第79話 マクシミリアンに転生しました・後編
遂にメキシコに着いた。
史実では、現実を認識していなかったからメキシコシティで夢想的な政策をしていたらしい。実際、やることなすこととんちんかんだったと言われている。
ただ、現実としては俺達はフランス同様の侵略者という扱いで、かつてフランスに逃げた亡命者達しか味方にいない。
まともにやっても勝ち目はない。
となれば、一か八か、この手で行くしかない。
「メキシコよ! 余は貴国の要請に応じて、この国に来たと信じている! だが、余はメキシコの真の意思を知りたい! 皇帝にふさわしいかどうか、投票してもらいたい!」
そう、俺は国民投票を呼び掛けたのだ。
当然、フランスもシャルロッテも激怒した。
フランスにはこう説明する。
「貴国の
シャルロッテにはこう言う。
「真に皇帝たる運命にあるならば勝つだろう。そうでないのならば運命なのだ」
現状を見るに惨敗するはずだ。
そうなれば、フランスもシャルロッテも正統性を失って諦めるしかない。
また、万一勝った場合には「国民の信任を得た皇帝」という肩書がつく。そうなると、史実ほどのぼろ負けはないはずだし、負けても国民の信任を得た皇帝を処刑はできないだろう。ナポレオンと同じく退位から隠居という生活が待っているはずだ。
ニート暮らしが待っているのだから、どちらにしても悪くはない。
ちなみにフランス軍は順調に苦戦している。
俺もフランスの手先と見られているのだろうから、多分、嫌われているだろう。
そう思っていたのだが……
「信任を得た……だと?」
1865年5月に行われた皇帝信任選挙では、50.2%対48.4%という僅差で、皇帝信任という結果が出てしまった。
どうやら、フランスと関係なしに信任投票をするということで、多くの者が「メキシコに皇帝がいた方がいいのかどうか」という皇帝制度への信任投票になってしまったようだ。
メキシコは国内は大混乱だが、アメリカにぼろ負けして悔しい思いをしている。
「メキシコ一国でアメリカに勝つのは難しいから皇帝制度を設けて、ヨーロッパとの繋がりを維持するのは大切だ」
と多くの者が考えたようだ。
予想外の結果を受けて、俺達だけでなくベニート・フアレス大統領も方針を変えなければならなくなった。
で、とりあえず一度面会しようということになった。
皇帝と大統領の面会という中々ない話だが、奴は保革抗争のさなかでドサクサ紛れに大統領になったのに対して、俺は国民の信任を受けている。
だから、実は俺の方が立場が強い。
もっとも、立場云々考える必要もないかもしれない。
ベニート・フアレスは改革派だ。しかもかなりの革新派だ。
俺も立場的には自由主義だから、目指す方向性自体はそれほど変わるわけではない。
結局、争点は『フランスをどうするか』ということになる。
ぶっちゃけ史実ではマクシミリアンを見捨てて撤退していくわけだし、フランスの立場を考えたも仕方ないんだよなぁ。
「俺もヨーロッパの皇族なんで、面と向かってフランスにダメ出しはできないが、基本、追い払ってくれていいと思っている」
「……分かりました。皇帝陛下、万歳!」
よっしゃあ!
フアレスと合意できたぞ、これで俺が死ぬ線はなくなった!
実質的な政治は大統領がやるのだから、皇帝制度は日本の天皇みたく、儀式だけやってのんびり過ごせる立場へとシフトしていくぞ!
残念ながら、そう甘い話ではなかった。
ラテン系は熱くなるとやり過ぎる。
俺がフランスを切り捨てたことで、フランスに亡命していた連中が革新派のターゲットとなった。
彼らは国家の裏切り者としてことごとくが殺され、その身内まで血の制裁を受けることになった。
こうなると、残った連中が収まらなくなって、過激な方向へシフトしていく。「フアレスは憎い。しかし、俺達を捨てたマクシミリアンはもっと憎い。奴に血の裁きを」という路線へと進んでいく。
フアレスは合意したけれど、忠誠を誓うレベルまでは行っていない。
皇帝が狙われているという報告を聞いても、「警護を強化したまえ」と非常に曖昧に答えるだけだ。具体的にどうしろとは言わない。
そして、俺に向けられた銃口が火を噴く日がやって来た。
"女神の総括"
「……中南米って死刑廃止国ばかりだが、これだけ復讐心が強くて私刑意識も強い連中が国家権力握ったらと思うと、そうなるのも無理ないな」
『でも、皇帝になった途端、本来の支持層をバッサリ斬り捨てるのはさすがに無謀だったんじゃない?』
「革命派があそこまで流血沙汰にするとは思わなかったんだよ! しかも、恨みは全部俺の方に来るんだからやってられねえよ」
『シャルロッテも一緒に暗殺されたけど、フランスに見捨てられて絶望したまま50年以上発狂した状態でいるのと、夫と暗殺されるのとどちらが幸せなのか、判断が難しいわね……』
「……確かに」
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