男はみんな、立派な魔剣を持っている 2
ストロパリカが依頼に来た日の翌日。
町の治療院に向かいながら、考え事をしつつのんびりと歩いていた。
考えているのはストロパリカから依頼のあった魔剣のことだ。
初めての依頼だし、どこまで望み通りに出来るかも不明だったので、保留にさせてもらった。
検討する期間を一週間ほど貰い、後日改めて返事をする形となった。問題なく作れそうなら、そのまま作成を進めることの許可も貰っている。
(ストロパリカが欲しがってるのは、ようするに魔剣バンド的なヤツだよな。ストラップ・オン・魔剣とか魔剣ハーネスとか呼び方はどれでもいいんだが)
だが、単純にそれらを造ればいいワケではない。
要望がある以上、それに沿ったモノを造りたいところなのだが。
この一週間でアイデアないしそのアイデアを動かす仕組みの設計が湧かない場合、ストロパリカには申し訳ないが、断らせて貰うつもりだ。
とはいえ、この一週間をストロパリカの依頼だけ考えていけるワケでもない。
別の依頼の為に、バッカスは町にある治療院の一つに用があった。
「邪魔するぜ」
下町にある何でも屋御用達の治療院の扉を開けて、バッカスは中へと入っていく。
受付に座っている恰幅の良いおばちゃんは、入ってきたバッカスの姿を見て声を掛けてくる。
「あら、バッカスさん。風邪でもひいたの? それともケガ?」
「仕事だよ。ノルタいる? 手が空いてないならまた今度でもいいんだけど」
「ルルコチェア先生だったら外出中だよ。往診の依頼があってね」
「そうか。じゃあ、仕方ないか」
この治療院に勤めている医術師ノルタ・ルルコチェア。
彼と直接会って話したいことがあったのだが、別に約束を取り付けていたわけでもない。
機が合わなかったのなら、出直すだけだ。
「待っとくれよ。もしかしたらバッカスさんが顔を出すからって、メモを預かってるんだ」
「お? マジで?」
「ほら」
「ありがとさん」
おばちゃんから受け取ったメモを開き、中を読む。
書かれているのは、ストレイの腕に関する情報だ。特にバッカスが義手を造るのに必要な内容が記載されている。
「これだけの情報があれば材料集めはイケるな」
バッカスがメモを読み終え、それをポケットにしまったところで、おばちゃんが訊ねてくる。
「魔導具が必要な患者さんでもいるのかい?」
「ん? ああ。そんなところだ。その患者のケガを見たのがノルタなんだよ」
「なるほどねぇ、魔導義肢かい?」
「正解。本人の自己申告だけだと、加護や内包魔力の色は、信用しきれないからな」
「身体の部位ごとに相性の良い色が違う人も時々いるからねぇ」
「それな。そこを押さえておかないと、義肢を造るのに必要な素材が分からないってのがあるしよ」
おばちゃんの言葉にうなずきながら、バッカスは「あ、そうだ」と思い出したように手を打った。
「このメモの件とは別なんだけが……おばちゃんさ、患部と融合させるんでなく、外付けで一時的に肉体機能を付与するような義肢に関する理論とか論文とか知らない?」
「また妙なコトを訊ねてくるね。どういう状況だい、それは?」
「健康なヤツの肩に三本目の腕として魔導義腕を付ける的な?」
「義肢でなく魔力操作で動かせる腕型魔導具じゃダメなのかい?」
「触感が欲しいんだとさ。触った感触とか痛覚とか、本物同然のやつ」
「なんだい? 依頼人は幻夢館絡みかい?」
「今の会話だけで当ててくるの怖ぇんだけど」
「このソアン・サンジェンをナメるんじゃないよ。ダテにこの治療院の院長してないよ!」
「ん? おたく、院長だったのか?」
「……バッカスさん、私のコトなんだと思ってたんだい?」
「受付のおばちゃん」
「まぁ暇な時はここに座ってるしね。バッカスさんには院長らしい姿は見せてなかったかもしれないけど」
確かに威厳はないかもしれないけどさ――と、ぼやくおばちゃんに、バッカスは苦笑する。
「まぁいいんじゃねぇの? 親しみやすさってやつも大事だろうさ。たぶんな」
「てきとーなコトを言っちゃって、まぁ……」
ふーっと息を吐いてから、おばちゃんは少し真面目な顔をした。
「ともあれ、バッカスさんが欲しがってる理論や論文に、おばちゃんも心当たりはないねぇ……」
「そうか……となると、貴族街の図書館かねぇ……」
「あそこにだってあるか分からないよ?」
「だよなぁ……」
疑似的に神経が通っているかのような魔導義肢。
実際に出来れば、いろいろと応用の利きそうな技術ではあるのだが。
バッカスが少し考えていると、おばちゃんが訊ねてくる。
「
「ん? どういうコトだ?」
「基本的には義肢との接合面に魔導輪を仕込んで、魔導義肢の制御に使ってるだろ? 義肢と魔導具……これだと一対一だろ?」
「まぁな。義肢一つ制御するのに、魔導輪一つって感じだ」
「だよね? でも、二つの魔導輪と連携する魔導具ってあるのかなって思ったんだよ」
「聞いたコトはないけどな……まぁ理論上は可能だとは思うが」
「そしたらさ一つは脳に近い部分。もう一つは義肢を付ける部位の神経に近い部分。それぞれに魔導輪を装着して、義肢と連動させられないのかい?」
おばちゃんの言葉に、バッカスは顔を上げる。
「そうか。魔導輪は安全と制御の為の装置だと思いこんでたが、同期反応術式は応用できるよな……いや、だがそうすると……」
「もし完成するようなら、商品と設計図の登録を頼むよ。
目的が大人の情事とはいえ、完成すれば医術界が騒ぐ魔導具になるんだからね」
どうやら、おばちゃんには依頼内容を完璧に見透かされているようである。
「あ、ああ。そうだな。面倒だが、完成したらやっとくよ」
ストロパリカ用のモノはともかく、一般普及用のも別途造る必要が出てくるかもしれない。
だが確かに、魔導義肢の考え方が変わってくる発明の可能性がある。
(ストレイの義手にも応用してみるか?
拳を握る指の感覚とか、あるのとないのとでは雲泥の差があるだろうし……)
なかなか面白いモノを造れそうな気がしてきた。
とんだ魔剣依頼だと思っていたが、なかなかどうして楽しくなってきたではないか。
「不能の依頼人も、楽しめるようになると良いさね」
「いやそんな依頼人いねぇよ!」
「つまり依頼の
「勝手に人を不能にすんなッ!」
見透かされているようで、盛大に誤解されていたようである。
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このエピソード入ってから急に皆さんの反応が良くなって笑ってます٩( 'ω' )و反応ありがとうございます! みんな下ネタ・えろネタお好きですね!
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