たまにはちょっと、そんな気分 3


本日更新2話目

夜にも更新できそうだったので更新です٩( 'ω' )و


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 町の南側。

 湿地帯にほど近い雑木林。


小柄なラミニムカルヴ、いるかな?」


 ワクワクという擬音を背負うかうのように前のめりになっているニーオン少年。

 それを見ながら、バッカスが苦笑する。


「居ないワケがないだろ。

 数を増やしているから間引いてきて欲しいって依頼なんだからよ」

「そうなんだけどさ! 気分だよ気分!」


 ニーオン少年はとにかく元気で前向きで明るくて熱い。あるいは暑苦しい。


 それをたしなめるのが仲間であるガリル少年とアーランゲ少年だ。


「あまり大声を出すなよ、ニーオン。

 ラミニムは、カルヴ種の中でも臆病な部類なんだぞ」

「それに逃げられないって判断したら、集団で襲いかかってくるって話だよ」

「そうだったそうだった。悪い悪い」


 仲間からツッコミを入れられて、バツが悪そうに頭を掻くニーオン少年。見ている分には、仲間からの苦言を受け入れて、ちゃんと反省しているように見える。


「そういや、少年たち。

 おっさんは一つ聞いてないコトがあるぞー」

「え? 何ですか?」

小柄なラミニムカルヴを間引くって、何匹倒すつもりだ?」


 バッカスの問いに、少年たちは顔を見合わせた。

 どうやら、考えていなかったようである。


(ふむ。増えすぎてるってコトは、天敵が減ったってコトだとは思うが……)


 少年たちが顔を付き合わせて悩み出したのを横目に見ながら、バッカスは雑木林を見回した。


 カルヴ種とは、爬虫類と四足獣の中間のような見た目をした魔獣だ。

 ワニやトカゲのような鱗を持つ狼――のようなモノというのが一番近いか。手足の先端も、獣というより爬虫類の方に近い。


 標準的なサイズが、牛や馬と同じくらい。

 カルヴ種の中には地元の人間と共存し、時にその背に人を乗せて走ることもあるという。


 俊敏かつパワフルで、正面切って戦うとどの種もかなり手強い。

 種によっては、森の中の木々を飛び回って立体的な狩りを行うものもいるくらいだ。


 そんなカルヴ種の中で、小柄なラミニムカルヴは、名前の通りかなり小さい種である。

 前世のゴールデンレトリバーと同じかそれより小さいくらいだ。


 俊敏性もパワーも小柄ラミニムなので、カルヴ種の中では一番弱い。ただ、ほかのカルヴ種と異なり集団で狩りを行う習性がある。

 しかも、群れではなく、同族による仲間意識によるモノらしい。集団行動をする必要がない時は、基本的には単体でいることが多い。


 そんな小柄なカルヴは、この雑木林を中心にして生息している。

 この近辺では珍しくはない魔獣だ。


 雑食で、草木や虫をバリバリ食べてしまう為、数が増えすぎると雑木林が荒れる。

 そうなると、この雑木林に生息している別の生き物が、外へと流出し、人里を荒らしたりするかもしれない。


 その為、定期的に討伐依頼がでる魔獣ではある。

 だが、天敵ともいえる肉食獣がいる為、その数を減らしている場合などは討伐依頼が出ない月があったりもする。


(その天敵はどこへ消えた……?)


 ぼんやりと、雑木林のそばを流れる川を見る。

 その川の上流にあるのは――


(レーシュ湖……モキューロの森か。

 エメダーマの鼠同様に、モキューロから生じた何かのせいか?)


 この場合、何かというのは決まっている。ゾンビだ。


(影響が洒落じゃすまなくなってきてないか?

 いつからモキューロに異常があったんだかなぁ……)


