4.泣き虫令嬢は寝込む
王太子殿下の婚約者となったのち、次期王妃に相応しい品格、知性がないというなんとも恥ずかしい理由で婚約を解消、家族である公爵家からも見放されて修道院送り。
これがいつかの知識によるところの私の人生です。
しかしそれは物語の序章に過ぎません。
婚約者を失った王太子殿下は、その後めでたく恋に落ちました。
そこからが物語の本当のスタートであり、いくらかの生涯を乗り越えて、王太子殿下がそのご令嬢とご婚約するまでが物語の前半の主軸となります。
そして二人が仲睦まじく、時にはぶつかり合いもしながら、国の様々な問題と向き合い、国を栄えさせていく。それが物語の後半部分です。
最後は国が栄え、国民の誰もが幸せになりました。めでたしめでたしで終わります。
甘やかされて育った公爵令嬢だから──。
王太子殿下の婚約者だからと傲慢に振舞っていて──。
身分の低い者、民に寄り添う慈悲の心がない──。
そんな酷い言われようの悪しき令嬢に振り回されてほとほと疲れ切っていた王太子殿下。
次の婚約者の選定を渋っていた最中に、とある令嬢と出会い、恋を知ることで内外共に変わっていく。
それがどこか遠くの国の物語であることを私の記憶が語ります。
私は確かにそれらの文章を読んでいたのです。
名前も完全に一致しておりますので間違いありません。
私はその物語の序章で退場し、王太子殿下が過去を語る場面にのみ登場する公爵令嬢でした。
王城を泣きながら後にして、その後帰宅してからすぐに熱を出して寝込んだ期間は三日間。
私はその間に、物語の序章部分と過去として私が描かれていた文章を繰り返し思い出すことになったのです。
それは熱が出て魘されるというものでしょう?
「シェリー。お兄さまに隠し事はなしだよ?」
救われたのは、お兄さまの態度が一貫して変わらなかったことでした。
物語の兄ならば、王城の庭園で声を上げて泣くという大失態を犯した後の私に、「またか」と吐き捨て冷たい目と声でお説教をするはずなのですが。
そういうことはありません。
いつも通り、いえ、いつも以上に優しい声で、兄は私に尋ねました。
私もまた、この十二年の間に物語を越えて心から兄を信頼出来ていたのでしょう。
頭がおかしくなったと懸念される心配が過ることもなく、洗い浚い兄に打ち明けることが出来たのです。
そしてそれはすぐに両親にも共有されることになりました。
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