬〕

 そして、鉄馬は片手の甲。仮想は頭頂に宝珠が付いていた。

 さらに、朔夜姫のヘソの穴にも欠けた宝珠らしきモノと。

 メイド姫の首から提げたネックレスにも、欠けた宝珠があった。


 中庭に集められた罪人たちを一度、見回してから朔夜姫が言った。

「妖星ディストーション帝国が動き出しました……風月洞の近くに現れました」

 竜剣が、鞘が刃物になった剣の柄に手を掛けて朔夜姫に質問する。

「連中の今度の目的はなんですか?」

「わかりません……今回は、鉄馬お兄ちゃんに行ってもらいましょつ……他の誰を風月洞に派遣するかは、罪人の皆さんで話し合って決めてください……それと、もう一つ気になるコトが……詳しい話はメイド姫さんから説明があります」


 メイド姫が取り出した、自作の紙芝居は前回より、パワーアップしていた……さらに悪い方向に。

「くっ、殺せ……はい、注目」

 もはや、前衛芸術の域に到達した紙芝居の絵を理解しようと、鉄馬は必死に目を凝らす。


(これは、キュビズムか? それとも、シュールレアリスムか? なんかダダイズムも入っているぞ……あっ、こんどは水墨画と子供のラクガキと古代エジプト象形文字のヒロエグリフが融合したような難解な絵に? ぜんぜん、わからねぇ!)


 メイド姫は自作の奇怪な紙芝居を指差しながら説明する。

「これが風月洞近くの村に現れたカイジューと狂ノ牙のイカです……こちらは、少し離れた墓地に現れたカイジンと屍ノ牙。さらに、川沿いの町にはジンジューと異ノ牙と影ノ牙……当然、ザコキャラのオカドーもいます……くっ、殺せ」


 竜剣が言った。

「完全に陽動作戦だな、本来の目的を隠すための」

 魚拓が言った。

「もしかしたら、今までみたいな、作戦の目的すら無いのかも知れないよ……あたいらを誘き寄せるのが目的だったらウケるぅ」

 提督が言った。

「それで、誰が行く? ボクは月桂城を守らないといけないから残った方がいいが……ボク以外の罪人も数人は、防衛のためには必要だ」


 話し合いの結果、鉄馬、機人、竜剣、牛鬼、擬態、魔呪、舞姫、魚拓の八人が向かうコトになった。

 竜剣が言った。

「数人で組んで、別々の牙が出現した場所に向おう……状況を見ながら、適切なローテンションで鉄馬のサポートに回る」

 不服そうな鉄馬。

「なんで、オレだけそんな特別扱いを」


 星型の瞳で骨付きの肉を食べながら、ネコ耳朔夜姫の姿をした擬態が言った。

「みんな、鉄馬のコトを心配しているニャ……ディストーション帝国が、妹の灯花ちゃんのコトを持ち出してきたら。それを気にした鉄馬が戦えなくなる……それが鉄馬の罪人の弱点ニャ」


 ピンク色をした逆ガネーシャの巨神が象のように鳴いて。

 魔の槍を持ったランス・ロットが、吐き捨てるような口調で言った。

「不本意だが、鉄馬お兄ちゃんの妹の灯花どのも、朔夜姫さま同様に鉄馬お兄ちゃんが城から離れている間は近づくオカドーは一匹残らず、我が愛槍『ダーム・ヴェルト』で斬り刻んでやる」


 舞姫が、三ツ首の悪食ロック鳥の前で踊りながら言った。

「移動のための乗り物も用意しないと、あたしのロックちゃんだけだと移動は難しいよ」


 魔呪が外したウィッグを、ピザ生地を回しているように頭上へと数回、放り投げながら言った。

「移動手段の乗り物は、数人が乗れる『指北車しほくしゃ』が用意できたり、できなかったり……鉄馬のバイクとスピードで競争できたり、できなかったり」

「それって、ウケるぅ」


 血獣が手提げカゴに入った食材キノコの中から、毒キノコ選別しながら呟いた。

「ポジティブに考えて、それはラッキーだ」


  ◇◇◇◇◇◇


 月桂城、鉄馬たちの出発前夜──自分の部屋の寝具の上に横になって、天井を見上げていた鉄馬が上体を起こす。

「やっぱり、明日のコトを考えると眠れねぇ……星でも眺めて、夜風にあたってくるか」


 部屋から外に出て、夜空を眺めていた鉄馬は、竜剣の部屋から聞こえてくる話し声に気づいた。

「竜剣も気づいているんだろう……朔夜姫が今回、風月洞に向かわせる罪人に鉄馬を選んだ理由を」

 竜剣と話しているのは魔呪ことクッター・フィだった。

 そっと、竜剣の部屋の外壁に体を寄せて、窓に掛けられた竹を細く割って作られたスダレの隙間から部屋の中を覗いた鉄馬は、思わず吹き出して笑い声を漏らしそうになった。


 竜剣とテーブルを挟んで向かい合って座っている、魔呪のスキンヘッドには吸盤で張り付いた鉢植えの花が乗っていた。

 真面目な顔で頭に鉢植えの花を乗せて竜剣と会話をしている魔呪の姿は、逆に笑いを誘う。

 鉢植えを頭に乗せた魔呪が続けて言った。

「鉄馬の性格なら、放っておいてもディストーション帝国が現れたら、そこへバイクで向かうだろう……だから、朔夜姫さまは最初から鉄馬を選んだ」


 腕組みをした竜剣が言った。

「理由はそれだけじゃない、鉄馬の妹の灯花も関係している……灯花の中には悪目の心が入ってしまっている」

 竜剣の口から灯花の名前が出て、鉄馬は少し驚く。

(灯花のコトを話している?)

 竜剣の話しは続く。

「もしも、妹が悪目になってしまったら……鉄馬は動揺するだろう、その時に何が起こるのか予想もできない。朔夜姫さまは少しでも鉄馬を灯花から遠ざける時間を作っているんだ……何か良い解決策は無いものかと考えて」

「鉄馬には、このコトは伝えない方が、良かったり、悪かったり」


 鉄馬は、静かにその場を離れた。

 城の井戸の近くの庭石に腰掛けて、竜剣と魔呪の会話を月を眺めながら思い返していた。

 鉄馬は、少しだけ考えてから伸びをして呟いた。

「いろいろと、考えてもしかたがねぇな……その時はその時だ、灯花はオレの妹に変わりはねぇ」


 鉄馬が月を眺めていると、首から下を薄い銀青色のメタリックに輝く、メタルヒーローのような装甲で覆われた、ショートヘアの少女が歩いてきた。

 時々、ピピピという電子音が体から聞こえている、機人ジャンヌが鉄馬に向かって訊ねてきた。

「ピピピ……鉄馬は、どんなヘヤースタイルの女の子が好みだ?」

「どうして、そんなコトを聞くんだ?」

「わたしの生身の部分が、鉄馬好みの女になりたがっている……ピピピッ、機械の部分が生身の脳部位に指示を出して強制的に鉄馬に愛の告白をさせようとしている……『鉄馬、この体は鉄馬を愛している』ピピピッ、鉄馬の好きな髪型はどれだ?」


 ジャンヌの髪がショートヘアから、肩までのミディアムヘアの長さへと変わった。

「ロングにも、ツインテールにも、ポニーテールにもなれる……どんな髪型が好みだ?」

「最初に会った時のショートヘアでいいよ」

「そうか、今回は擬態と鉄馬とわたしの三人が組んだ……わたしは、どんなコトがあっても愛する鉄馬を守る……ピピピッ、生身の体の血流上昇……この体は愛を強制的に、告白させられて照れている」

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