第19話・金鏡村崩壊!
ウイッグを外してテーブルの上に置いた魔呪がスキンヘッドを布で磨きながら言った。
「脳医の話しだと、ディストーション帝国は、ある重要な目的で金鏡村を襲撃しているみたいだ……その目的がなんなのかは、脳医もわからないと言っていたり、言わなかったり」
光沢のあるツルツルの頭に、魔呪はラクガキをしながら言った。
「鏡文字でツルツルの頭にラクガキするのは、スベって難しかったり、難しくなかったり……とにかく、ディストーション帝国のカイジュー脅威が金鏡村に迫っているのは間違いない、村人の避難をさせたり、させなかったり」
◇◇◇◇◇◇
その日の明るいうちに、村人の避難が開始された。中洲の金鏡村から湖の岸に向かってかかる、数本の橋には避難村民の長い列ができ。
小舟が岸と村を往復する。数時間ほどで村人全員の避難が完了した。
「村人の避難は完了して、中洲の金鏡村にいるのはディストーション帝国と、あたしたち罪人三人……これはウケるぅ」
夕暮れが迫る中、金鏡村の小高い岸から眺める 、森で重なるディストーション帝国前線基地の宇宙船三機──まるで虫の卵のように、菌糸で繋がれて重なっている。
ウィルスのような宇宙船を、金鏡村の岸で眺めていた魔呪が、視線を移して言った。
「満月が昇る……ディストーション帝国のカイジューが近づいてきたり、来なかったり」
こちらに向かってゆっくり進行してくる、黒い小山のような生物の姿が見えた。
皿のように丸い二つの目のカイジューが、赤い口を開けて咆哮する。
鉄馬はカイジューの頭に乗っている、等身の紫色をしたイカを見た。
魚拓が言った。
「カイジューの頭に乗っているのが【狂ノ牙】……本当にイカそっくりな姿をしているのが、ウケるぅ」
イカの体に数個の目が現れ、イカは足をプロぺラのように回転させて少し空中に飛び上がってから、カイジューの頭に着地した。
「イカが、パフォーマンスで自己アピールしている……ウケるぅ」
鉄馬は頭の中で、ディストーション帝国の牙幹部たちを整理する。
ヘソ出し軍服姿で妹の灯花と、瓜二つの『
昼と夜とでは変貌する天使のような姿の【闇ノ牙】
半身ゾンビ娘の不気味な【
マヤ文明かインカ文明の彫像のような黒い【異ノ牙】
そして、カイジューの頭に乗っているイカのような【狂ノ牙】
(オレが知る限り、現れていないのは人間が融合したような姿の【影ノ牙】で……合計六牙か)
鉄馬は、空に昇ってきた満月を眺めながら、何か重大なコトを見落としているような気がした。
(なにかを見落としている……満月、皆既月食の夜……だいたいカイジューはどうして、金鏡村を襲う? こんな何もない中洲の村を。
金鏡村にある目立ったモノといえば、金鏡王妃の墳墓丘くらいしか……墳墓?)
鉄馬は、あるコトに気づいて魔呪に言った。
「オレ、ちょっと金鏡墳墓の方を見てくる……気になったコトがあるから、すぐにもどってくるから」
バイクに跨がり、ヘルメットをかぶった鉄馬は、金鏡王妃の墳墓丘へとバイクを走らせた。
◇◇◇◇◇◇
金鏡墳墓には、群がるオカドーを従えた屍ノ牙……半分ゾンビ娘がいた。
「ひひひっ、おやぁ、お兄さん……カイジューの相手をしなくてもいいの、村が崩壊しちゃうよ。殺して! あたしを殺して!」
カイジューの口から光線のような光りが、水平に発射されたのを鉄馬は見た。
「ひひひっ、滅多に宇宙船から外に出てこない【狂ノ牙】の『イカ』が出てきたってことは、よっぽど新作カイジューの性能を、確かめたかったんだねぇ……ひひひっ」
屍ノ牙は、半分腐って変色した舌で刀の刀身をナメる。
「せっかくだから、お兄さんに良いことを教えてあげる……新カイジンの名前は『モモガテ』アタイが名づけた、近いうちに遊ばせてあげるよ……今はオカドーと遊んでいてね、殺して!」
鉄馬に襲いかかるオカドー。
アイスピックアームとガンアームで、容赦なくオカドーを殺す鉄馬。
