第六章・狙われた銀鉤銀山【黒貂之裘】
第20話・銀鉤銀山に現れたディストーション帝国
月桂城にもどってきた、鉄馬たちの報告を静かに聞き終わった朔夜姫は、桜貝色の唇を開いて言った。
「そうですか……狂ノ牙が残した言葉と、状況から判断して。石棺に安置していた。お母さまの遺体が奪われてしまったのは間違いないようですね」
魔槍ことランス・ロッドが朔夜姫に訊ねる。
「なぜ、金鏡王妃さまの、ご遺体をディストーション帝国の連中は?」
「理由は、わかりません……どうしました脳医? 険しい表情をして?」
子供姿で白衣コートの脳医こと、フォン・パルモが言った。
「いえっ、少しだけ思い当たるコトがあるので……ワタシが、ディストーション帝国にいた頃。遺体から遺伝子を抽出する実験を、空木悪目がしていたような」
脳医の衝撃の告白に、椅子に座って、拳銃を眺めていた鉄馬が慌てて、脳医に向かって銃口を向ける。
「デ、ディストーション帝国にいただと!?」
骨付き肉を食べながら、擬態ことアストロンが鉄馬に言った。
「鉄馬、落ち着くニャ……脳医が以前、ディストーション帝国の一員だったコトは罪人たちは全員知っているニャ……魚拓に鉄馬に伝えておくように頼んでおいたのに、聞いていなかったニャ?」
「聞いてないよ」
魚拓こと、九十九神唯が、笑いながら言った。
「あっ、脳医のコトを鉄馬に伝えるの忘れていた……ウケるぅ、ちなみに鉄馬が持っている銃、モデルガンだから」
鉄馬の頭の中に、脳医の声が聞こえてきた。
《ワタシがディストーション帝国の牙だったコトは、特に直接伝える必要はないと思って黙っていた……すまなかった》
舞姫こと、宵の明星シャルムが踊りながら言った。
「鉄馬くんも、脳医を認めてやりなよ。今はあたしたちの罪人仲間だよ……脳医にだって、言いたくない過去はあるんだからさ」
構えていたモデルガンを、ウェストポーチに入れる鉄馬。
鉄馬は、腕組みをして少し考えてから、舞姫に訊ねる。
「なんでオレ、舞姫から『くん』付け?」
「だって、あたしよりも鉄馬くんは年下だもん。あたし、こう見えても二百歳は越えているよ」
「二百歳!? ババァじゃ……」
突然、三つ頭の悪食ロック鳥が、鉄馬をクチバシでパクッと頭から挟んで呑み込む。
「はいはい、ロックちゃん、鉄馬くんは食べ物じゃないよ……ペッしなさい」
ロック鳥が呑み込んだ頭と別の頭から「ペッ!」と鉄馬を吐き出す。
放心状態の鉄馬に、近づいた朔夜姫が鉄馬の前に、革の鞘に入った古いサバイバルナイフを置いて言った。
「これは、亡くなったお母さまを護衛していた。
鉄馬にサバイバルナイフを渡してから、もとの立ち位置にもどった朔夜姫が言った。
「では、本題に入りましょう……
「はい、昨夜姫さま」
折り畳み式の木製テーブルを広げたメイド姫は、テーブルの上に紙芝居を立てた。
「ここから先は、わたくしが、銀鉤銀山の町から来た者から聞いた状況を。紙芝居にしてお伝えします……くっ、殺せ」
メイド姫が描いた、紙芝居の絵を見た瞬間。 あまりにも下手な絵に鉄馬は言葉を失って固まる。
「まず、オカドーが大挙して銀鉤銀山の町近くに、突如現れたそうです」
町の近くまで押し寄せたオカドーは、なぜか銀山から離れた位置に陣取って動かなかった。
「オカドーは、明らかに何かを待っている様子だったそうです」
メイド姫が次にめくった紙には、複数の人間のような? 変なモノが描かれていた。
メイド姫は、その場面を無視して紙芝居を次へと進ませる。
「昨夜姫が指名した銀鉤銀山に、向かってもらう罪人は三名……鉄馬、舞姫、そして魔槍ランスロッドの三名でお願いしたいそうです……くっ、殺せ!」
座っていた椅子から派手にコケる、ランス・ロッド。
「ちょっと、待ってください。なぜ、わたしが鉄馬お兄ちゃんと一緒に、銀鉤銀山に……はっ!?」
思わず、鉄馬お兄ちゃんと口にしてしまった魔槍が、壁際で背を向けて落ち込む。
ランス・ロッドを無視して話しを進める昨夜姫。
「とにかく、銀鉤銀山は月魂国の貨幣流通に重要な銀の産出地……守らないといけません」
挙手して質問をする鉄馬。
「ディストーション帝国の目的は、本当に銀山の銀だけなのか? それと、メイド姫が描いた変な人の絵がわからないのだけれど……初老の男性のような、若い女のような童顔の男のような……メイド姫答えてくれ? あの絵はいったいなんなんだ?」
鉄馬は伝説に登場する、複数の胴体が融合した多腕の巨人を想像する。
紙芝居を風呂敷に包んで、片付けていたメイド姫は一言。
「くっ、殺せ」と、だけ呟いた。
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