第2話・侵略はある日、突然開始されて世界が一変する

 その日の放課後──敵対している他校の不良グループが、河原の広場でリーダー同士のタイマン勝負をする。

 と、いう話が鉄馬の耳に届いた。

 そのタイマンをする原因が、妹の灯花を巡った男同士の意地の張り合いだと知り。鉄馬は手の平に拳を打ちつける。

「あいつら、あれだけ言ったのに。オレの許可なしに、可愛い妹を取り合いしやがって」


 鉄馬はバイクに乗ってエンジンを吹かすと、河原の広場に向かった。

 河原では、二つの不良グループが対峙していた。

 そのグループから少し離れた真ん中あたりの場所には、不安そうな表情の制服姿で、学校指定のルーズソックスを穿いた 灯花が立っていた。

 

 歩み出てきた、それぞれのグループのリーダーがタイマンで睨み合う。

 両グループから声が飛ぶ。


「灯花ちゃんの彼氏に相応しいのは、うちのリーダーだ! おまえたちは引っ込んでいろ!」


「おまえたちこそ帰れ、オレたちのリーダーが、灯花ちゃんの彼氏にはお似合いだ!」


 リーダー同士が睨み合う中──爆音を響かせて幻月鉄馬が現れた。

 鉄馬が言った。

「おまえたち、まだこんなコトやっていたのか……灯花の前でのケンカは禁止だ……オレの許可なしに妹の彼氏を名乗るコトは許さねぇ」


 不良グループのリーダーが現れた鉄馬に言った。

「わかっていますよ、鉄馬さん……オレたち、鉄馬さんから忠告されてからケンカは一度もしていません」

「オレもグループの連中には、対立はしてもケンカはするなと言ってあります」

 鉄馬は町の不良連中からも、一目置かれている存在だった。


 それぞれのグループの連中が口々に、鉄馬にいい子ちゃんアピールをする。

「道に落ちている空き缶や、ペットボトルのゴミを拾っていまっス」

「駅前や公園の清掃活動していまっス」


 自分たちのリーダーを少しでも良く見せようと、不良グループのいい子ちゃんアピールは激化していく。

「横断歩道を渡るガキのために、横断旗で車両止めたり……スマホ見ながら歩いたり自転車乗っていりいるヤツから、スマホ取り上げて注意しています」


「オレたち、ケアハウスの老人ホームに出向いて、ジジィやババァの昔話につき合って地域貢献しているぞ」


「それがどうした、オレたちは幼稚園や保育園に行って、ガキたちの前で『不良ヒーローショー』をやっているぞ!」


 鉄馬が、バイクを吹かして、不良たちのいい子ちゃんアピールを中断させる。

「おまえたちのリーダーに対する熱い想いは、よーくわかった……展開次第では、灯花をどちらかのリーダーにくれてやってもいいぞ」

 鉄馬の言葉を黙って聞いていた灯花は、拳を握りしめて震えながら小声で。

「あたし、もらい手を探している子ネコじゃない……お兄ちゃんも、なに言っているのよ」

 そう呟いた。

 この時──灯花の肩越しに、赤い染みのような影が蠢き、すぐに消えたコトに誰も気づいていなかった。


 鉄馬が二人のリーダーに訊ねる。

「それで、おまえたちどんな方法で、勝負するんだ?」

「ラップ勝負です、妹さんへの熱い想いをラップに乗せて伝えます」

「おもしれぇ! 勝敗のジャッジはオレがやってやる」


 ワナワナと震えながら灯花が呟く。

「だから、あたしモノじゃないって」

 この時──灯花の背中側には赤い染みの空間が、生き物のように広がりつつあった。


 不良グループリーダー二人の、恋のラップバトルがはじまった。

 甲乙つけがたいハイレベルの、ラップバトルを聞き終わった鉄馬が言った。 

「困ったな、どちらも互角の実力だ……灯花、おまえのどちらのリーダーが……」

 妹の灯花に目を向けた、鉄馬の表情が固まる、灯花の身に怪異が起こっていた。


 灯花の背後に赤い染みのような空間が広がっていた……空間の一部は、灯花の顔にもかかっている。

 怪異に凍りつく河原。

「灯花……おまえ」

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 灯花本人は、まったく顔にかかっている、赤い染みの空間に気づいていなかった。


 突然、赤い空間の中から白い鳥の翼のようなモノが出てきて、灯花の体を包む。

「なにこれ? きゃあぁ!」

 翼は手のような形に変わり、灯花の体を赤い空間の中に引きずり込んだ……一瞬の出来事だった。

 灯花が消えた赤い空間からは、さらなる怪異が現れた。


 赤い空間の向こう側に、軍服姿で灯花と顔立ちと背丈が、そっくりな女が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。


 丈が短いヘソ出し軍服のヘソには、宝石のようなモノが埋め込まれているのが見える。

 短い軍服スカートを穿いた、灯花とそっくりな女の周囲には不気味な一つ目の生き物たちがいた。

 イガグリの坊主頭で一つ目、子供のような身長の肌色の生物……耳はなく、大きく湾曲した口の中にはギザギザした歯が生えている。鼻は縦に穴が二つ開いているだけだった。

 一見、裸のように見える奇怪な一つ目生物の体には、性器の類いは確認できなかった。


 灯花とそっくりな顔の女が、ブーツを履いたミニスカート軍服の足で赤い空間をまたいで、鉄馬たちがいる空間に出てきた。

 女に続いて、一つ目の化け物たちも、ピョンピョン跳ねて、鉄馬たちの世界に出てきた。

 灯花の顔をした女は、鉄馬のいる世界を見回して言った。


「この世界の、あたしは捕獲した……もう、この世界に用はない……利用価値がない、ちっぽけな世界だな【月魂国】に行くついでに侵略の置き土産をして滅ぼすか──蚕食鯨呑」


 女が片手を不良グループたちに向けて、一つ目の化け物たちに指示を出す。

「『オカドー』この世界に数十体残って……価値がない、この世界を滅ぼせ」


 オカドーと呼ばれた、一つ目でイガグリ坊主頭の化け物たちは、口々に奇声を発して不良グループに襲いかかる。

「ドンナ脳ミソシテイルンダ!」

「ア──────ッ!」

「ギギギギィ」


 アメーバのように伸びる腕、ミトン状の手をしたオカドーは、不良たちの体に飛びつき覆う。

 不良の悲鳴が響く。

「うわぁ!」

「ぎゃあぁ!」

 完全に溶けたオカドーの化け物に体を包まれた不良たちは、弾けるように分離して複数の増殖オカドーに変わった。


 なぜか、オカドーは鉄馬を警戒して近づいてこない。

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