 バッカスは眉をしかめた時、ガリル少年から声がかかる。


「バッカスさん」

「ん? なんだ、話はまとまったか?」

「違うんです。何匹間引けばいいのか、わからなくて……」


 困った顔をするアーランゲ少年に、ニーオン少年もうなずいた。


「だから、おっさんがわかってるなら教えて欲しいんだ」

「なるほど」


 まずは自分たちで考え、それでも答えが出ないなら別の誰かに頼る。

 思いつきだけで動こうとしないところはポイントが高い。


「だが、俺はお前らよりランクが低いかもしれないのに聞くのか?」

「ランクは低いかもしれないけど、おっさんはおれたちより長いコト何でも屋やってんだろ? だったら、仕事の仕方とかは、おれたちよりずっと詳しいじゃん?」


 ニーオン少年の言葉に、ガリル少年もうなずいた。


「オレは弓は使えるが、剣も魔術も使えない。

 でも、ニーオンとアーランゲがいるから、それを補って貰える。

 それと同じコトだと思うんだ。

 バッカスさんの戦闘力はオレたちより低いかもしれない。だけど経験と知識は間違いなくバッカスさんの方が上だと思う。そこにランクは関係ない」


 バッカスは無精ひげを撫でながら、ガリル少年を見る。

 こちらの実力までは把握出来てないようだが、それでも自分に必要なモノと足りないモノを把握しようと努めているようだ。


 そして、それはニーオン少年とアーランゲ少年も同じらしい。


「自分たちの実力を鼻に掛けないところ。保有する能力の有無を全員で共有し理解しあえているところ。悪くないな」


 これならば、バッカスが答えを渡しても驕ったりはしないだろう。

 次回以降は今回の一件をもとに、その場で相応しい選択ができるはずだ。


 だからバッカスは魔獣を間引くという仕事についてレクチャーをする――いや、しようとした。


 その時、だ。


「ば、っ、か、す~ッ!!」

「クリスさんだ」

「え? あの人もココに来てたの?」

「町の時より必死な顔、素敵だ」


 最後にぼそりと呟くアーランゲ少年の顔を、バッカスは思わず見てしまう。

 とはいえ、趣味嗜好はひとそれぞれか――と思い直すと、バッカスはクリスの方を見た。


「そのお仕事ッ、私も手伝うわッ!」

「いらん帰れ」


 ば~ん――という効果音でも背負ってそうな様子で、手を正面に掲げながら鼻息荒く告げるクリス。

 それをバッカスはすげなく切り捨てた。


「そうは言わずに、ね? ねッ!?」


 何やら必死な様子だが、あと数秒もすれば恐らく――


「ダメじゃな~い、ク・リ・ス・さ・ん♪」

「またキタ――……ッ!?」


 バッカスの予想通り、クリスの背後にストロパリカが現れて彼女に抱きつく。


 町の中よりも大胆に抱きついている。

 具体的には、クリスの服の隙間から手を滑り込ませている。


「ちょ、いい加減、やめてってば……!」

「まぁまぁそう言わずに、ね?」


 服ごしに蠢くストロパリカの手は、それだけで一種のフェティッシュさを感じるほどだ。

 身をくねらせるクリスの姿も相まって、刺激的である。


「ストロパリカ」

「なに、バッカスくん?」

「ガキどもに刺激が強すぎる。やるなら余所でやってくれ」

「まぁ! それは申し訳ないわ!」

「私にも申し訳ないと思って!! っていうかバッカスは私を助けて!!」

「ストロパリカもそのうち飽きるだろうから、それまでがんばれ」

「今日のバッカス、私の扱い雑すぎないッ!?」


 しっしっ――と手を雑に振ったところで、ストロパリカがクリスをがっちりと絡め取る。


「ほらほら、外でやるのもオツかもしれないわよ~」

「い――――ゃ――――……ッ!!」


 そうして、クリスをひきずるようにしながら、ストロパリカは雑木林の中へと消えていった。


 姿も気配もドップラー効果すらも完全に消え失せたのを確認してから、バッカスは三人へと向き直る。

 

「それじゃあ、間引きについて説明するぞ」

「やっぱり何事もなかったかのように!」

「っていうか、あんだに騒いでたら小柄なラミニムカルヴに襲われるんじゃ……!?」


 アーランゲ少年がまたもツッコミを入れてきて、ガリル少年が心配を口にする。

 バッカスは、アーランゲ少年を無視して、ガリル少年にだけ答えた。


「大丈夫だろ。二人とも強いし。小柄なラミニムカルヴの集団に囲まれたところで、自力で脱出くらいはできる」

「クリスさんが強いのは知ってるからいいんだけどさ、おっさん。あのいろっぽいねーちゃん。何がしたいんだ?」


 少しだけ真面目な顔のニーオン少年。


「ただただえろいコトが好きなねーちゃんかもしれないぞ?」

「それはない。クリスさんを無視しておっさんとやりとりしてる時のあの人の顔、ちょっとだけ真面目だったからな」

「なかなかの観察眼だ。だがその手の推測は披露する場を間違えると痛い目みるから気をつけろよ」


 軽く警告してから、バッカスは小さく息を吐く。


「呪いの確認と、本当に呪われてるならば解呪。ストロパリカがやろうとしているのはそれだよ」

「え? でもクリスさんは逃げ回ってますよね?」


 アーランゲ少年の疑問はもっともだ。

 バッカスはそれにうなずいてから答える。


「クリス本人が呪いを自覚するのはよろしくなくてな」

「じゃあオレたちもクリスさんには、そのコト言っちゃダメだんだな?」

「そうだ。うっかり口にしてクリスの呪いが爆発した場合、俺はお前たちを許せないかもしれない」


 実際、自覚することで強まる呪いというのも存在する。だがクリスのそれがそうだとは限らない。何より雰囲気からしてそこまで影響の大きい呪いではなさそうではある。

 それでもストロパリカが敢えて説明せずにいるのは、遊び半分の面もあるだろう。


 その辺りを踏まえておきつつも、バッカスは少しばかり大袈裟に話を盛って睨みつけた。


 すると――


「しねーよ!」

「しないよ!」

「しませんよ!」


 三人は申し合わせたワケでもなさそうなにに、同時に声を上げる。


 心の底から、クリスの為に口にするまいと、そう思ったのだろう。

 ルナサといい、少年たちといい、自分には少し眩しすぎる。


 バッカスは小さな笑みを浮かべながら――


「ならばヨシ。

 それじゃあ、改めて仕事の話をするとしますかね」


 ――間引きの話をし始めるのだった。



 この町には将来有望なガキどもが多そうだ。


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