「オカドー、死ね」
一つ目を後頭部まで貫かれるオカドー。
胴体を撃ち抜かれて穴が開くオカドー。
「頭ガイタイィ」
「頭ガ、ポポ──ン」
「モウ、イヤダァ……ア──ッ、ア──ッ」
オカドーと闘っている
鉄馬に屍ノ牙が言った。
「ひひひっ、いつも遊んでくれる。お兄さんのコト気に入ったから、お兄さんにだけアタイの本名を教えてあげる……アタイの本名は『
「鉄馬だ、幻月鉄馬」
「幻月? その名字ムカつく! ぶっ殺して! あたしをぶっ殺して! 鉄馬の相手をするのは、今夜はここまで……ひひひっ、準備が整った、はじまった」
乱子が空に浮かぶ月を見ていたのに気づいた鉄馬は、満月へと目を向ける。
皆既月食の月は、三日月となり。ディストーション帝国の人工満月が昇っていた。
三日月と満月……あの、屍ノ牙が月桂城内に侵入してきた、夜の再現のように。
乱子が言った。
「屍の道が開かれた」
地面に潜り消えていく屍ノ牙。
最後の一匹のオカドーを倒した、鉄馬が唇を噛み締める。
「しまった、防げなかった」
カイジューを使った陽動作戦だと、鉄馬が気づいたまではよかった。
金鏡王妃の墳墓内部に侵入するのが、ディストーション帝国の本当の目的だったと。
その時……咆哮とカイジューが倒れる轟音が響き、鉄馬は急いで魔呪と魚拓のところにもどる。
うつ伏せで絶命しているカイジューと、近くで傷つき地面に倒れている、魔呪『クッター・フィ』と魚拓『九十九神唯』の姿があった。
魔呪と魚拓の呟く声が聞こえる。
「やられて、痛かったり、痛くなかったり」
「イカにやられちゃった……ウケるぅ」
傷つきながらも二人の罪人は、なんとか無事だった。
魔呪に駆け寄る鉄馬。
「大丈夫か、魔呪、魚拓、狂ノ牙はどこに?」
その時……カイジューの死体を越えて、プロぺラのように足を回転させた狂ノ牙が鉄馬から、少し離れた位置に着地した。
魔呪が鉄馬に言った。
「鉄馬、逃げろ! 鉄馬が敵う相手じゃなかったり、なかったり」
鉄馬は、片手をライターのファイヤーアームに変えて、狂ノ牙に向かって火炎放射をする。
「焼きイカになれ!」
燃え上がる狂ノ牙。
焼けたイカの香ばしい香りが漂う。
(なんだ、狂ノ牙ってたいしたコトないな)
鉄馬がそう思った時……焼ける外皮を脱皮した、狂ノ牙が炎の中から飛び出してきて足を回転させながら、鉄馬に襲いかかってきた。
「キュキュウゥ」
空中を飛んできたイカのヒシ形の、鋭い刃物状のイカ足が鉄馬の脇腹をかすめる。
「ぐっ!」
少し斬られて脇腹に血が滲む鉄馬。痛みに耐えながらガンアームに変えてイカを撃つ。
「キュキュウゥ……〝し~るど〟キュウゥ」
弾丸が弾かれる。
驚く鉄馬。
(このイカには、攻撃が効かない!? 弾かれる)
その時、森の方からカラスのような黒い鳥たちが騒ぐ鳴き声が聞こえ、菌糸で連なっていたディストーション帝国宇宙船の一番上の船が、菌糸を千切って上空へと浮かび上がった。
イカが言った。
「きんきょう王妃の遺体は、もらった……早く村からはなれろ、この村はオカドーの、群生地にかわるキュキュ」
そう言い残してイカは、飛んでどこかに行ってしまった。
痛む腕や体を押さえて立ち上がった、魔呪と魚拓が鉄馬に言った。
「金鏡村から脱出する、中洲と湖の岸を繋ぐ橋をすべて破壊する……オカドーを、少しの間でも中洲に閉じ込めるために……敗北だったり、罪人の負けだったり」
◇◇◇◇◇◇
鉄馬たちが渡った橋を破壊したのと、ほぼ同時に森に残っていたニ機のディストーション帝国宇宙船が、破裂して中から大量のオカドーが溢れ出す。
「ア──ッ、ア──ッ」
「頭ガ、痛イヨウゥ」
金鏡村はオカドーに占拠された。
第五章・金鏡村崩壊?【草木皆兵】~おわり~
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